ポルシェ・ボクスターS(MR/6MT)【試乗記】
軽くても残る、ポルシェの重み 2012.08.19 試乗記 ポルシェ・ボクスターS(MR/6MT)……1139万6000円
7年ぶりにフルモデルチェンジされた、新型「ボクスター」が日本に上陸。オプションてんこ盛りで価格差のなくなった「911」との違いについても考えてみた。
パーフェクトな「ボクスター」
乗ったのは、ポルシェジャパンに入ったニュー「ボクスター」の試乗車第一弾、「S」のマニュアルだ。“新型”を実感したのは、走り出してすぐ、というか、止まってすぐだった。ボクスターにもアイドリング・ストップ機構が付いたのだ。エンジンがより近くにあるためか、「911」より再始動時のショックは大きい。「とりあえず停車したらアイドルストップ」という方針らしく、電圧が下がっているときは、まだ信号待ち中なのに、突然、再始動ということがよくある。そのたびにドッコイショ的な揺れを感じるのは、少し気になる。だが、このあと2日間試乗して、ネガ方面で気になったことといえば、その一点だけだった。それくらい、7年ぶりの新型はパーフェクトなボクスターである。
しかも、試乗車には400万円超のオプションが付いていた。そのうち直接“走り”に関係するのは「セラミックコンポジットブレーキ」(130万円!)や「スポーツクロノパッケージ」や「アクティブサスペンション」や「トルクベクトリング」や「20インチホイール」など、240万円ほどだが、総額1140万円といえば、「911カレラ」のMT(ただしボクスターの6段に対して、7段)が買える。それだけに、今回乗っていて、911との違いということにしばしば思いをはせた。
スタイリングのポルシェ・アイデンティティーが強いため、フト忘れがちだが、ボクスターはオープンカーである。もれなく青天井が付いてくるポルシェだ。新型のソフトトップからはついに手動ロックレバーが廃止され、作動はフルオートになった。「あ、雨だ!」と閉めれば、実測9秒32。ウサイン・ボルトより速い。
何をやってもこわくない
全長で3cm、ホイールベースは6cm延び、放っておけば20kgほど重くなったはずなのに、新型は逆に35kg軽くなった。ボディーシェルの46%をアルミにするなど、「軽量化」がニューボクスターの大きなテーマである。
しかし、軽くしたにもかかわらず、乗り味を軽くしていないところがスゴイと思う。Sに載る直噴3.4リッターエンジンは5psアップの315ps。車重1320kgのMTモデルは当然、新シリーズ随一のパワー・ウェイト・レシオを誇る。にもかかわらず、相変わらず乗り味に軽々しさはない。たとえば、「トヨタ86 GT」は1230kgだが、とても90kgの差とは思えないほど「中身が詰まっている」感じがするのは、いったいなぜなのか。答えは出せないが、まさにその重みが、ポルシェに共通する“らしさ”であり、ありがたみだ。ボクスターが軽量「981」世代になっても、「ポルシェの重み」はいささかも失われてはいない。
とはいえ、コーナリング時の身のこなしにはさすがに軽量化の効果が感じられる。ズシリと重い手応えのクルマが、ワインディングロードでは以前にもまして軽快さをみせるようになった。ペナルティーエリアに入ったマラドーナみたいに。デフォルトのPSM(ポルシェ・スタビリティー・マネジメント)に加えて、オプションのPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)を備えたシャシーは、ぼくのレベルでは何をやってもこわくないほど安定している。ちなみに、ポルシェが公式に発表しているニュルブルクリンク北コースのラップタイム7分58秒は、旧型より12秒速いという。
カッコよさを増したスタイリング
オープン2座のボクスターに対して、911は2+2のクーペである。911の後席にはロードバイク(自転車)が2台積めたが、ボクスターは助手席に人を乗せると、自転車は1台も積めない。シート背後までエンジンが迫っているので、背もたれを倒して仮眠をとることもできない。
しかし、ボクスターの美点は、ミドシップ2シーターならではのドライビング・コンシャスなコクピットだ。タイトだが、窮屈ではない。その居住まいのおかげで、911よりもスポーツカーっぽい。「911を着る」という表現は、いまやボクスターにこそふさわしい。
やはりフルオプションの911カレラSでひと月前に走った峠道へ行った。そこにはローリング族退治の凶悪な段差舗装がある。ボクスターSもすばらしく安定していたが、乗り心地だけは911に及ばなかった。911はそんな逆境下で大入力を加えられてもなお乗り心地がいい。足まわりのフトコロが深いのだ。
新型ボクスターのパワー・ウェイト・レシオ(小さいほど速い)は4.9〜4.3kg/psだが、新型911クーペは4.0〜3.6kg/psと、やはり一枚以上上手である。オーバーラップもしていない。軽量化をテーマに掲げても、勇み足は許さない。「いつかは911」と思わせるヒエラルキーをけっして崩していないところが、ポルシェのしたたかさである。
でも、オープンルーフというアドバンテージを持つボクスターには、もともと「911なにするものぞ」の志があったと思う。911同様、耽美(たんび)的なカッコよさを増したスタイリングは新型のあらたな魅力だ。フルオプション1100万円オーバーのボクスターSもいいけれど、早く584万円の素のボクスターにも乗ってみたい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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