ジープ・コンパス リミテッド(FF/CVT)【試乗記】
骨太な「ジープライト」 2012.05.17 試乗記 ジープ・コンパス リミテッド(FF/CVT)……298万円
ジープブランドのエントリーモデル「コンパス」に試乗。前輪駆動のクロスオーバーにジープらしさは感じられたのか?
FFのクロスオーバー
ジープの新型「コンパス」は、わが国で販売されるジープでは初めて4WDの設定がない。「ヨンクじゃないジープなんて」とつぶやくのは、「クリープを入れないコーヒーなんて」というCMを知る世代だけかもしれないが、前輪駆動のジープに違和感を抱く読者もいるだろう。しかもクロスオーバーに属するモデルだという。クロスカントリーの本流を追求してきたジープらしからぬプロダクトなのだ。
もっともアメリカでは4WD車も選べるのだが、2WD車が選択できるジープは決して珍しいわけではなく、過去にいくつもあった。僕もかつて所有していたことがある2世代前の「チェロキー」(XJ型)も、本国ではFR車がチョイスできたのである。
クロスオーバーについても同じ。第2次世界大戦直後と1960〜70年代にかけての2度にわたり「ジープスター」というモデルが販売されていた。顔はジープだがサイドやリアは乗用車というスタイリングで、これも駆動方式はFRと4WDが選べた。
日本仕様のコンパスに4WDがなく、FFのみになったのは、2リッターの直列4気筒エンジンの存在が大きかったはずだ。他にFF、4WDの双方に設定される2.4リッターがあるが、燃費や税金面を重視した結果、2リッターFFのみを導入したのだろう。しかもコンパスはクロスオーバービークルとして開発されたから、FFでも問題ないという判断だ。
ちなみにジープは同じクラスに、プラットフォームやパワートレインを共用する「パトリオット」も持っているが、あちらはクロスカントリービークルであり、4WDも選べる。ランドローバーでいえば、「イヴォーク」と「フリーランダー2」の関係に近い。
ジープを四輪駆動のクロスカントリービークルという機能で考える人は、まだまだ多いかもしれない。しかし作り手ははるか昔から、この名前をブランドとして活用していたのだ。その経験は、コンパスの作りにしっかり生かされていた。
クオリティーの高い内外装
コンパスが本国でデビューしたのは2006年で、当初は丸形ヘッドランプを用いたファニーなフロントマスクを持っていた。ところがこの顔は評判がイマイチだったようで、2011年のマイナーチェンジで「グランドチェロキー」風の顔に一新している。
この間、クライスラーは2009年にフィアット傘下になった。今回のマイナーチェンジにはフィアット側の意向も盛り込まれているという。だからというわけではないが、スタイリングには見るべき点が多い。特に前後輪の部分で、サイドのプレスラインに段を付け、ジープらしいフェンダーラインを描いたテクニックは秀逸だ。さらにリアドアのオープナーをピラーに隠し、テールゲートを傾けたことで、ジープ一族の中ではクーペっぽく軽快に見える。
キャビンはインパネこそ「パトリオット」に似ているが、仕上げはより上質。標準でレザーシートが与えられることもあって、グランドチェロキーの顔を持つエクステリアに見合ったクオリティーを備えている。それでいて3スポークのステアリング、丸いエアコンルーバーやメーターなど、ディテールはまぎれもないジープだ。ドアオープナーのクロムメッキも、オーセンティックなブランドイメージの演出に効いている。
前席の座面は厚みがあって、ふっかりした座り心地がアメリカ車に乗っていることを気付かせる。ただし背もたれの張りもしっかりしていて、1時間程度ではまったく不満は感じなかった。サポートも満足できるレベルにあった。
後席は座面が高く、足を下に伸ばした姿勢で座る。背もたれはリクライニング可能だ。身長170cmの僕が座ると、足元は足が組めるほど広く、頭上空間にも余裕がある。荷室容量はそこそこだが、キャビンについては水準以上の広さといえる。
デザインも走りもジープ
2リッター4気筒エンジンに組み合わせられるトランスミッションは、6段マニュアルモード付きCVTだ。アメリカ車の常で、発進の瞬間に飛び出すような動きを見せるが、それ以外はスムーズに1450kgのボディーを加速させていく。音は5000rpm以上で耳につくけれど、それ以下ではこのクラスのクロスオーバーとして普通のボリュームで、4気筒としては滑らかでもある。
街中をドライブしていてありがたかったのは、日本仕様のクライスラー各車でおなじみの、左側面のブラインドを映し出す小さなモニターだ。コンパスの場合、ドアに装着された車名のバッジが映っているので、絶好の目印になるのである。
乗り心地は、段差や継ぎ目ではタイヤの硬さが伝わるものの、それ以外は豊富なストロークを持つサスペンションが、しっとりショックを吸収してくれる。ボディーや足まわりの剛性感は十分で、骨太さが伝わってくる。FFのクロスオーバーでもジープはジープなのである。
「馬なりに進む」という表現がピッタリの高速直進安定性や、ステアリングの切れ味が穏やかで、よく動くサスペンションがもたらす懐の深いハンドリングもまた、ジープらしい。
コンパスをひとことで言えば、「ジープライト」である。でもそれは、薄味という意味ではない。2リッター前輪駆動のクロスオーバーと敷居を低くしながら、デザインから走りまで、あらゆる部分でジープを感じることができる。「ラングラー」とは別の意味で、このブランドの歴史の重みを感じた。
(文=森口将之/写真=荒川正幸)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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