レクサスIS プロトタイプ試乗会【試乗記】
仕上がりは上々 2013.04.19 試乗記 レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)/IS350“バージョンL”(FR/8AT)/IS350“Fスポーツ”(FR/8AT)正式な発売に先立ち、新型「レクサスIS」のプロトタイプが箱根に登場。仕上がりは上々だが、“ドイツ御三家”相手に足りないものがあるとすれば、それは……。
ようやくのハイブリッド
変えたい、変わりたい、という強い決意を驚くほどアグレッシブなフロントグリルに表現したレクサスの新型「IS」。話題は豊富だが、中でもやはり注目度一番はハイブリッドの「300h」だろう。7年以上前の新生レクサスのスタート時から、ハイブリッドをブランドの核心的価値のひとつに据えながら、レクサスの中で唯一ハイブリッドモデルが存在しなかったのがISであり、同じくレクサス中で唯一、海外向けにディーゼルモデルをラインナップしていながら、新型ではそれを廃止してヨーロッパでもハイブリッドで勝負するという。3月から始まっている国内受注の7割がハイブリッドの300hだというから、それだけ期待は大きかったといえる。
ちなみに、今回はあくまでも市販前のプロトタイプをクローズした箱根の山道で次々に乗り換えるという限定的な条件での試乗ゆえ、価格や燃費など重要な情報はまだ公表されていない。手短にテキパキ進めよう。
新型IS300hは2.5リッター直4の2AR-FSE型アトキンソンサイクル・エンジンにモーターを組み合わせ、システム最高出力162kW(220ps)を生み出すパワートレインを搭載している。先に登場した「クラウンハイブリッド」と基本的に同じだ。ゆっくりと走る限り、滑らかで静かで、まったく文句の付けどころがない。さすがレクサス、さすがトヨタと言うべき洗練度だ。
構造を見直して剛性がアップしたというステアリングはごく自然で正確な手応えを示し、またいっぽうでブレーキのフィーリングも、もはや回生ブレーキの存在を感じさせないぐらいに大きく改善されている。もっとも、時間に追われてペースを上げるとビーンというエンジン音がやや耳につくうえに、もう少し力強さが欲しいのが正直なところ。無論「HS」などとはレベルが違うが、それでも5000rpm辺りに達すると、回転の伸びがめっきり鈍り、あとは車速が追い付いてくるのをただ待つだけといった電気式無段変速特有の感覚は、切れ味鋭く変速できるガソリンあるいはディーゼルのライバルと比べてちょっと歯がゆい。
スポーツセダンたるISではパワーと燃費を両立させたハイブリッドを狙ったというが、とりわけ高速域でディーゼルターボを積んだライバルに比べてどう受け止められるかが問題である。
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しなやかで切れ味鋭い「IS350」
欧州のライバルと真っ向勝負しようという意図はパッケージングにも見て取れる。新型はホイールベースを70mm増しの2800mmに延長し、シート形状の改良と合わせてリアのレッグルームを85mm拡大したという。このホイールベースは「メルセデス・ベンツCクラス」を上回り、「BMW 3シリーズ」(2810mm)と同等。実際、後席スペースは従来型から大きく改善され窮屈さはまるで感じられない。
また、ニッケル水素のハイブリッドバッテリーをラゲッジルームのフロア下に収め、リアサスペンション・コンポーネントの配置を見直したことによってフラットな荷室を実現。その容量はハイブリッドでも従来比72リッター増の450リッター、ガソリンモデルでは480リッター(+102リッター)まで増加しており、さらにすべてのモデルにトランクスルー機能が備わっている。ハイブリッドだから、という言い訳をしないレクサスの真面目さがよく表れているといえるだろう。
洗練されたスポーティーさという点では、318psと380Nm(38.7kgm)を発生する直噴/ポート噴射併用の3.5リッターV6を積む「IS350」の“バージョンL”が最も好印象だった。V6は従来型を踏襲したものだが、新たに「IS F」と同じ8-Speed SPDSと称する8段ATを採用(350のみ)したことで、スロットルペダルを踏みこむとなかなか野性味あるサウンドを発しながらシャープに回るV6エンジンの実力を存分に引き出すことができる。
8ATの電光石火かつ滑らかなシフトだけでなく、ハンドリングも洗練されている。スムーズだが突っ張り感のあった初代ISとは見違えるようにサスペンションの動きにストローク感があり、乗り心地はリアにハイブリッドバッテリーを積むせいで幾分強化されていると思われる300hよりもさらにしなやかで滑らかだ。いっぽうでボディーの挙動も適切にコントロールされ、ダイナミックなバランスも良好、その自然で機敏なレスポンスは上質なスポーティーさを感じさせる。
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良いだけでは足りない世界
もはや般若の面のような専用グリルやバンパーで独自性を主張するスポーティーグレードの「Fスポーツ」は、正直言って評価が難しい。コスメティックだけではなく、可変ダンパーのAVSや可変ステアリング(VGRS)、後輪操舵(そうだ)を統合制御するLDH(レクサスダイナミックハンドリング)を加えた専用サスペンションを備え、走行性能を追求したという仕様だが、他のモデルと圧倒的に違うというほどのレベル差を感じなかったのだ。確かに高速域でもグイグイ曲がるスタビリティーの高さは際立っているが、350“バージョンL”でも十分に高レベルにあるし、より軽やかだ。もともとスポーツセダンのISで、しかもIS Fが別に存在する中で、ここまで攻撃的な装いをまとって何を求めるのか疑問なしとしない。
ひとつだけFスポーツで明らかに優れていると感じたのはブレーキだ。踏み始めの制動力の立ち上がり、ペダルの剛性感などが素晴らしい。聞けばどうやらブレーキキャリパーのサイズが違うらしいが、プロトタイプゆえ残念ながら詳細は不明である。
新型ISが素晴らしい出来栄えに仕上がっていることはプロトタイプでも十分実感できた。だが問題は、真摯(しんし)な努力を積み重ねて優れたニューモデルを生み出したとしても、ドイツ御三家をはじめとして、世界中のプレミアムブランドが主戦場としているこの世界では十分ではないということだ。
良い車を作れば顧客は分かってくれるという生真面目さがトヨタの美点であることは疑いないが、競争相手の弱点をすかさず突くような抜け目のなさも同時に必要、「この手があったか!」とライバルにインパクトを与え、歯がみさせなければならない。
その意味で、インストゥルメントパネルなどの仕立ては緻密で整然としてはいるが、煩雑で黒っぽく新鮮味に欠ける。品質に対する誠実さを忘れずに、ライバルを出し抜き、斬新なショックを与える技をさらに考えなければならないだろう。もちろん、それはアグレッシブなグリルデザインなどではなく、レクサスだけの、独自のお家芸のことである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
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