スバルBRZ S(FR/6MT)【試乗記】
“スバリスト”も大満足 2012.04.12 試乗記 スバルBRZ S(FR/6MT)……286万6500円
トヨタとのタッグで開発された、スバルの新型スポーツカー「BRZ」。その仕上がりを、最上級グレード「S」のMTモデルで試した。
魂はエンジンに宿る
トヨタと富士重工の、いわば“資本提携記念共同開発車”が「86(ハチロク)」と「BRZ」だ。共同とはいえ、どっちが何をやったかをついつい探りたくなるが、間違いないのは、デザインとパッケージングがトヨタ、エンジンは富士重工だ。
しかし、スバル水平対向初の直噴化には、トヨタの“D4”技術が使われている。生産は全量、富士重工で、ハチロクも群馬県太田の本社工場、元「サンバー」のラインがあった場所で作られる。
試乗したBRZは、「S」の6段MT。トルセンLSDや17インチホイールを標準装備する最上級グレードで、ハチロクだと「GT“リミテッド”」に相当する。両者とも若者に熱いラブコールを送るクルマだが、スタンスはあくまで“大人のスポーツカー”だ。上々の初期受注は一番高いグレードに人気が集中しているという。
スバルの試乗車だから、当然、新宿のスバルビルにある広報部でクルマを借り、地下駐車場から走りだす。すると「これはスバルだ!」と即座に感じた。実はつい数日前、試乗会で乗ったハチロクには今ひとつピンとこなかったのだ。
なぜなのか、理由をずっと考えていたのが、そのときわかったのである。エンジンの“芸風”がトヨタ的ではなかったのだ。
ロータス・エリーゼの魂は、あの軽量アルミフレームに宿るが、ハチロク兄弟の魂はエンジンに宿っている。乗ってみると、エンジンがいちばん支配的なクルマだということがわかる。とすると、この新型FRスポーツカーはスバルとして乗ったほうがわかりやすいし、しっくりくる。
豆腐でいうなら「木綿の味」
直噴2リッター水平対向4気筒は200ps。リッター100psを実現したハイチューンユニットは、自然吸気のスバル・ボクサーユニットとしては、最も高回転を好む。7000rpmを超すと、計器盤に赤い警告灯がつき、7500rpm手前でリミッターに当たってやや唐突に頭打ちになる。
とはいえ、シュンシュン軽く回るタイプではない。例えば、「ホンダ・シビック タイプR」の2リッターツインカムのような“抜け”のよさはない。回して使うよりも、下からのトルクに乗せて走ったほうが楽しいし、ハマる。
100km/h時の回転数は、6速トップで2600rpm。そこからアクセルを踏めば、十分に力強い加速が得られるが、そんな低回転でも決してモーターのように滑らかではなく、ちょっとざわざわした回転フィールを伝える。豆腐なら、絹ごしじゃなくて、木綿豆腐だ。でも、そうしたキャラクターはスバルのフラット4そのものである。“サウンドクリエーター”によって演出された低音の排気音も、進化によってかき消されてしまったあのボクサーサウンドをほうふつさせる。
パッケージングにおける最大のうたい文句は「低重心」だ。しかし、それよりもむしろワイドトレッド感のほうが印象的だ。ボディー全幅は1775mmだが、ステアリングを握っていると、もっとワイドなシャシーで路面をつかんでいる感じがする。まさにそれが低重心の成果なのかもしれないが。
サスペンションはハチロクと同じだが、チューニングは微妙に異なる。BRZはフロントが硬め、ハチロクは逆にリアが硬めといわれる。
楽しめて、使える
シャシーの性格は、ハチロクのほうがよりテールハッピーである。トラクションコントロールをフルに効かせていても、ハチロクはズルッと流れて、ギュッと止まる。けっこう派手に遊ばせてくれる。それに比べると、BRZはより安定志向で、ハチロクほどお尻は流れない。
とはいえ、これだってワインディングロードでの楽しさは一級だ。同じFRでも、オン・ザ・レールで安定した「BMW 120iスポーツ」あたりと比べれば、はるかに自由度の高いFRドライビングが味わえる。
ハッチバックではない完全なる2ドアクーペ。そのせいもあってか、ボディー剛性は極めて高い。ワインディングロードではこれだけ遊べるクルマでも、「大人のスポーツカー」たり得ているのは、ボディーに高品質な剛性感があるからだと思う。
リアシートは2+2以上の広さをもつ。一方、後席背もたれを前に倒してトランクと貫通させると、外観からは想像できないほど広い床面積の荷室が生まれる。ロードバイク(自転車)なら1台、積めそうだ。細かいところだと、全開まで途中2段階のノッチがつけられたドアは、親切で使いやすかった。
スバルはトヨタのグループに属する会社だが、ハチロク/BRZブラザーズというクルマのなかで、スバルの存在感はとても大きい。かつて「AE86」を楽しんだ人たちが新しいハチロクに乗ったら戸惑うかもしれないが、スバリストはBRZをすんなり受け入れて、おそらく拍手喝采を送るだろう。
「i-MiEV」や「リーフ」が現実のクルマになったいま、こんなにビート感のあるエンジン車が出てきたことを素直に喜びたい。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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