ジャガー・Xタイプ【海外試乗記】
『より多くのヒトに』 2001.05.29 試乗記 ジャガー Xタイプ メルセデスベンツCクラス、BMW3シリーズ、そしてアウディA4と、ドイツ勢に独占されてきた「プレミアムコンパクト」市場。そこへ、2001年、英国の老舗メーカーがフォードの助力を得て、“小さなジャガー”ことXタイプで挑戦を開始する。25万台メーカーへの脱皮を図るジャガーの主力モデルに、『webCG』エグゼクティブディレクターが乗ってきた。2.5リッターV6で、420万円前後から
パリ郊外のベルサイユから、ブルゴーニュ地方を駆けめぐったジャガーの野心作「Xタイプ」は予想以上の出来映えだった。少なくとも、今、このクルマに個人的な興味を持っている私としては。
周知のようにXタイプは、PAG(Premier Automotive Group)ことフォードの高級ブランドグループのなかに入ったジャガーが、グループ内のプレスティッジカー・マーケットを強化拡大すべく、メルセデスのCやBMWの3に代表される「セグメントD」、あるいは「プレミアムコンパクト」の市場に真っ向から対決すべく、天から地に降りてきたモデルである。
一般的にはフォードの新モンデオとプラットフォームを共用するとされるが、「それは間違い」といっていい。従兄弟よりもっと離れた親戚と考えるべきだ。確かにほぼ同時期に同クラスで開発されたが、モンデオとXの共用パーツは約20%にすぎない。具体的には、「フロアパンの前部」「サスペンションコンポーネンツ(主としてフロント)」「エンジンブロック」といったそれぞれの一部、あとはワイアリングや補機類など、外部サプライアーに大量発注した方が有利な部分だ。
だから基本性格は異なる。モンデオはあくまでも徹底的にプラグマティックな実用性能を追い求め、一方、Xはジャガー伝統の味わいを可能な限り残すことによって、値段を超越したクラースで勝負するクルマである。機械的には、特にジャガーが4WDを採用しているのが大きな違い。とはいえ、それはデビュー当初にモンデオとの差別化を明確にするためで、近い将来、XタイプにもFFモデルが追加されるはずだ。
SタイプよりもXJ的な“スタイリング・キュー”を強調したボディは、4685×1790×1420mmと、ライバルとほとんど同じサイズ。ちなみにCクラスは、4535×1730×1425mmである。
サスペンションは、前がモンデオによく似たアッパーストラットマウントをダブルにしたマクファーソンストラット、リアは特徴的なマルチリンクを採る。
エンジンは2.5と3.0のV6だが、ともにフォード・ブロックをもとに上半分のヘッドメカニズムをジャガーが設計したもの。198psと234ps。トランスミッションには、もちろん5段MTもあるが、日本に入るのは、ローバー75で初めて導入されたものを改善したJATCO製の5段ATとなる。
日本には、2.5リッターのベースモデル「2.5V6」、高級版「2.5V6SE」、そして足腰が固められた「2.5V6スポーツ」、3リッターは「3.0V6SE」のみが輸入される予定だ。発売開始は、2001年9月1日。価格はベースの「2.5V6」で420万円近辺、もっとも売れ線の2.5V6SEでその50万円高ぐらいと見られる。C240の日本での価格が500.0万円、325iが473.0万円だから、Xタイプはじゅうぶんな価格競争力をもつことになる。
残されたジャガー・ワールド
2.5リッターのATとMT、3リッターのAT、そして2.5と3.0の「スポーツ」と、試乗会に用意されたすべてのバージョンに乗った。基本的には、期待をかなり上まわっていた。もちろん量産試作車だから、クルマによってばらつきがあったし、3.0のスポーツで狭いサーキットを走ったときには、かなり強いアンダーステアと、必ずしもこのような走り方には適していないセッティングを感じたが、全体の印象はいい。
特筆すべきは、メルセデスともBMWとも明らかに違うジャガーらしさがかなり濃厚に残っていることで、この点ではSタイプよりももっと伝統に忠実だ。具体的には全般的にリファインされた乗り心地、納得できる静粛性(クルマによってばらつきがあったが)、そして何よりも感心したのはステアリングフィールで、適度に軽く(速度感応だ)、しかも繊細ななかから適切な情報を与えてくる。少なくともフランスの田舎道を適度な速度で流すには、とても気持ちのいいクルマである。
エンジンは、情感的には多少味わいには欠ける。ヘッドはジャガー設計とはいえ、フォードオリジンのV6は、スポーティというより、むしろがっしりした回転感覚だから、決してスウィートではない。また2.5は、3リッターと比較すると、やはり2000以下のトルクがやや乏しい。ただし両方ともに5000から6500のリミットまで快適に吹くし、相応の排気音の演出もある。とはいえ、BMWのストレート6の快感や、最近とみに改善されたメルセデスのV6のバランスには追いつかない。
5ATは、ローバー75同様、Sモードに加えて学習機能を持つ。だから「Jゲート」でマニュアル操作すると、最初のシフトダウンが遅れることがある。これはスロットルの操作次第ですぐに飲み込み、素早くシフトするようになる。
それはいいとして、一番気になったのは発進時のスロットルレスポンスの設定で、慣れないと軽く踏んだだけで乱暴に出る。これはドライブ・バイ・ワイアの設定次第でどうでもなるものだが、ジャガーとしては特に2.5リッターの微低速域のトルク不足を隠したかったのかも知れない。
天井は低めだが、クラスとしては相応の広さを持った室内には、可能な限りオールドワールド的な感覚も残っている。フロントシート長は、戦中生まれの足には長すぎる気配もあるが……。リアのルームは充分。そしてトランク--失礼、英国式にいえばブートは、現代のジャガー車中で最大の容量を誇るという。床に段があるのが難点だが、確かに深いし、広い。
初の400万円台のジャガー。量販市場を視野に入れながら、きちんと“ジャガーネス”を守り通しているのがいい。つまり、単なる安価な量販車ではなく、ジャガーの世界をきちんと構築しつつ、それをより多くの人たちに味あわせたいというクルマである。実際、その点においては、物心双方においてフォードの力量を見事に利用した、と思う。
フォードとジャガーのコンポーネンツ共有を図った最初の試み、リンカーンLSとSタイプとのボタンの掛け違いを良い反面教師として、今回のXタイプは細心に作られた。しかも、ジャガーのプライドも守られている。
(文と写真=大川 悠/2001年5月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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