ジャガーXタイプ 2.0V6(5AT)【試乗記】
「安すぎる」と思ったけれど…… 2002.05.24 試乗記 ジャガーXタイプ 2.0V6(5AT) ……365.0万円 2002年5月21日、ジャガー「Xタイプ」に2.1リッターV6を搭載したエントリーモデル「X 2.0V6」のプレス向け試乗会が、千葉県は木更津で開催された。『Car graphic』の長期テスト車として、上級モデル「X 2.5SE」に乗る大川悠webCGエグゼクティブディレクターは、Xタイプの末弟に乗り、(ちょっと)悔しい思いをしたという。DVDナビ付きで365.0万円
FWD(前輪駆動)のジャガー「X 2.0V6」の値段を聞いて「それはないよ!」と叫びたくなった。それまで他の上級Xタイプに、39.5万円ものオプションだったDVDカーナビが、なんと標準装備されて365.0万円というのだ。じゃあ、実質320.0万円ぐらいじゃないか、「実質320.0万円といえばあーた!、アウディだったらA3のクラスだし、BMWならコンパクトしか買えず、今度V6が出たモンデオと同じぐらいですよ(あっちは2.5リッターだけど)。ジャガーをそんな値段で売っていいの!」と言いたくなる。
いくら同時に、全Xタイプに同様のナビが標準になった(とともに10.0万円ずつ値上げされた)とはいえ、それまでたとえば425.0万円だった2.5リッターV6のベース版にカーナビを注文して464.5万円も払った客は、「ちょっと大きなエンジンと4WDで100.0万円もちがうのか!」と嘆きたくなる、と思う。
実はリポーターも、『Car Graphic』の長期テスト車として「X 2.5SE」に乗っている。オプションのカーナビは、高価なわりには使いにくいので注文しなかった。値段は他のオプションを除いて、475.0万円だった。
だから今度の2.0V6の安値作戦には、ちょっと裏切られたような気がしても仕方ないだろう。でも「安い!」と怒るのは、すでにXタイプに乗っている者の、一種の“奢り”である。良いものがより安くなってどうしていけないのか? という論議を前にすると反論のしようもない。
ともかくジャガーがどんどん地に降りてきたのを、まずは歓迎しておこう。一方で2002年の秋には、より高きを目指す新型「XJ」が出るはずだから、あとはジャガーのイメージを崩さないようなユーザーが新たに増え、一方ではサービス体勢がきちんと追いついてくれればいいだけだ。
それなりに漂うジャガーネス
Xタイプが登場したときからそれが出ることは知っていたが、それでもXタイプのFWD(前輪駆動)は、何となくフォード内の自己矛盾のように思えた。周知のように、部品をたった20%しか共有していないとはいえ、Xタイプはフォード「モンデオ」と基本的に共通のプラットフォームを持つ。モンデオは悪いクルマじゃないとはいえ、ジャガーのイメージには合わない。だからこそXタイプは4WDを採用することで、はっきりとその立場を明瞭にしたはずなのだ。
でもそれがFWDとなると、ジャガーたる存在意義が小さくなる。それに20%という数字には、トリックもあるのだ。例えば前述のモンデオV6と比較すると、エンジン・ブロックは同系、JATCO製の5段ATも同系、フロントサスペンションもほぼ同じ、それに実はリアサスペンションも、そのリンク材質他の細部はともかく、基本レイアウトはモンデオのワゴン版と同じと、クルマの主要部分は公表以上に共用しているのである。
だからといってFWDのXタイプがモンデオみたいかというと、これまたまったく違って感じるのが面白かった。というかうれしかった。まだモンデオのV6には乗っていないから断言できないが、これとも基本性格が違うだろう。端的にいえば徹底的にプラグマティズムに徹したモンデオに対して、Xタイプはやはり雰囲気を大切にしたクルマだ。たとえ前の2輪しか駆動していなくても、また2.0の標準インテリアである、あまり高級そうではない布シートになり、そうでなくてもメープルウッド以外はそれほどありがたみを感じない内装をもっているにしても、それでもどこかにジャガーネスが漂っていた。
ひょっとしたら外観だけで、勝手にそう思いこんだのかもしれないが、それでもいいじゃないかとさえ感じる。今のクルマって、そんなことが大切なのだ。
FWDのハンディは克服された
前輪駆動たることがジャガーの“ドライビングテイスト”に悪影響を与えるのではないかという、誰もが最初に抱く疑問は、見事に裏切られる。
すでにヨーロッパでマニュアル仕様も経験しており、意図的にFWDの嫌な面が出やすいドライビングも試してあるが、巧妙なフロントサスペンション設計、英国はGKN社の新しいジョイント、等長ドライブシャフトなどによって、ステアリングへのトルク干渉はかなり抑えられている。意図的に回転を上げたまま、踏み続けていたブレーキを放すなどという実験をしても、ステアリングはあまり影響されない。ジャガー特有の繊細で、切り始めがしっとりとした感覚を守るのに懸命になったエンジニアの努力は、かなり報われていると感じた。
ただ普通の舗装面で4WDより劣るのは、高速道路で意図的に多少乱暴なレーンチェンジをしたときで、いわゆるヨーダンピングは「トラクション4」をもった兄貴分にはかなわない。正式には2.1リッター近くあるエンジンは、2.5リッターの198psと24.9kgmに対して159psと20.4kgmであり、JATCO製5段ATのギアリングは同じだから、多少の非力さは免れない。
しかし、そこは2輪駆動化による駆動抵抗の軽減や、約100kgの軽量化がカバーする。それに6800rpmのリミットまで回せば、生意気にジャガーの咆吼を真似する。兄貴分の2本出しに対してエグゾーストパイプは片側しか出ていないが、それでもちゃんと演出されたエキゾーストノートを残して走り去っていく。その後姿から300万円台を暴露してしまうのは、排気量を示すエンブレムが欠如しているだけに過ぎない。
実はリポーターをくやしがらせたのは乗り心地だった。どうもトラクション4のXタイプの乗り心地、特にリアの僅かな荒さはジャガーらしくない。だが、バネ下が軽いのが効いているのか、2.0は同じサイズのタイヤにもかかわらず、四駆版よりも当たりがソフトだった。しかも明らかに振動も少なかった。ただしスポンジーなブレーキは、相変わらずこのクルマの悪弊である。
値段を考えれば、本当に2.0はお買い得だと思う。立派なジャガーとして堂々と胸を張っていい。だからといってすでに400万円以上の2.5/3.0を買ってしまった人も、また悔しがる必要はまったくない。
トラクション4なる4WDシステム、そこにこそ100万円以上を払った最大の意味があるのだから。高速道路で激しい雨に遭遇したり、冬が到来したときに、改めて納得できるはずだ。
(文=大川悠/写真=高橋信宏/2002年5月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。