スズキ・エリオX(4AT)【試乗記】
『洋行ハッチ』 2001.02.06 試乗記 スズキ・エリオX(4AT) ……149.6万円 「これからのスズキを象徴する斬新なデザイン」をまとった、1.5リッター級5ドアモデルのプレス向け試乗会が、神奈川県は大磯で開催された。個性的なリアビューをもつニューモデルは、果たしていかに?
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名実ともに新しい
事前説明会に参加したにもかかわらず、スズキの新型小型車の名前をハッキリ思い出せなかったのである。神奈川県は大磯で開かれる試乗会へ向かう道すがら、「エリアだったか、アエリオだったか、エオリアはティッシュだし……」と考えていた。
正解は、「エリオ」であった。英語の「Aerial(空気の)」とスペイン語の「Rio(川)」からの造語で、「『広々とした空間+流れるようにスムーズな走り』を表現」(プレス資料)したそうである。そこで「風の妖精がリオグランデで泳いでいるの図」を記憶のためのキーにしようとしたが、駐車場に並んだズングリした(ようにリポーターには見える)試乗車群とは、いまひとつイメージが結びつかないのであった。
2001年1月23日に発表されたスズキの5ドアハッチ、エリオは、「ミニバンの居住性」「ステーションワゴンの使い勝手」「セダンの走行性能」の融合を狙った欲ばりなモデルである。新開発の1.5リッターオールアルミユニットを搭載。広く黒いガーニッシュを使ったハッチゲイトがチャームポイントだ。
スズキ(株)商品企画グループ小型車企画長鈴木富士往次長に、エリオの立場に関して、「カルタスの後継車にあたるのですか?」と聞くと、「いいえ、完全な新型車です」とおっしゃる。「現行のカルタス、旧名カルタスクレセントは、セダンとワゴンが残って、ハッチバックはなくなるわけですよね」「そういう意味では、ハッチバックはエリオが担当することになります」。
気合いが入ったモデルなのである。
先々代カルタスの輸出名「スイフト」は、軽自動車「Kei」に1.3リッターを乗せて顔を変えたモデルに引き継がれ、国内でカルタスとして売られるクルマは、海外では「バレーノ」と呼ばれる。まもなく欧州へ出されるエリオは、以前のカルタスの役割り「GMグループのボトムレンジ」を微塵も感じさせない、名実ともに新しいモデルとして認識されることになる、はずだ。
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欧風小型車
トヨタ・カローラが採用したことでありがたみが薄れたが、それでも小型車としては贅沢なグリップタイプのドアハンドルを引いて、乗り込む。
ベージュの、ヘリンボーン調の生地を使ったシートがいかにも洒落ている。ドアトリムにも同じ素材がたっぷり使用され、インテリアの雰囲気は非常にいい。質感とはうらはらに、サイズに不満が残りがちなスズキ車にあって、エリオの椅子は適正な大きさで、控え目なサイドサポートが、そっと体を支えてくれる。
乗降性を考慮して、ヒップポイントは高めにとられる。ところが、いざシートを合わせようとすると、座面が高いぶんペダルまでの距離が伸びるうえ、ステアリングホイールの位置が手前にすぎるように感じられ、「これは膝下の長い欧州人向けだな」と足の短いリポーターは思った。ミニモニのメンバーには、ツラかろう。
エリオの1.5リッター直4ユニットは、1.3リッターのストロークを8.5mmストレッチした、78.0×78.0mmのスクエアなボア×ストロークをもつ。吸気側に可変バルブタイミング機構を備えた、よく回る快活なエンジンだ。
一方、車内はさして静かではない。
驚いたのは足まわりの硬さで、「ヨーロッパ走行テストで徹底的に磨きをかけました」と謳われるが、「ちょっと洋行かぶれなんじゃあないかい」というのが、率直な感想だ。ドライビングポジションといい、乗り心地といい、「メインマーケットはヨーロッパ」といわんばかりである。
風とともに
商品企画の鈴木さんに、再びうかがった。
「エリオのリアビューは個性的でカッコいいと思いますが、全体として、ホンダ・シビックに似ていませんか?」
「そうおっしゃる方もいます」と鈴木さん。「あれだけコンセプトが似ていますとねぇ……。もうすこし早く出せばよかった」と残念がる。
プロフェッショナルなデザイナーの目から見れば、フォルムも、ディテイルも、まるで違ったモノかもしれませんが、素人目には、「シビックの試作第3案」と言われてもわからんゾ。実車に接すると、また別の魅力があるんですけどね。
2000年4月に立ち上げられたスズキの新しい販売チャンネル「アリーナ」で、エリオは積極的に展示されるという。どれだけの消費者が、エリオを実際に見て、試乗することができるのか。その前に、名前はおぼえられるのか? 国内市場で、入魂の新型車が、風とともに去らないことを祈るばかりです。
(webCGアオキ/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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