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ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)

エスプリをあなたに 2025.10.28 試乗記 鈴木 真人 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
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名前が長いモノグレード

「世界で最も売れているフランス車」。強力な売り文句である。ルノー・ルーテシアは1990年に初代がデビューし、現行モデルは5代目。世界中で計1600万台が販売されたというから、文字どおりのベストセラーカーだ。ヨーロッパを代表するBセグメントのコンパクトハッチで、かの地では親しみやすい大衆車として人気がある。日本では受け止め方が少し異なり、フランスのセンスが感じられるオシャレなクルマというイメージがあるようだ。

マイナーチェンジを受けたモデルに試乗したのだが、名前が長い。「ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH」である。以前は「ゼン」とか「インテンス」とかの短いグレード名だった。今回はモノグレードになったのだが、クルマの成り立ちを正確に説明する必要があるということなのだろう。エスプリ アルピーヌはルノーがスポーティーなグレードとして用いているもので、日本で販売されているモデルではアルカナとキャプチャーにも設定がある。

アルピーヌはもともとルノー車のチューニングを手がけていた会社で、「A110」などのスポーツカーも製造した。現在ではルノーの子会社、アルピーヌカーズとなっており、2021年に旧ルノー・スポールと統合された。アルピーヌの名はF1チームとしても存続している。モータースポーツでの輝かしい実績とブランドイメージを市販車で生かそうと考えたわけだ。メルセデス・ベンツの「AMGライン」、BMWの「Mスポーツ」と似ている。「R.S.」モデルはルノー・スポールがチューニングした本格的なスポーツモデルだったが、エスプリ アルピーヌはアルピーヌのエスプリ(精神・センス)をまとった上質なスポーティー仕様だと考えればいい。

2025年10月2日に日本導入が発表された「ルノー・ルーテシア」のマイナーチェンジモデル。フロントマスクを中心に、内外装デザインや装備の見直しが行われた。
2025年10月2日に日本導入が発表された「ルノー・ルーテシア」のマイナーチェンジモデル。フロントマスクを中心に、内外装デザインや装備の見直しが行われた。拡大
今回のマイナーチェンジを機に、日本に導入される「ルーテシア」は、スポーティーグレードの「エスプリ アルピーヌ」に一本化。フロントフェンダー部に備わるアルピーヌのエンブレムが目を引く。
今回のマイナーチェンジを機に、日本に導入される「ルーテシア」は、スポーティーグレードの「エスプリ アルピーヌ」に一本化。フロントフェンダー部に備わるアルピーヌのエンブレムが目を引く。拡大
F1で培ったノウハウを活用したとうたわれる、ルノーが独自に開発したハイブリッドシステム「E-TECH」を搭載。従来モデル比でシステム最高出力を3PSアップさせながら、WLTCモードの燃費値も0.2km/リッター向上させている。
F1で培ったノウハウを活用したとうたわれる、ルノーが独自に開発したハイブリッドシステム「E-TECH」を搭載。従来モデル比でシステム最高出力を3PSアップさせながら、WLTCモードの燃費値も0.2km/リッター向上させている。拡大
クリアレンズを用いたリアコンビランプの採用もマイナーチェンジモデルの特徴。今回の試乗車は「ブルー アイロン メタリック」と呼ばれる5万9400円の有償外板色をまとっていた。
クリアレンズを用いたリアコンビランプの採用もマイナーチェンジモデルの特徴。今回の試乗車は「ブルー アイロン メタリック」と呼ばれる5万9400円の有償外板色をまとっていた。拡大
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輸入車トップの燃費

フルハイブリッドE-TECHも、このクルマを説明するのに欠かせない属性だ。長年ハイブリッドを軽視してきた欧州自動車メーカーのなかで、唯一ルノーだけが本格的なシステムを開発した。BEVの普及が思ったほど伸びなかったことを受けてハイブリッドモデルがヨーロッパでもつくられるようになってきたが、どれもいわゆるマイルドハイブリッドである。燃費軽減効果は限定的で、日本で磨き上げられてきた強力なシステムにはかなうはずがない。

