ベントレー・アルナージT(4AT)【海外試乗記】
これはもうスポーツだ! 2002.05.18 試乗記 ベントレー・アルナージT(4AT) ……2995.0万円 最高速度270km/h! “世界最速のサルーン”の称号を手にしたベントレー、ツインターボV8搭載の「アルナージT」に、自動車ジャーナリスト、金子浩久が乗った。南アフリカはケープタウンから報告する。
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徹底的に見直されたエンジン
2001年のルマン24時間レースに「EXPスピード8」で70年ぶりに復帰し、みごとに3位入賞を果たしたように、最近のベントレーはスポーツ路線を突き進んでいる。
2002年中に2ドア4座クーペの「GTクーペ」(仮称)が発表されることも明らかにされており、ベントレーはロールスロイス社に吸収される以前の、本来の姿に戻ったかのようだ。
主力モデルである4ドアサルーンの「アルナージ」も、今年に入ってマイナーチェンジが施され、「アルナージT」となった。南アフリカのケープタウン近郊で行なわれた国際試乗会に参加した印象をお伝えしたい。
新しいアルナージTのスペックシートを眺めて、まず驚かされるのがエンジンのアウトプットである。ツインターボ化された6.75リッターV8の最高出力は450ps、最大トルクは89.25kgmに引き上げられた。
この途方もない出力を現実のものとするために、ベントレーとフォルクスワーゲンのエンジニアたちが行なったのは、ツインターボ化とともに、エンジン本体を徹底的につくり直すことだった。
それは多岐にわたったが、具体的な例を挙げれば、ウォータージャケットをブロックとシリンダーヘッドのより近くに配置するようにブロックをつくり直すことなどもそのひとつだった。これによって、ノッキングが起こりにくくなり、ボッシュのモトロニックME7エンジンマネージメントシステムの採用と併せて、低回転域からのスムーズな回転とパワーとトルクの発生が図られた。実際に試乗しても、エンジンのフィールは旧型よりも格段に向上している。パワーとトルクの数値だけではなく、効果はフレキシビリティに顕著に表れていた。
ほかにも、シリンダーヘッド、吸排気バルブやバルブギアの形状や素材なども改められ、総計で50%が新設計、残り50%のうち80%に見直しが行なわれた。
ダンピングが効いている
走りだして伝わってきたのは、ボディ剛性の高さだった。全長5.39m、全幅2.150m(ミラー含み)、全高1.515mの、小山のように大きなボディがふたまわりぐらい小さく感じるほど、運転しやすい。旧型では大きな上屋が、シャシーとは別のリズムでユラリユラーリと揺れ動くように感じられていたが、その動きが消え去った。
興味深いのは、アルナージTがベントレーとして初めてバーチャルな世界で設計されたクルマだということだ。CAD(コンピュータ支援デザイン)、CFD(コンピュータ流体力学)、DCA(ダイナミック衝突分析)、DMU(デジタル・モックアップ)などをフルに活用して、ボディのねじり剛性を大幅に向上させた。
乗り心地も、旧型では路面の凹凸や加減速、コーナリングなどによるボディの上下動がなかなか収束しない、重量級の大型車特有の動きを示したが、“T”ではしっかりとダンピングが効いている。まぁ、このユラーリユラーリとした、船に乗ったような乗り心地も他のクルマでは味わうことができないので、個人的には嫌いではなかったのだが……。
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270km/h!
イギリスやヨーロッパ大陸のどこかではなく、なぜ南アフリカのケープタウンなどで試乗会をやるのかと不思議だったが、運転しはじめてすぐに納得がいった。海沿いにも山間部にも、交通量が少なくて景色のいいワインディングロードがたくさんあるのだ。
全長が5.4mもあって、重量が2.5トンに達する巨大なアルナージTでワインディングロードを走っても、もてあますばかりだろうという思いは杞憂に終わった。面白いのである。GM製「4L80-E」型4段ATの「D」と「3」ポジションを積極的にシフトレバーで上下させながらコーナーをクリアしていくのが楽しい。図太いトルクがあるから、ずっと「D」のままでも並みのクルマよりははるかに速いペースを維持できるけど、強力なエンジンブレーキとトルクの最も厚い部分を選びながら駆け抜けるのは、これはもうスポーツだ。万が一の場合に備えて、ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)も備わっている。
もうひとつ、アルナージTのトピックは、“世界最速の4ドアサルーン”の座を獲得したことだろう。なんと、最高速度は270km/h。あいにくとケープタウン近郊の高速道路ではそれを直接的に試すことはできなかったが、その片鱗を感じ取ることはできた。メルセデスベンツやBMW、アウディなどのドイツ勢にも、高性能な4ドアサルーンが存在するが、彼らの間には「4ドアサルーンの最高速は250km/hまで」という自主規制が存在するので、世界最速の称号はアルナージTのものとなった。
インテリアは、かつての荘重なビクトリア調からモダンブリティッシュへ一新し、魅力を増した。アルナージTは、ベントレーの本来の伝統に則った超高級スポーツサルーンに仕上がっている。圧倒的な動力性能と格段に向上した操縦安定性など、天国のウォルター・オーウェン・ベントレーが知ったら頬を緩めるだろう。ベントレーのスポーツ指向からはしばらく眼を離せない。
(文=金子浩久/写真=金子浩久・ベントレーモーター/2002年4月)

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