プジョー206SW XS(4AT)&S16(5MT)【海外試乗記】
「味わい」と「切れ味」 2002.08.22 試乗記 プジョー206SW XS(4AT)&S16(5MT) プジョーのハッチバック「206」シリーズに、ワゴンモデルたる「SW」が追加された。日本未発売のコンパクトワゴンに、自動車ジャーナリストの森口将之が、フランス南西部で乗った。SWとブレーク
プジョーの「SW」シリーズの第1弾となったのは、2002年2月にフランスで発表され、まもなく日本でも発売される「307SW」。それに続く2台目が、今回紹介する「206SW」だ。ヨーロッパでも日本でも大ヒットの「206」のワゴンで、昨年秋のフランクフルトショーでコンセプトカーとして姿を見せたあと、3月に本国で発表され、6月にデリバリーが始まった。
307SWは、ハッチバックよりホイールベースを伸ばし、3列シートの7人乗りというミニバン的な空間をモノにしているが、206SWの場合ホイールベースはそのままで、リアオーバーハングが19cm伸ばされるという一般的なパッケージングとなっている。もちろん2列シートの5人乗りだ。
ちなみに、307にはSWのほか、ワゴン版もラインナップされる。206ワゴンが206SWと呼ばれるのに対し、こちらは「307ブレーク」が車名となる。
1.6リッターと2リッター
エンジンはハッチバックと同じで、本国ではガソリンが4種類、ディーゼルが2種類用意される。今年末には上陸するだろうといわれる日本仕様は、ガソリンの1.6リッター+ATと2リッター+MTが販売される予定。どちらもすでにハッチバックでおなじみのパワートレインだ。グレード名は1.6が「XS」、2リッターが「S16」とこれまたハッチバックと同じ。サスペンションは形式こそ今までどおりだが、ワゴンということでアームの取り付け部分やダンパー、スタビライザーなどが強化されている。
試乗の舞台となったのはスペインに近いフランス南西部のミディ・ピレネー地方。駐車場に並んでいた206SWをひと目見て、「これは売れる」と思った。リアドアのオープナーをピラーに埋め込み、コンビランプはブーメラン型にしたおかげで、ワゴンなのに躍動的なイメージが全然失われていないのだ。
それでいてリアゲートはこのクラスのワゴンとしては異例の開閉可能なガラスハッチ付きだし、2つのオープナーはナンバープレートの上に並んで隠されていてとても分かりやすい。リアワイパーの根元がふくらんで取っ手の役目をするなど、細かい配慮も見逃せない。
リアゲートを開けるとあらわれるラゲッジスペースも満足。フロアが地上から545mmと低いのに加え、プジョーの良き伝統で壁にサスペンションの出っ張りがないのが使いやすそうだった。容積は313〜1136リッターで、ボディサイズを考えれば広いほうだろう。一方のキャビンは基本的にハッチバックと同じ。ただリアシートの頭上空間に余裕がプラスされているのはありがたかった。
SWの車両重量は、同じエンジン同士で比べるとハッチバック5ドアとCCのほぼ中間となる。1.6リッターとATの組み合わせで流れの速いフランスの道を走っても、加速に不満は感じなかった。エンジン音はそれほど静かではないが、フォーンという乾いたサウンドなので耳障りには思えない。一方の2リッター+MTはあらゆる状況で豪快なダッシュをみせてくれる。とくに4000rpm以上でスポーティな音を響かせながらの加速は、スポーツワゴンと呼んでもいいほど爽快だった。
癒される乗り味
乗り心地は、少しだけ硬められたサスペンションと重くなったボディのおかげで、ハッチバックよりも落ち着きを増した。持ち前のしなやかな上下の動きはそのままに細かい揺れが抑えられ、フラット感が強調されているのだ。ハッチバックよりも、月並みな表現で恐縮だが、“癒される”乗り味だ。もっともこれは1.6リッターでのこと。2リッターは足まわりがはっきり硬くなる。それでも、ダイレクトなショックは最小限に抑えられていた。ボディの剛性感はしっかりしている。
直進安定性はどちらも文句のつけようがなかった。コーナーではやはりS16が楽しい。ステアリングの切れ味はハッチバックを思わせるほど鋭く、ほとんどロールを感じさせずに狙ったとおりのラインをクリアしていく。ホットハッチとしても通用するほどだ。でも1.6リッターにも味わいはある。ハッチバックよりも背の高いボディはコーナーでジワッというロールをもたらすが、それがフランス車らしさを盛り上げてくれるのだ。
ワゴン化されても妙に落ち着いてしまったりせず、スタイリッシュなデザインと楽しい走りをそのまま受け継いでいるのはさすが。これから206を買おうと思っている人は、年末まで待ってみてもいい。
(文=森口将之/写真=プジョージャポン/2002年8月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。