フルハイブリッドE-TECHはルノーのオリジナルである。トヨタの「THS」やホンダの「e:HEV」とは異なる機構を開発した。ルノーのF1チームはエネルギー回生システム義務化のおかげで豊富な経験を持っており、その知見を市販車に応用することができたという。エンジンと2つのモーターを組み合わせ、トランスミッションはドグクラッチ式マルチモードAT。これもF1由来のテクノロジーだ。

ルーテシアに搭載されているシステムはアルカナのものと基本的に同じ。ルーテシアはBセグメントのハッチバックであり、CセグメントのクーペSUVのアルカナよりかなり軽量だ。燃費には有利で、25.4km/リッター(WLTCモード)は輸入車トップである。世界陸上ではトップの外国人から遅れている選手を“日本人トップ”としてほめたたえていたが、ハイブリッドシステムでは日本が世界基準となっているから逆の言い方になる。このルーテシアでは、システム最高出力を3PS高めながら燃費を0.2km/リッター向上させた。

中身以上に変わったのがデザインだ。エクステリアはマイチェン前のモデルから一変している。エスプリ アルピーヌは“スポーツシック”を掲げていて、前モデルより洗練度が増してモダンなイメージになった。フロントグリルのドットパターンは内側が暗く、外に行くほどに明るくなるという凝った意匠を採用。新しくなったダークな色調のロザンジュとの組み合わせが大人っぽい。

「ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4075×1725×1470mm、ホイールベースは2585mm。これらの数値は従来型の「ルーテシアE-TECHフルハイブリッド」と同一である。
「ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4075×1725×1470mm、ホイールベースは2585mm。これらの数値は従来型の「ルーテシアE-TECHフルハイブリッド」と同一である。拡大
「フルハイブリッドE-TECH」は、最高出力94PS、最大トルク148N・mの1.6リッター直4自然吸気ガソリンエンジンに、同49PS、同205N・mの電動モーターと容量1.2kWh(250V)の駆動用バッテリーを組み合わせている。
「フルハイブリッドE-TECH」は、最高出力94PS、最大トルク148N・mの1.6リッター直4自然吸気ガソリンエンジンに、同49PS、同205N・mの電動モーターと容量1.2kWh(250V)の駆動用バッテリーを組み合わせている。拡大
インテリアデザインもアップデートされ、全体的にすっきりとした印象になった。ダッシュボード中央の液晶パネルが7インチから9.3インチに拡大され、トリムのフィニッシュも変更されている。
インテリアデザインもアップデートされ、全体的にすっきりとした印象になった。ダッシュボード中央の液晶パネルが7インチから9.3インチに拡大され、トリムのフィニッシュも変更されている。拡大
フロントグリルのドットパターンは内側が暗く、外に行くほどに明るくなるという凝った意匠を採用。新しくなったダークな色調のロザンジュとの組み合わせが大人っぽい雰囲気を漂わせる。
フロントグリルのドットパターンは内側が暗く、外に行くほどに明るくなるという凝った意匠を採用。新しくなったダークな色調のロザンジュとの組み合わせが大人っぽい雰囲気を漂わせる。拡大

街なかはモーターで高速道路はエンジンで

LED式のデイタイムランニングランプはテック感をもたらしているが、ロザンジュを分割して左右を入れ替えたというデザインは、説明を聞かなければそれとはわからなかった。フロントフェンダーにはアルピーヌの「A」をあしらったバッジが目立つ場所にある。ドアを開けるとキッキングプレートに「ALPINE」の文字が記されているのが目に入り、シートバックにも「A」のロゴ。ルノーというよりアルピーヌに乗っているような気分になってくる。ステアリングホイールやシートのステッチはトリコロールで、フランスアピールにも余念がない。

