ホンダ・ザッツ(FF/3AT)【ブリーフテスト】
ホンダ・ザッツ(FF/3AT) 2002.02.21 試乗記 ……124.9万円 総合評価……★★★ザッツ、“mono”感
販売好調つづく「ライフ」はそのままに、同車のコンポーネンツを活用して登場した「あれだッ」ことニュー軽が「That's」。身のまわりの“モノ”感が開発コンセプト。四角く角が丸い「ラウンドスクエア」なカタチは、軽自動車の限られた寸法内で最大の居住空間を得る、という機能要件より、むしろ「シンプル」で「さりげない」「力強さ」を訴えるデザイン面からの要求。ライフより+15mm車高が高いのも、ルーフを“視覚的に平らに見せる”ため、緩いアーチをつけた結果だ。
高い着座位置のシートに座れば、立ったピラー、垂直に近いサイドパネル、そして大きな面積のグラスエリアで広々感いっぱい。外と内を仕切るサイドシルをなくし、FFの特性を活かしフロアをフラットにして、さらに内壁側面と天井の間にカドをつけて境を明確に……と、“ワンルーム感覚”を出すため天地に小技を利かせる。ミニバンで立つ自動車メーカーとして車内……というか、室内の研究に余念がない。
一方、「0.66リッター直3+3段AT」といった機関部は、ライフからのキャリーオーバー。まあ、大事なのは“mono”感ですから。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「That's」は、2002年2月8日から発売が開始された軽自動車。「さりげなく使える日常的な身のまわりのモノ」をコンセプトに開発された。ライフのプラットフォーム、ドライブトレインに、「ラウンドスクエアデザイン」を謳う、四角く角が丸いボディを載せる。エンジンは、0.66リッター直3NA(52ps、6.2kgm)と同ターボ(64ps、9.5kgm)の2種類。いずれも3段ATと組み合わされる。FFのほか4WD車あり。7色のボディペイントほか、「クリオネシルバーメタリック」をベースに、バンパーの色を変えた2トーンカラーも7種類用意される。
(グレード概要)
ザッツのグレード構成はシンプルだ。NA、ターボとも、FFと4WD(いずれも12.0万円高)の2種類。室内装備に違いはない。機関面での差異は、FFモデルは前後にスタビライザーを装備するが、4WDはフロントのみということ。テスト車のザッツ(FF)は最もベーシックなモデル。ただし、タイヤはオプションの13インチホイールを装着したことにより、素の「145/80R12 74S」から「155/65R13 73S」にアップしている。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
「テーブルに置かれたパソコン」をイメージして仕上げられたインストゥルメントパネル。シンプルで見た目すっきり。大きな速度計、わかりやすいセンターパネルのスイッチ類、インパネ下に横断したモノ入れと、使い勝手はいい。デザインされたシフトレバーもカワイイ。が、ディンプルが穿たれたフェイシア、光沢感あるシート地、黒と銀でまとまられたインテリアカラー、なぜか「コンクリート打ち放し」という80年代のキーワードが、リポーターの頭には浮かんでくる。
(前席)……★★★★
ホンダ車には珍しく(?)座り心地のいいシート。座面、背もたれともサイドが柔らかく盛り上がっているのがイイ。クッションも工夫され、むやみにオシリが沈まない。「スペースファブリック」と名付けられたシート地は手触りクール、かつ滑りにくいのが立派。サイドシル(ドア下端部のフロアの段差)がないため、すんなり足先を車外に出せるのもThat'sの長所。高張力鋼板を車体側面(ほか)に採用、ボディ剛性が確保できた恩恵だ。
(後席)……★★
ザッツの後席は、“プライベートルーム”のモノ置きスペース。シート貧相。座面は短く平板、バックレストも平らで高さが足りず、ヘッドレストも頼りない。背もたれはリクライニング可能で、足先は前席下に入れられ、ヘッドクリアランスはありあまるほどあるのだが……。
(荷室)……★
床面最大幅88cm、奥行き50cmと必要最小限なラゲッジルーム。ワンルームのクローゼットは、こんなもんでしょ。後席は分割可倒式。座面を前方にズラして沈めることで、前に倒した背もたれと荷室床面の段差を最小限にすることが可能だ。その場合、120cmほどの長尺モノも搭載可能。ちなみに、天井までの高さは約1m。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
52ps/7200rpmの最高出力と6.2kgm/4500rpmの最大トルクを発生する3気筒ユニット搭載。3段ATは街乗りに焦点を絞ったギア比を選択。普通に走ると、アウトプットにじゃっかんの余裕を残した3000から4000rpmが多用される。必要十分な動力性能。カムの形状に手を入れたシングルカムエンジンは絶対的には静かとはいえないが、軽自動車としての許容範囲内。気になったのはトランスミッションで、すくなくともテスト車は「ヒーン」という高周波のノイズが常に耳に届いた。高速道路にのると、100km/hでのエンジン回転数は5000rpmを越えるが、なにしろピークパワー発生ポイントが高いから、まだまだ余力を残した巡航だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
乗り心地はしっかりしているが、サスペンションのストローク感がいまひとつ。ときに上下にヒョコヒョコする感じあり。ライフよりフロントを硬め、スタビライザーの径も太くして「回頭性より"ゆったり感"を出した」そうだが、街なかではよくわからなかった。ハードコーナリングはもとよりザッツの得意とするところではないが、それでも変にツッぱらず、ストローク感ないなりにプログレッシブにボディが傾き、挙動に破綻がないのはサスガ。前マクファーソンストラット、後トーションビーム(+パナールロッド)の足まわりは、形式が同じライフの熟成版といったところか。
(写真=河野敦樹)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2002年2月19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:1459km
タイヤ:(前)155/65R13 73S(後)同じ(いずれもヨコハマ A201)
オプション装備:プライバシーガラス、上級オーディオ、13インチアルミホイール、ABS、Aパッケージ(オートエアコン+ボディ同色電動格納式リモコンドアミラー+昼夜切換ルームミラー+運転席側バニティミラー付サンバイザー)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)テスト距離:262.6km
使用燃料:22.3リッター
参考燃費:11.8km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。