ホンダ・ザッツ(FF/3AT)【試乗記】
クールだけどオットリ 2002.02.16 試乗記 ホンダ・ザッツ(FF/3AT) ……124.9万円 『あれだッ』と思わずいってしまうような親しみをもてる存在のクルマになれれば、とネーミングされた、ホンダの新型軽「That’s」。「ライフ」をベースとするザッツのメインターゲットは、ライフから一転して20〜30代の男性だという。2002年2月12日、東京の国立代々木競技場で開催された試乗会にて、webCG記者が乗った。ミニマリズム
「機能や性能をカタチにしたクルマでなく、使う人が気軽に使える心地よさかどうか、自分らしい生活に馴染むかどうか」(広報資料)をコンセプトにしたという、ホンダの新型軽自動車「That’s」(ザッツ)。1993年にスズキの大ヒット作「ワゴンR」が登場して以来、軽自動車の主流はいわゆるマルチワゴンに移り、昨今は新しい背高2ボックスが目白押し。98年10月登場のホンダ「ライフ」シリーズは依然高い人気を誇りながらも、そろそろ新型の欲しいところ。このたび、ライフをベースとした新たなコンセプトのニューモデル投入となった。オリジナルは、2001年10月に開催された「第35回東京モーターショー」に参考出品の「w.i.c」(What is Car?)だ。
ザッツのターゲットユーザーは、自分の生活にこだわりがあって、オシャレなモノ選びのような感覚でクルマを選ぶ人。パソコンにたとえるなら、ヘビーデューティーなタワー型でなく、インテリアにすんなり馴染む「iMAC」を選ぶ人ということか。だからザッツのデザインは、速く走るとか、荷物がいっぱい積めるといったクルマとしての性能をカタチにせず、「気取らない、飾らない、さりげない」モノ感覚にデザインされた。ド派手なバッグは着る服を選ぶけど、シンプルなバッグならどんな服にもコーディネートできるように、シンプルなクルマは誰にでもフィットするってことですね。
だからリポーターは、デザインを重視したファッション的要素が強いクルマなのかと思っていたのだが、エクステリアデザインを担当した、本田技術研究所和光研究所デザインAスタジオの西端三郎氏によると、どうもそうではないらしい。「はじめにデザインありきではなく、はじめはパッケージングがあったんです」と西端氏。ドライバーが「自分のための空間」と感じられる「ファーストカーパッケージ」を実現するため、ルーフの四隅を運転席から遠ざけ、ウィンドウを立たせてレイアウトしたという。つまり広さを目指したワケ。なるほど、それならハコ型ボディは、空間効率が高い。
ザッツを眺めると、全体的にはハコ型ながら角が柔らい曲線が多用されるため、クルマ全体が一つの塊のように見える。サイドミラー以外に大きな突起物はなく、フェンダーなどボディの凹凸も最小限。あえて無表情にしたというフロントマスクは、ボンネット前端からバンパー下部まで、遠目からは繋ぎ目も見えないという念の入れよう。無駄な装飾を省く「ミニマリズム」という手法によって、素材そのものの良さを引き立たせ、シンプルだけれども存在感を出したというのが、西端氏の主張だ。
60km/hまでなら問題ありません
運転席に座ると、窓が遠くて頭のまわりに余裕がある。切り立ったウィンドウのハコ型デザインの本領発揮。大きなフロントスクリーン、広いサイドガラスと相まって開放感たっぷり。運転席からボンネットの端が見え、狭い道を走るときでも見切りがよくてラクチンだ。フロントシートは、座面もシートバックの厚さも控えめだが、やや堅めのクッションで座り心地はなかなかいい。
「部屋感覚」のインテリアは全モデル「黒&シルバー」で統一。銀色に塗装されたダッシュボードやインパネが、ちょっとサイバーな雰囲気を醸し出す。全体に光沢を抑えてあり、クールで清涼感がある印象を受けた。ザッツとほぼ同じコンセプトで登場した、スズキ「アルト ラパン」のなごみ系とは毛色が違う。
リアシートは5:5分割可倒式で足元スペースに折り畳むことができ、両側を折り畳めば大きな荷室ができあがる。また9段階のリクライニングが可能で、前席のヘッドレストをはずして後ろに倒せば、フルフラットにすることも可能だ。座ってみたところでは、前席よりやや高めに設定されたヒップポイントによる景色の良さと、頭周りの広さ感があるから、ただ座っているだけなら窮屈感はない。しかし、身長176cmのドライバーに前席のポジションをあわせて後席に座ると、膝前に拳1つ分の余裕もなかった。足を組むのはツラいかも。
エンジンは、0.66リッターNA(52ps、6.2kgm)と、ターボ(64ps、9.5kgm)の2種類。どちらも直列3気筒SOHC12バルブで、これにコラムの3段ATが組み合わされる。駆動方式はFF(前輪駆動)と4WDが用意され、エンジンとの組み合わせで4種類をラインナップ。装備、トリムレベルによるグレードは、今のところない。
NAモデルで、渋谷周辺を“ちょい乗り”した。渋滞のせいで思い切り加速する機会はほとんどなかったが、前が開けたところでアクセル全開にすれば、クルマの流れに乗れる。3段ATも、街乗りにターゲットを絞った設定だ。60km/hくらいまでなら全然問題ありません。ただし、高速道路の合流などではちょっと緊張するでありましょうが。
ゆったりとした乗り心地にチューンしたという足まわりは、1620mmという最近のセミトール軽にしてはけっして低くない車高でも、コーナリングでフラつくようなことはない。ライフに比べてハンドル操作に対するクルマの反応が、ちょっと「オットリ」している。右も左もクルマだらけの渋滞では、シャカリキに走ってもしょうがないし。ただし、路面の凹凸を通過するたびにコツコツという突き上げが感じられたのは、ちょっと気になった。
(文=webCGオオサワ/写真=河野敦樹/2002年2月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
NEW
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。 -
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】
2025.12.1試乗記ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。 -
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと
2025.12.1デイリーコラム2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。 -
第324回:カーマニアの愛されキャラ
2025.12.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。

































