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第148回:イエローキャブの現代事情 「日産NV200」がNYの次世代タクシーに選ばれた背景

2012.05.31 エディターから一言 金子 浩久

第148回:イエローキャブの現代事情「日産NV200」がNYの次世代タクシーに選ばれた背景

毎日60万人のニューヨーカーが利用するイエローキャブ。その次世代を担う車両に「日産NV200」が選ばれた。今、ニューヨークを走る公共のクルマの間には、こんな“風”が吹いている。

フルサイズも今や昔

アメリカのクルマが急速に小さくなっていることは、「キャデラックSRXクロスオーバー」の原稿に書いた(記事へリンク)。路上には日米欧の小型・中型車が増え、窓からハミ出んばかりに巨漢が収まった「MINI」や「チンクエチェント」も珍しくない。それらが決して一過性の流行ではないのは、公共のクルマも端からダウンサイズされていることが示している。

例えば、今までは警察のパトカーは必ずアメリカ製のフルサイズセダンだった。しかし、「シボレー・インパラ」(かつてのフルサイズサルーンは、今は中型セダンとして再登場)や、「フォード・フュージョン」などの中型アメリカ車に取って代わられている。アメリカ製というと、「日産アルティマ」などもマンハッタンのパトカーに採用されている。

また、シェリフと呼ばれる地方の保安官の多くはフォードの「エクスプローラー」や「エクスペディション」などに乗っていたものだが、彼らも同じSUVでもより小さく、軽い「エスケープ」に乗り換えるなどしている。

公共のクルマといえば、タクシーにも同様な変化が見られる。アメリカではニューヨークのタクシーが“イエローキャブ”と呼ばれ、同市のアイコンと化しているが、それもダウンサイジングと無縁ではない。今までは「フォード・クラウンビクトリア」や、そのリンカーン版である「タウンカー」の独壇場だったが、昨年マンハッタンを訪れたら、多彩な車種が用いられているのに驚かされた。

イエローキャブにも“ダウンサイジング”の波。
イエローキャブにも“ダウンサイジング”の波。 拡大
フルサイズセダンだけではなく、中型セダン、そしてSUVもイエローキャブとして活躍している。
フルサイズセダンだけではなく、中型セダン、そしてSUVもイエローキャブとして活躍している。 拡大
 
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14車種から1車種へ

ニューヨークでタクシーなどの旅客運送業を統括しているニューヨーク市タクシー&リムジン委員会は、14車種をタクシー用車両として認定している。実際に日米欧の小型・中型セダン、SUV、ミニバンが十数種類走っているのを簡単に数えることができる。

大は「クラウンビクトリア ストレッチ」や「トヨタ・シエナ」、あるいは同じトヨタの「ハイランダー」(日本名:クルーガー)から、小は「プリウス」や「フォルクスワーゲン・ジェッタ」のディーゼルまで。アメリカ車で多く目にしたのは、「フォード・フュージョン ハイブリッド」や、エスケープのマーキュリー版である「マーキュリー・マリナー」のハイブリッド仕様など。

そのニューヨーク市のタクシー&リムジン委員会は、次世代のイエローキャブを統一するために選考プロジェクト「Taxi of Tomorrow」を2007年に開始し、「日産NV200」が選ばれたことを2011年に発表した。翌2012年4月のニューヨーク自動車ショーで実車が公開され、去る5月29日、横浜にある日産のグローバル本社で披露された。

もともとNV200は小型商用バンとして優れているので、ほぼそのままタクシーに流用しても、きっと一定の成果を収めることだろう。

「トヨタ・プリウス」のイエローキャブ。
「トヨタ・プリウス」のイエローキャブ。 拡大
手前が「トヨタ・カムリ ハイブリッド」、奥には「フォード・エスケープ」のイエローキャブが見える。
手前が「トヨタ・カムリ ハイブリッド」、奥には「フォード・エスケープ」のイエローキャブが見える。 拡大

NYの道の景色が四角くなる?

タクシーとは不思議なクルマで、世界中で需要があるにもかかわらず、ほとんどが市販車の流用で済まされてしまっている。一般のオーナードライバーとタクシードライバーとでは、クルマに求めるものが必ずしも一致するわけではないのだから、専用車が造られてしかるべきなのだ。だから、これまでにも多くの国や地方自治体、研究機関などが次世代タクシーのデザインプロジェクトを主催してきている。

現在、タクシー専用のボディーを持つ数少ない例外にロンドンタクシーがある。驚異的に小さな回転半径を実現し、乗り降りのしやすさと、大人が5人乗れる車内空間の広さなどが長所だが、総合的に見ると古さが否めない。ただし、タクシー専用に考えられているだけあって、コンセプト自身は色あせておらず、最適解にかなり近いのではないだろうか。

ロンドンタクシーが通常の3人分のシートに向き合う形で折り畳み式シートを2人分備え、荷物も車内に置くことにしているのに対して、NV200ニューヨークタクシーのキャビンには3人分のシートしか用意されていない。荷物はシートの背後に、テールゲートを開けて載せるようになっている。また、スライドドアによる乗り降りのしやすさでは、NV200ニューヨークタクシーがロンドンタクシーにまさっている。

すでにプリウスを筆頭にハイブリッドカーが過半数を占めているところに、「2リッターのガソリン」(日産自動車のアンディ・パーマー副社長談)とだけ明らかにされたパワートレインで、どう対抗するのだろうか。電気自動車化は充電設備を整備する必要があるから、日産だけでは決められない。「アルティマ ハイブリッド」のパワーユニットに換装するつもりなのだろうか。

2013年10月に運行が開始され、約1万5000台の市内のタクシーすべてを10年かけて入れ替えていくというから壮大な計画である。早く乗ってみたいものだ。

(文と写真=金子浩久)

「NV200ニューヨークタクシー」を披露する日産自動車のアンディ・パーマー副社長。(写真=日産自動車)
「NV200ニューヨークタクシー」を披露する日産自動車のアンディ・パーマー副社長。(写真=日産自動車) 拡大
「NV200ニューヨークタクシー」のキャビンには3人分のシートが用意される。ロンドンタクシーのように逆向きのエクストラシートはない。(写真=webCG)
「NV200ニューヨークタクシー」のキャビンには3人分のシートが用意される。ロンドンタクシーのように逆向きのエクストラシートはない。(写真=webCG) 拡大
ルーフにはパノラミックウィンドウが備わる。摩天楼などニューヨークの街の風景を楽しめるように、との配慮から設けられたそうだ。(写真=webCG)
ルーフにはパノラミックウィンドウが備わる。摩天楼などニューヨークの街の風景を楽しめるように、との配慮から設けられたそうだ。(写真=webCG) 拡大
金子 浩久

金子 浩久

『10年10万キロストーリー4』
(金子浩久著)
1台のクルマに、10年もしくは10万キロ以上乗ってきたオーナーを、金子浩久が取材。クルマとヒトの生活を、丁寧に紙の上に載せていきます。『NAVI』人気連載の単行本化! →二玄社書店で買うアマゾンで買う

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