第450回:あえて言います「ハチロク、残念!」 Apple製品になり損ねた、奇跡のスポーツカー
2012.04.24 小沢コージの勢いまかせ!第450回:あえて言います「ハチロク、残念!」Apple製品になり損ねた、奇跡のスポーツカー
コレは日本のロータスだ!
大好評なだけに不肖・小沢、あえて言わせていただこう。「トヨタ86」、個人的にはかな〜り残念。っていうか、かなーり悔しい、と。今じゃあまりお見かけしない、ナンとか侍みたいでナンなんですけど(笑)。
というのも先日、やっと市販された86を借りて、丸2日間公道を走らせたんですね。ライトニングレッドの「GT」を。
もう、近所の5歳児、大喜びですわ。「カーズだカーズだ、トヨタのカーズ!」って(笑)。
そして、都内から箱根の試乗会場まで、距離にして300kmぐらい乗ったわけだけど、マジで走りはいい。っていうかサイコーです! 神奈川県の大磯で開催された試乗会の時も良いとは思ったけど、長く乗るとさらに良さが伝わってくる。まさしくこれは“日本のロータス”と呼んでもいいレベルだ。
まずはハンドリングよね。試乗会で乗った時は、意外にダルいステアリングフィールが気になった。「ユーノス・ロードスター」のような「最初の5mでわかる軽さやヴィヴィッドさ」はない。だが、距離にして4〜5km、走りだして30分ぐらいするとその良さがしみじみ伝わってくる。過敏ではないが、本当にクルマと対話できているのが分かる。
路面の状況、スピードの感覚、あるいは自分の感触。その昔、英国で開かれたロータスの試乗会に行った時に、「イギリス車は馬だ」って誰か表現したけど、そういう感じ。乗れば乗るほど楽しくなる味わいだし、かといって鋭すぎて疲れるということもない。
エンジンもそう。スバル製の2リッター「フラット4」は、最高出力200psで、ことさらパワフルなわけではない。最大トルクは6000rpmを超えて20kgmちょいなので、最近の超極太低速トルクのドイツ製直噴ターボに慣れた身としては、少々物足りない。「ちょっと細いな」とも思う。
だが、これもだんだん気にならなくなってくる。それどころか、「つゆがよく染み渡ったおでん」のように、深い味わいが伝わってくる。
別にスバルのフラット4は、BMWの直6のように、鋭くスムーズに回るわけではない。独特のゴロゴロした感触とともに、あえて(?)アナログに回る。ある種のざらつきが残っているのが、またキモチいい。
やや哲学的表現になるかもしれないけど、86に乗ると「運転の楽しさってなんだっけ?」って思う。確実に楽しくて、しかも懐かしいのだ。
うまくて安い“奇跡のコラボ”
そう、運転の楽しさとは、やはりマシンが発生するダイレクトさであり、振動であり……手応えの集合体だと小沢は思う。おいしい料理やワインがそうであるように、決してひとつの要素だけでは語れない。甘み、苦み、辛味、香り、歯ごたえ……そういうものの集合体。しかも86には、1000万円級のスーパーカーのそれに決してひけを取らないレベルの“味”が、確実にある。
例えば、このクルマをポルシェやフォルクスワーゲンが作ったら、500万円以上はするだろう。これが200万円台であることを「高い」と言う人もいるけれど、俺は「大いに安い」と思う。
それに、間違いなく、トヨタだけでもスバルだけでも作れなかった。そう、これはまさに日本自動車界が生んだ“奇跡のコラボ”であり、“作品”なのだ。だから、日本以上に海外のジャーナリストがホメるのもよく分かるし、実際、日本に夢を与えてくれたと思う。
これは、いま勢いを増しているほかのアジアメーカー、例えば韓国では作れない、日本ならではの感性の商品であり、中国が今後何十年とかかっても作れない作品なのだ。そういう意味では、「日産GT-R」にも匹敵する。
例えば欧州最高レベルを誇るドイツメーカーですら、コレを作れる技術はあってもこの価格では無理だろう。「トヨタ86」と「スバルBRZ」は、日本の自動車産業が現在持ちうる力の証明なのだ。
それと、このプロジェクトを指揮したトヨタの多田哲哉チーフエンジニアが語ったように、これをある意味“クルマのiPhone”に見立て、ソフトを充実させるという戦略も悪くない。
例えば、同様に日本が誇る、世界最高峰のドライビングゲーム「グランツーリスモ」とのコラボだ。86から得られるCANデータを使えば、例えばサーキットアタック時の走りをテレビゲーム上でほぼ完璧に再現したり、F1チームさながらに走りの検証ができるシステム。コレなんか、まるでマンガそのものだし、実際にできたら、メチャクチャすごい!
「超名車」まであと一歩
ってな具合に前置きが長くなったけど、それほど素晴らしいクルマだけに、唯一残念なのはデザインだ。つくづく残念……。
特にエクステリア。もちろん、今までの80年代の国産スペシャルティーカーを考えると、悪くはない。っていうか、今のFF車と並べると、そのボンネットの低さだけでまさに“和製ロータス”。乗ってるだけで自己満足に浸れる。
しかし、ぶっちゃけ、もっとやれたと思うのだ。見ただけでもっと「ああカッコいい!」「絶対買いたい!!」ってスタイルに。なにせ、いまどきあれだけ低いボンネットを、お金のかからないウエットサンプの量産エンジンで実現できたのだから。これだけでも奇跡なのに……。
勝手言っちゃうと、一番簡単なのは“和製アストン・マーティン”にすることだったと思う。ああいう前後のボリューム感の差と、エッジ感を出せれば、恐ろしいほどカッコいいクルマに仕上がっただろう。
要するに俺が言いたいのは、このクルマの本質が多田さんが言うように“自動車版iPhoneを目指す”ことにあり、全く新しいビジネスモデルを指向すべきだということ。ぶっちゃけ、いまさら80年代のスペシャルティーカーを復活させてもまるで意味がないし、商業的な勝機は期待できない。
そこで重要になってくるのはデザインだ。今までクルマに興味を示さなかった人まで振り向かせるような“圧倒的デザイン力”!
iPhoneを見れば分かる。電話としてはちと使いづらかったり、面倒くさいところもある。しかし、それを上回る、事実上のミニパソコンがもたらす使い勝手と、持っているだけでもうれしくなる“美しさ”があったからiPhoneは勝者となり、革命を起こせた。
アーティストを自負するスティーブ・ジョブズは、iPhoneを単なる携帯電話ではなくアートとして扱った。そこがキモだ。
彼は言った。「クリエイティビティーとは、ないものを生み出すことではなく、既存の価値観の今までにないコラボレーションだ」と。
そういう意味で、今回のトヨタ86は非常に惜しいところで止まってる。ハッキリ言って、持ってるだけでもうれしくなるような美しさがない。デザイン的インパクトが足りないのだ。
もっと徹底的にカッコよければ、確かに自動車業界のiPhoneになれたし、なる可能性があった。だから、不肖・小沢はあえて嫌われるナンとか侍になったのだ! 「つくづく残念……」。
でもまあ、まだ諦めてないですけどね。トヨタさん、スバルさん、今回私は日本のプロダクトにはまだまだ可能性があることが分かりました。圧倒的な品質、さらにそれを上回る価格競争力はある。後は他にないビジョンと徹底的に美しいデザイン! それさえあれば日本車は絶対に復活する。それを確信いたしましたっ! 以上!!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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