ボルボS602.4T&T-5(5AT)【試乗記】
『四角い時代の終わり』 2001.03.09 試乗記 ボルボS60 2.4T&T-5(5AT) ……551.7/601.75万円 2001年1月29日から30日にかけて、ボルボS60の「鹿児島プレス発表・試乗会」が開催された。S60は、2000年8月に、スウェーデンはストックホルムで世界に披露された、「たまたまドアが4枚ある」と謳われる流麗なセダンである。新しいミドサイズモデルに込められたボルボの意図とは? 『webCG』記者が報告する。
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馬車の時代から
ボルボS60のプレス向け試乗会は、南九州は鹿児島で行われ、テスト日前夜、基点となったホテルでプレスコンファレンスが開かれた。ボルボカーのデザイン担当副社長ピーター・ホルバリー氏が壇上に上がる。立派な体格。流暢な口調。ボルボの新型サルーン「S60」に至るまでのデザイン講義が始まった。
ボルボS60は、フラッグシップ「S80」のプラットフォームを切りつめたシャシーに、スタイリッシュなボディを載せたブランニューモデルである。「4枚のドアをもったクーペ」がコンセプト。同社の中核ワゴン「V70」の3ボリューム版という意味では、S70の後継車種にあたる。ボディサイズは、全長×全幅×全高=4575×1815×1430mm。V70より、全長は135mm短く、ホイールベースも40mm短い2715mmとなる。
「S60の背後にあるフィロソフィーを説明させてください」とホルバリー氏。スクリーンに馬車の写真が投射される。「そもそも、クルマのエンジンはドライバーの前にありました……」。
「これはまた、ずいぶん遡ったものだ」と思いながら拝聴する。数枚のスライドの後、ホルバリー氏が、フェラーリ250GTOのイラストを描く。パワーユニットが積まれたフロントは長く、一方、キャビンは短い。古典的な「ロングノーズ・ショートデッキ」スタイルである。
スクリーンの写真が、250LM(ルマン)に変わった。ミドエンジンスポーツが、カースタイリングに与えた大きな影響の解説が始まり、講義はまだまだ続くのであった。
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キーワードは「キャブフォワード」
日本に輸入されるS60のラインナップは3種類。250psの最高出力を誇る2.3リッター直列5気筒「ハイプレッシャー」ターボ搭載の「T-5」(520.0万円)、より穏やかな、それでも200psを発生する2.4リッターターボを積む「2.4T」(465.0万円)、そしてエントリーグレードの同NA(自然吸気:170ps)モデル「2.4」(395.0万円)である。トランスミッションは、いずれも5段AT。ターボモデルには、シーケンシャルにシフトすることが可能な「ギアトロニック」が付く。
熱弁を振るうデザイン担当副社長の横には、「マヤイエローパール」にペイントされたS60が展示される。ショルダーラインの張り出しが力強い。Cピラーはいかにもトランクに向かって流れ落ちるように見えるけれど、つらつらサイドビューを眺めるに、リアのサイドウィンドウのカタチ、そしてネンドをヘラで削ったかのようなラインが下降を強調する一方、ルーフラインそのものは意外に後部まで高さを保持したままだ。堅実な北欧メーカーらしく、けっして室内空間をおろそかにしない、と感心していたら、ホルバリー先生が、「カッコと居住性」のバランスを取るヒミツを教えてくれた。
キーワードは「キャブフォワード」。
「まずクライスラーがデザインに採り入れました。しかし、彼らはAピラーの付け根を前に移しただけでした」とボルボ副社長。一方、スカンジナビアの新しいサルーンは、キャビン全体を前に動かすことで、スタイリングとパッケージングを両立させた、と胸をはる。
ダメ押しは、ジェット戦闘機「F16ファイティングファルコン」の前に、究極のロードゴーイング3座スポーツ「マクラーレンF1」が置かれたスライド。いまは、可能なかぎり前方にドライバーが位置することが、機能的でカッコいいのだという。長いエンジンの後に人間がチョコンと座った時代の名残をボディフォルムに残すメルセデスベンツCクラスやBMW3シリーズは、だから「アウト・オブ・デイト」だというのが、ホルバリー氏の主張である。
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ボルボの変化
南国の、しかし薄曇りの空の下、まずは黒いボディのS60 T-5に乗る。オプションの225/45という、太く薄いタイヤが、17インチホイールにへばりつく。
リムの太いステアリングホイールを握って走り始めると、まず気づくのが、グッと上がったボディの剛性感である。年々厳しくなる衝突安全基準に合わせた必然とはいえ、高速道路のツギ目を越えても、路面からの入力をフロアがビシッと跳ね返す、感じ。S60のねじれ剛性は、S70と比較してなんと! 約100%も高められたという。元のボディがヤワかった、ともいえますが。高速巡航は、ボルボの最も得意とするところだ。フラットライドが好ましい。
一方、ワインディングも苦手ではない。ひとクラス上の「S80」のシャシーを短縮しただけあって、S60は、前/後=1565/1560mmと、ホイールベースの割に広いトレッドをもつ。「セダンよりスポーツカーの比率に近い」という前夜の説明ほどはエクサイトメントを感じなかったが、中速コーナーをいかにもソツなくこなす。クルマがドライバーの気持ちを煽らないのが、ボルボ車の個性である。かつてのハイパワーボルボのように、激しいトルクステアを露呈することもなかった。
ときおり小雨が振るなか、コスミックブルーパールの2.4Tに乗り換える。排気側にCVVT(連続可変バルブタイミング機構)を装備した2.4リッター直5ターボは、200psという高出力ながら存在を誇示しないおとなしいエンジンだ。タイヤが16インチということもあって、ドライブフィールは穏やか。緑豊かな指宿スカイラインのドライブが、静かに楽しい。スロットルペダルではなく、ステアリングホイールで丁寧に曲がるタイプのスポーティサルーンである。
試乗を終えて、P.ホルバリー氏に、お話をうかがうことができた。40シリーズから始まった、「角」から「丸」への、ボルボのスタイル変化の立役者である。
「なぜ、スタイリングを変えるのですか?」
「市場が変わるからです」としごくもっともな答。そして、「ビューティーとインテリジェンスを同居させることが大切です」とデザイン担当副社長は付け加えた。「たとえば、ワゴンはボディ後部の機能性、つまりラゲッジスペースさえ確保すれば、フロントは丸くてもかまわない」。手元の紙に、線を引きながら熱心に教えてくれる。「セダンの場合は、Aピラー付け根から前端までの長さと、リアのバランスを取ることが重要です。そのためには、キャビンを前進させなければならない……」。
これからというときに、飛行機の時間が迫ってきた。
「S60で変化が完成したように見えますが」と聞くと、ニッコリ笑って、「ボルボのワゴンの評価は定まっていました。そこで、セダンをどうにかしたかったのです」。
「ドライビングプレジャー」を前面に押し出した850シリーズ(エステート)の成功をセダンで再現することが、ホルバリー氏に課せられた使命だったという。1991年デビューの850から遅れること約10年。S60は、S80、V70、クロスカントリーといったラージプラットフォームラインナップの最後のマスを埋め、そしてボルボの「四角い時代」に幕を引く。
(webCGアオキ/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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