第245回:地下に潜ってもスゴいんです! モナコ地下駐車場事情
2012.05.18 マッキナ あらモーダ!第245回:地下に潜ってもスゴいんです! モナコ地下駐車場事情
なかなかハードな駐車場
来週の5月24日から27日までは「F1モナコグランプリ」である。それにせんだって5月11日から13日までは「ヒストリックグランプリ」が行われた。
ボクが4月末に訪れたとき、コースとなる市街地の脇には、通常の交通を妨げないようにしつつも、早くもレース用ガードレールが設置されていた。そして「気分はセバスチャン・べッテル」な人たちが自分のクルマでコースをたどっていた。
モナコでちょっぴり困るものといえば駐車場である。この国は海に面し、かつ背後は崖だ。そうした地理的背景から地下駐車場が多い。それも入り口はアプローチが急で、かつ他の階や出口へのスロープは極端に狭い。
実際、スロープの壁面には、バンパーの擦(かす)り跡が幾重にも描かれている。もしボクが住民になったら、真っ先に「スマート・フォーツー」を買うだろう。
さらに駐車場によっては「イタリア方面」などと国名の交じった出口表示がある。島国育ちの身にとって、間違うとえらい大変なことになりそうな気がして緊張する。
係員の対応に感謝
それさえ除けば、モナコの駐車場は決して悪くない。例えばイタリアの地下駐車場は、親が子供に陰でおしっこをさせてしまうのか臭いことが多いが、モナコでそうしたことは少ない。死角となって怖い感じがするところもまれだ。
イタリアでは往々にして機嫌が悪い料金精算機もモナコではきちんと作動する。ちなみに「モナコは高いだろう」と思いがちだが、ハイシーズンの南仏サントロペなどよりも格段に安い。
係員も親切である。昨夏のこと、モナコ唯一の大型ショッピングセンター「フォンヴィエイユ」で買い物を終えて帰ってきたら、クルマを置いた場所が自分の脳内メモリーから完全消去されてしまっていたのに気づいた。半ベソになって途方に暮れていたボクを、駐車場係員のお兄さんは嫌な顔ひとつせず一緒になって根気よく探してくれた。イタリアやフランスでは考えられないことである。
参考までに、それ以来ボクは、クルマを離れる前にスマートフォンで必ず区画番号を撮影しておくようになった。
さながら「ヒスリックカーミーティング」
面白いのは、駐車しているクルマたちだ。土地柄フェラーリは珍しくない。最近はアストン・マーティン各モデルの姿も多い。いずれも先ほどの激狭スロープを上り下りしているかと思うと、感心してしまう。
同時に多いのは、ちょっと古いクルマたちだ。場所によっては、さながら「ヒストリックカーミーティング」状態である。
例えば【写真6】。少々ほこりはかぶっているが美しいグリーンメタリックの「メルセデス・ベンツW123」、終戦直後のプジョーの代表的モデル「203」、そしてフォルクスワーゲンの初代「ビートルカブリオレ」が並んでいる。【写真7】はモナコの国籍ステッカー「MC」が貼られたロールス・ロイスの「シルバーシャドウ」だ。
昔、シルバーシャドウといえば押し出しの強い代表格のような自動車のイメージがあったが、BMW傘下に入ってからのロールス・ロイスを見慣れた目には、なんと控えめなことよ。
そうかと思うと、「ポルシェ550スパイダー」【写真8】もある。場所は前述のフォンヴィエイユ・ショッピングセンターだ。その収納スペースからしてオーナーはこの日、物干しざおは買わなかったことは確かだろう。
かくもエンスージアスト指数の高いパーキングゆえ、こんな光景もあるというのが、【写真9】である。メルセデスの「R129(SL320)」に売りたしのカードが掲示されていた。ボクとしては左隣の「トヨタ・セリカ」も気になるが……。
小さな気配り
特筆すべきは【写真10】の2代目「フィアット500」である。あまりの興奮に激写(死語)し、不鮮明画像になってしまったことをお許しいただきたい。駐車スペースを限りなく持て余す、この余裕はどうだ。60代のモナコ在住者が筆者に語ったところによると、その昔フィアット500と元祖「MINI」は、モンテカルロの街でセカンドカーとして引く手あまただったという。
ウイークデイの毎朝、ショーファー付きロールス・ロイスに迎えに来てもらえる紳士が、休日はMINIで街を走り回る……MINI伝説を地でゆく光景ではないか。
ということで今回は、思わず「地下に潜ってもスゴいんです」と言いたくなるモナコの地下駐車場をお伝えしたが、困るのは「いつも隣がフィアット500とは限らない」ということである。それどころかせっかく空いていても、左隣がベントレー、右隣が12気筒のフェラーリなんていうときがある。小心者のボクなどはぶつけないかびびってステアリングさばきも怪しくなる。
そんなとき助かるのが、「壁面にも引かれた区画線」である。簡単なことだが、地上に引かれた白線が見づらいとき、これが大変助かる。同様に壁に引かれた横線も、慣れればどのくらい後退したかの目安になるのだろう。
モナコの駐車場の小さな気配りである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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