ルノー・ルーテシア ナイト&デイ(FF/4AT)【試乗記】
素の味わいが心地いい 2012.05.02 試乗記 ルノー・ルーテシア ナイト&デイ(FF/4AT)……214万8000円
新型のデビューが目前に迫る、ルノーのコンパクトハッチ「ルーテシア」。装備充実の新グレード「ナイト&デイ」に試乗した。
現行モデルの最終版
“ナイト&デイ”とは面白いネーミングである。夜でも昼でも、フォーマルでもカジュアルでも、オンでもオフでも付き合えるクルマということから名づけられたようだが、 少々意味不明と言えなくもない。まあ、それはともかくとして、この3代目「ルーテシア」はモデル末期のクルマだ。今年(2012年)秋のパリサロンで4代目となる新型がデビューする予定だからである。
どのメーカーもモデル末期となると、限定車であるとか特別仕様車といった“スペシャル”を登場させるもので、「ルーテシア ナイト&デイ」もそうした類いのモデルだ。というか、新装開店前の売りつくし特別セールの目玉商品みたいなものである。装備やアクセサリーが充実しており、お買い得感が高いというのがメーカーの売り文句なのだろう。ただし、日本で販売される現行型ルーテシアのラインナップはナイト&デイ1車種のみになり、トランスミッションはATしか選べなくなったのが残念だ。
ナイト&デイは、新しいデザインの16インチホイール、デザイン上のアクセントとして、従来とは異なるペイントのパーツがエクステリアとインテリアの一部に使われているのが特徴だ。さらには雨滴感知式オートワイパーやヘッドライトのオートスイッチ機構が備わる。独自の意匠、装備が与えられているものの、中身はこれまでのルーテシアのまま。エンジンもトランスミッションもサスペンションも基本コンポーネンツは従来モデルと同一である。
懐かしくてうれしい
久しぶりに乗るルーテシアは、昔となにも変わっていなかった。なんだか、学生時代の友人に再会したような気分とでも言おうか。いくらか年をとったが、地味で控えめ、けれど意思が固い性格は十年前と一緒。ルーテシア ナイト&デイの印象は、そんな気心の知れた旧友に会ったような懐かしさとうれしさに似ていた。
1.6リッター自然吸気ツインカムエンジンはパワーもトルクもそこそこながら、普通に走るかぎりは十分だ。高速道路での追い越し加速でも痛痒(つうよう)を感じずに済む。シフトショックをわずかに感じるトルコンタイプの4段オートマチックは、古臭いながらもエンジンの力をきちんと伝えてくれる。乗り心地にしても特別柔らかくも硬くもない代わり、コーナリングではきっちり腰のあるところを実感できる。多少頑張って飛び回っても、なんの変哲もない前:マクファーソンストラット+後:トレーリングアームのサスペンションは破綻をきたすそぶりさえ見せない。
ステアリングも素直で自然なフィーリングである。シートの座り心地とサポートも実用車の基準で判断すればかなり良好だ。長時間運転していても疲れを知らないですむのがうれしい。室内空間も全長4メートル強、全幅1.7メートルのボディーサイズに見合ったレベルにある。
4ドアのハッチバックだから、人間が移動するにも荷物を運ぶにも、実に使い勝手がいいのも歓迎すべき点である。ようするにバランスのとれた小型ハッチバックだ。モデル末期のクルマとしては、それほど熟成度が高いわけでもないのだが、走る、曲がる、止まるの根本的な性能に不満はなく、パワートレインにいささか時の流れを感じざるを得ないとはいえ、一本筋の通ったコンパクトカーである。
使うほどに価値がでるクルマ
おそらく、あと半年ほどで姿を見せる4代目ルーテシアは、当然のことながら現行型より動力性能においても燃費の面でもずっと進化を遂げているに違いない。それでも、少々粗が目につくようになっても、基本性能のしっかりしたナイト&デイのようなクルマと長く付き合っていくのも悪くない。ドイツメーカーが理詰めで作り上げた優等生的コンパクトカーとは違う素の味わいがあるからだ。
トランスミッションに古臭さを感じようが、それほど室内が静粛でなかろうが、これはこれでいいじゃない、と割り切って乗る気にさせる不思議な魅力がある。コンパクトカーのひとつの完成形と言っては褒めすぎだが、日常使いの道具として過不足のない走行性能と十二分の装備やアクセサリーを有したクルマと言えるだろう。
長い間とことん使い込んでこそ価値がでてくるクルマ。げたのように(いや輸入車だからスニーカーか)使うことで真価を発揮するベーシックカーなのである。
それこそ四六時中クルマと生活したい人には打ってつけ、クルマを使い倒す人にはルーテシア ナイト&デイはお薦めの一台だ。ナイト&デイのネーミングに込めたメーカーの思いが、分かったような気がする。
(文=阪和明/写真=荒川正幸)

阪 和明
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