静かに発進するのは、低速では駆動力として使われるのがモーターだからだ。急加速を行うのでなければ50km/h近くまではエンジンがかからない。街なかの走行はモーターが主体になっているから、日常使いでの燃費がいいわけだ。1.2kWhという余裕のあるバッテリー容量のおかげで、モーター走行の割合が多くなる。

ドライブモードは「My Sense」「Eco」「Sport」の3種類。エコ、スポーツとくればあとはノーマルになるはずだが、マイセンスとは奇妙だ。自分好みの設定ができるということであっても、実際には標準モードとして使われることが想定されているようだ。デフォルトではエンジンレスポンスやステアリング感度などがスタンダードに設定されている。特にこだわりがなければマイセンスモードを選んでおけばいい。

高速走行ではモーターに代わってエンジンが主役になる。モーターが得意とする低速域とは逆に、高速域では効率でエンジンに軍配が上がる。加速時にはモーターの助力で力強さがアップ。巡航状態ならエンジンの回転数は抑えられているから、モーター走行時ほどではなくても室内は静かだ。市街地、山道、高速道路とさまざまな道を走って、満タン法での今回の燃費は約23km/リッター。カタログ値とさほど変わらない、日本車に引けを取らない数字である。

LED式ヘッドランプの下部に、特徴的なデザインのデイタイムランニングランプが備わる。デイタイムランニングランプは、ロザンジュを分割して左右を入れ替えたものと、そのデザインが説明される。
LED式ヘッドランプの下部に、特徴的なデザインのデイタイムランニングランプが備わる。デイタイムランニングランプは、ロザンジュを分割して左右を入れ替えたものと、そのデザインが説明される。拡大
9.3インチの縦型タッチスクリーンが全グレードに標準で装備される。写真は「マルチセンス」と呼ばれる走行モード選択画面で「Sport」を表示させた様子。「Apple CarPlay」「Android Auto」のスマートフォン接続はワイヤレス式にアップデートされている。
9.3インチの縦型タッチスクリーンが全グレードに標準で装備される。写真は「マルチセンス」と呼ばれる走行モード選択画面で「Sport」を表示させた様子。「Apple CarPlay」「Android Auto」のスマートフォン接続はワイヤレス式にアップデートされている。拡大
デジタルインストゥルメントパネルは従来型の7インチサイスから、全面液晶ディスプレイとなる10インチサイズに拡大された。写真は「Sport」を選択した際のメーターデザイン。
デジタルインストゥルメントパネルは従来型の7インチサイスから、全面液晶ディスプレイとなる10インチサイズに拡大された。写真は「Sport」を選択した際のメーターデザイン。拡大
急加速を行うのでなければ、50km/h近くまではほとんどのシーンでエンジンがかからず、モーターのみで駆動をまかなう。街なかの走行はモーターが主体になるから、日常使いでの燃費が期待できる。
急加速を行うのでなければ、50km/h近くまではほとんどのシーンでエンジンがかからず、モーターのみで駆動をまかなう。街なかの走行はモーターが主体になるから、日常使いでの燃費が期待できる。拡大

若者にオススメしたいが……

ボディーが軽量であることは、燃費だけでなく操縦性にも有利に働く。どっしり感のあるアルカナと違って軽快さが前面に出ている。鼻先の軽い感じが好ましい。SUVも走行性能が向上しているが、やはり低くてコンパクトなハッチバックは一味違う。クルマってこういう動きをするんだったな、と懐かしさすら感じた。無駄や過剰さを排したシンプルさは、いまや貴重なのかもしれない。

ハッチバックというカテゴリーが衰退気味であることは事実である。ルーテシアの後席は忍耐を強いられる空間ではないが、現在の感覚では狭いと感じる人が多いだろう。ユーザーの要求はエスカレートするもので、便利さや楽な使い勝手を経験すると過去には戻れなくなる。「足るを知る者は富む」などと老子の言葉を持ち出すのは説教臭くて嫌われるからやめておこう。

