第262回:道路脇の小屋に和風の女性!? 2012年上半期 イタリア魅惑の道ばたスナップ
2012.09.14 マッキナ あらモーダ!第262回:道路脇の小屋に和風の女性!? 2012年上半期 イタリア魅惑の道ばたスナップ
りんご箱の思い出
ボクが住むトスカーナの小中学校は、6月から続いた3カ月近い長い夏休みが明けようとしている。
それで思い出すのは、ボクの小学校時代だ。ある年のこと、夏休み前の最後の日に、日頃は持ち帰らない教科書を持って帰ろうと紙袋に詰めて学校の門を出た。すると、こともあろうに200メートルほど歩いたところで、袋が破れてしまった。
とっさに周囲を見回すと、道端に木箱が捨てられていた。ボクはそれに教科書を詰め、抱えて持ち帰ることにした。
家に帰ると母親は、巨大な木箱を抱えて持ってきたボクに驚くと同時に、その木箱を見て、「誰かの故郷から送られてきたものかしらねぇ」としみじみ言った。
木箱には、ボクの小学校と同じ系列の大学の寮名と女性の名前が油性マジックで書いてあった。たしかに、ボクが箱を拾ったのは女子寮の前だった。北国に住む親が、上京して大学で勉強している娘に、りんごを送るための箱だったのだろう。
ちなみにボクは、しばらくその箱を部屋に保管し、りんご箱を机にして創作に励む駆け出しマンガ家を気取っていたのを覚えている。
そうした思い出からか、イタリアに住んでいる今も、路上の片隅のモノに気をとられ、思いをめぐらすことが多い。
今回は、ここ半年のうちイタリアでボクが目にした面白風景を、よりすぐって紹介しよう。
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有名菓子店の段ボールから人の立て看板まで
まずは、りんご箱同様、不要物編から。
【写真1】はボクが夏前に、必要に駆られてわが街シエナで段ボール集めをしたときのものである。収集したものをよく見ると、かなりの確率で「ナンニーニ 菓子店」「ナンニーニ コーヒー店」のものが混入していた(【写真2】)。
いずれも、元F1ドライバー、アレッサンドロ・ナンニー二が祖父の代から続く菓子店を引き継ぎ、シエナで営んでいるものである。
ちなみに彼は2011年5月、シエナ市長選に立候補して落選したものの、同時に行われた市議会選において、比例第1位で登録していた自身の党で当選し、議員となっている。
変わって【写真3】は、あるDIYセンターの片隅で発見したものだ。誰かが新しいガーデン用の置物を購入した際、放置していったのだろう。悲しげな背中が気になる。きっと、元オーナーが代わりに買っていった七人のこびとを恨んでいるのに違いない。
本当はライオンなのだろうが、かつて「いすゞ117クーペ」のシンボルマークとして採用されていたこま犬が、粗末に扱われているような気がしてしまうのは、やはり日本人だからであろうか。
はたまた【写真4】の光景を目撃したボクは、あまりの人物のリアルさに一瞬息が止まり、思わず「大丈夫ですか!」と声をかけたくなった。
発見したのは、元図書館を改装し、カフェを兼ねた書店&文房具店として開店したものの、保守的なシエナの街では時期尚早だったらしく、1年足らずで店じまいしてしまったところの前だった。せめて最後に目立ってやろうという、店主の憎しみが込められているような気がした。
小屋の中から見つめるおばさん
変わって次は街角編である。
【写真5】は郊外の道に駐車していた車両だ。ドレスアップしたフロントグリルの片隅には、「武士道」の文字がプリントされている。
こちらでチューニング系パーツに漢字をプリントするのは今に始まったトレンドではないが、日本人から見るとヘンテコな書体が多い。対してこの「武士道」は、かなりちゃんとしたフォントである。前面にこびりついた無数の虫が疾駆してきたムードをさらに盛り上げている。もしオーナーがいたら、ドライブ用BGMとしてYMOの「ライディーン」を薦めてあげたかった。
【写真6】はフィレンツェの大型ショッピングセンターで発見した買い物用カートである。
とかく子どもはカートを押したがるゆえ、おぼつかない操作で他の客にぶつけたりして迷惑をかける。しかし、これなら子どもを“クルマ”に乗せてしまえるうえ、子どももそこそこ“コクピット感覚”が味わえて満足であろう。ナイスなアイデアだ。車体側面のマークからわかるとおり、洗剤メーカーのキャンペーンを兼ねたものである。
いっぽう次の【写真7】は、イタリアで以前からよく見かける光景だ。
これは、魚など水分を含んだものや冷やしておかなければならないものを運ぶときに用いられる手法である。そのため、湖や海の近くだと目撃する頻度がいきなり高くなる。このままでアウトストラーダを走っているドライバーがいるのに驚くいっぽうで、市街地ではネコが獲物を狙って飛び出してこないか、心配でもある。
しかしながら今回のグランプリは、スーペルストラーダ(アウトストラーダより一級下の自動車専用道路)沿いで見つけた【写真8】の小屋に贈呈したい。このワインレッドの小屋は、ANAS(アナス)という旧公団系の道路会社のもので、イタリアの国道やスーペルストラーダを走れば、必ず目にする。
アナスの小屋は、このような小さな資材保管用の無人小屋から、大きいものでは「カントニエーレ」とよばれる道路管理作業員が家族と住める駐在所タイプまで、さまざまである。
ちなみに駐在所タイプの中には、近年の株式会社化を機に払い下げられたものもあるらしく、次の人が壁の色を変えずにそのまま住んでいる、ややこしいものもある。
写真に話を戻そう。【写真8】で注目すべきは左に貼られたアインシュタイン風ステッカーではない。柵付き窓の中である。人形がのぞいているのだ(【写真9】)。人形の出来が稚拙すぎるせいか、フェラーリのレーシングドライバーにも、帯を巻いた日本のおばさんにも見える。
それはともかく、たとえ民営化しても役所然とした道路会社にも、こんなユーモアを備えた管理作業員がいることに、ホッとしたボクだった。
発見した日以来、毎回そこをクルマで通過するたび、今日も彼女が健在か、一瞬確認してしまうようになったのは言うまでもない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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