BMW 640iグランクーペ(FR/8AT)【海外試乗記】
オトナなGT 2012.05.27 試乗記 BMW 640iグランクーペ(FR/8AT)「6シリーズ」の派生車種として、2012年夏ごろに日本導入予定の「グランクーペ」。6シリーズで初となる4ドアモデルの乗り味は? 第一印象をシチリアからお届けする。
満を持してのデビュー
「6シリーズ」に3番目のスタイル、しかも4ドアクーペが登場。そう聞いて、「BMWよ、オマエもか……」と思った方は多かったはず。かくいう筆者もそのひとり。そしてそう思った方なら、ついでにこうも思われたに違いない。「それって、ちょっと遅過ぎやしない?」
4ドア版の存在はカブリオレが先行デビューしたときから公言されていた。クーペの後に出すぞと聞いて、「ずいぶんとのんきに構えているものだ。あるならもっと早く出せばいいのに。ただでさえライバルより遅くなっているわけだし」などと思ったものだ。
けれども、これにはワケがあった。実は、6シリーズベースの4ドアモデルは先代型でも企画されていたが、折り悪く発表を断念した経緯があるという。だから、“ひと足遅れ”は承知のうえで、まずは新型6シリーズそのものの認知を広めておいてから、満を持して「グランクーペ」をアピールしよう、という作戦だった。
「メルセデス・ベンツCLSクラス」や「アウディA7スポーツバック」などが直接のライバルとなるわけだが、なにせこちらは本格2ドアグランツーリスモの“クーペ”がベースだ。スペシャルティー度では群を抜く。
ロング&ワイド&ロー
どうにも最近のBMW(に限らないかもしれないけれど)は、写真写りが悪い気がする。グランクーペもそうで、シチリア島はパレルモ近郊のリゾート施設に並べられた実物を見るまでは、なんだかもっさりとでっかいセダンだよなあ、と思っていた。
ところがどうだ。本物はかなりのワイド・アンド・ロー。5mオーバーという巨体をサラリと感じさせつつ、それでいて華やいだ空気感と今にもしなりそうな躍動感を上品に漂わせている。ひょっとすると、クーペよりもまとまっているのでは? と思ったほど。マスクやリアのデザインとの整合性はむしろ、グランクーペの方が上じゃないか……。
全長は、ホイールベースの延長分、つまり113mmも伸びた。で、ホイールベースは堂々の3m級。ルーフを伸びやかに延長するため、クーペよりも若干、車高が持ち上げられたというものの、全高1.4mを切ったのはお見事。初代メルセデス・ベンツCLSくらいの低さで、全長5m、全幅1.9mのずうたいだから、超平べったく見えるのも当然だろう。リアドアの窓の縁に備わる「Gran Coupe」のエンブレムがオシャレだ。
インテリアの前半分は6シリーズそのまま。撮影車両にはインディビジュアル仕立てがおごられていて、BMWに似合わず色っぽい。どことなくアウディ風味を感じてしまうのは、筆者だけか……。
リアは2+1レイアウトである。左右2席のスペースは十分。クーペよりもわずかに着座位置が高い。シートベルトが3座分用意されているが、真ん中はシートの縁までコンソールが伸びていて、大股開きで座るほかない。“エマージェンシー”と言うのもつらいレベルだ。
軽量ボディーはクーペ譲り
本国発表時のモデルラインナップは4種類。今回試乗することができたガソリンとディーゼルの3リッター直噴直列6気筒ターボエンジンを積む「640i」と「640d」に加えて、バルブトロニックが付いてより高効率化された新世代4.4リッター直噴V8ツインターボの「650i」およびその4WD仕様の「650i xDrive」である。
残念ながら、新しくなったV8の試乗車は用意されていなかった。いずれのグレードも8段ATがスタンダードで、アイドリングストップや「ECO PRO」モードといったBMW最新の“優しい”装備も満載だ。
アウディほど軽量化を積極的にはうたっていないけれども、ドライビングダイナミクスを最大のウリとするブランドである。そんなことは“標準装備”だ、とばかり、グランクーペにもクーペやカブリオレと同レベルの“インテリジェント・ライトウェイト”構造を採用した。
例えば、ウィンドウフレームレスのドアやエンジンフードはアルミニウム製としたほか、アルミニウムを多用したサスペンション、サーモプラスチック製フロントサイドパネル、グラスファイバー複合材料を採用したトランクリッドという具合である。
穏やかで優しい走り
走りだしての第一印象は、“クーペより、かなり扱いがラクそう”だった。もちろん、街中をとろとろと転がしているような走り方では、ほとんど同じにしか思えなかったけれども、大きな交差点を大胆に曲がってみると、腰の回転がいかにも自然で、鼻先の動きに余裕があると感じたのだ。
道幅の狭いシチリアのカントリーロードに入ってみると、その印象がいっそう強まった。クーペよりもはっきりと、ノーズの動きが優しい。決してダルというわけではない。反応や動きがドライバーの気持ちに忠実で、右へ左へとリズムも取りやすい。適度なパワフルさとあいまって、細い道でも全長5m、全幅1.9mのずうたいを持てあますということがなかった。親しみやすさ、慣れやすさという点で、クーペやカブリオレよりも確実に上である。
もちろん、高速クルージングも、より安定志向に感じられた。アウトストラーダを時速130キロくらいで流していると、運転していることを忘れて、「今夜の名物料理はペッシェ・エスパーダかな」などと、ついつい余計なことを考えてしまう。時折現れる段差でわれを取り戻し、それをトタン、トタンと心地よく越えるたびに、「ああ、これは実によくできたGTカーだなあ」と感心してしまった次第だ。
余談だが、ガソリンよりもディーゼルの640dの方が運転していて“官能的”だった。最大トルクが64.3kgmもあるから、力強さはもちろんのこと、実はエンジンサウンドにも“昔ながらの”迫力があって、アクセルペダルを踏むことがとにかく楽しい。もしヨーロッパに住んでいたならば、迷わずディーゼル仕様を選ぶことだろう。
日本でも、せめて高速道路の制限速度が130km/hくらいに設定されるようなことがあれば、この高性能ディーゼルを乗りまわしたいところだ。ともあれ、もう少し現実的な夢を見るのであれば、アメリカ東海岸のビジネスエリートのごとく、多少の雪にもへこたれず650iの4WDを駆って、さっそうとスリーピースを着こなすオトナになってみたい。まあ、それもまた、年がら年中デニムとシャツで過ごす自堕落な今となっては、しょせんかなわぬ夢ではあるけれど……。4ドアクーペが似合うオトコって、憧れるよなあ。
(文=西川淳/写真=BMWジャパン)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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