ルーテシアのマイナーチェンジモデルがデザインのキーワードとして挙げているのは「アサーティブ」。耳慣れない言葉だ。それはルノーも承知していて、「強い主張を持つ、際立つ」と説明を加えている。昨今はプレミアムとかエモーショナルとかの言い回しがやたらに使われてさすがに飽きられてきたのだろう。安易な言葉遣いをせずに新しい価値を表現しようとしている姿勢には敬意を表したい。

デザインが洗練されて上質になり、運転が楽しくて燃費がいい。マイチェンで確実に魅力が増したルーテシアはぜひ若者にオススメしたい……と言いたいのだが、価格は399万円。エスプリ アルピーヌのワングレードになって安価なモデルがラインナップから消えている。同じ方針をとったアルカナは、特別仕様車の「テクノ」を実質的な廉価版として投入した。ルーテシアでも同様な施策がとられることを期待する。購入のハードルを下げて広いユーザーに門戸を開くべきクルマだと思う。

(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=ルノー・ジャポン)

「エスプリ アルピーヌ」グレードには、ブルーのアクセントカラーを用いた17インチの専用アルミホイールが標準で装備される。今回の試乗車には205/45R17サイズの「コンチネンタル・エココンタクト6」タイヤが組み合わされていた。
「エスプリ アルピーヌ」グレードには、ブルーのアクセントカラーを用いた17インチの専用アルミホイールが標準で装備される。今回の試乗車には205/45R17サイズの「コンチネンタル・エココンタクト6」タイヤが組み合わされていた。拡大
「エスプリ アルピーヌ」グレードの専用デザインとなる「A」をモチーフとしたロゴマーク入り「バイオスキン&ファブリックコンビシート」を標準で装備。フロントシートにはヒーターが内蔵されている。
「エスプリ アルピーヌ」グレードの専用デザインとなる「A」をモチーフとしたロゴマーク入り「バイオスキン&ファブリックコンビシート」を標準で装備。フロントシートにはヒーターが内蔵されている。拡大
60:40の分割可倒機構が組み込まれたシートの背もたれにより、乗員や積載物に合わせたアレンジが簡単に行える。フロントシートと同じく後席左右のシートベルトには、青い縁取りが施されている。
60:40の分割可倒機構が組み込まれたシートの背もたれにより、乗員や積載物に合わせたアレンジが簡単に行える。フロントシートと同じく後席左右のシートベルトには、青い縁取りが施されている。拡大
後席使用時の荷室容量は301リッター。荷室の左サイドには、BOSEサウンドシステムの小型サブウーファーが組み込まれている。
後席使用時の荷室容量は301リッター。荷室の左サイドには、BOSEサウンドシステムの小型サブウーファーが組み込まれている。拡大
SUV全盛のいま、車高が低くコンパクトなハッチバックの走りにはどこか懐かしさも覚える。市街地、山道、高速道路とさまざまな道を走った今回の燃費は、満タン法で約23km/リッター。カタログ値とさほど変わらない数値を確認できた。
SUV全盛のいま、車高が低くコンパクトなハッチバックの走りにはどこか懐かしさも覚える。市街地、山道、高速道路とさまざまな道を走った今回の燃費は、満タン法で約23km/リッター。カタログ値とさほど変わらない数値を確認できた。拡大

テスト車のデータ

ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4075×1725×1470mm
ホイールベース:2585mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
エンジン最高出力:94PS(69kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:148N・m(15.1kgf・m)/3200rpm
メインモーター最高出力:49PS(36kW)/1677-6000rpm
メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/200-1677rpm
サブモーター最高出力:20PS(15kW)/2865-1万rpm
サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/200-2865rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88H/(後)205/45R17 88H(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:25.4km/リッター(WLTCモード)
価格:399万円/テスト車=413万4100円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーアイロンM>(5万9400円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万8050円)/ETC1.0<ディスチャージレジスター含む>(2万3650円)/エマージェンシーキット(3万3000円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2018km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:450.4km
使用燃料:19.0リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:23.2km/リッター(満タン法)/22.2km/リッター(車載燃費計計測値)

ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH拡大
 
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】の画像拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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