メルセデス・ベンツCLA250(FF/7AT)【海外試乗記】
メルセデスのビッグスリー的展開 2013.04.01 試乗記 メルセデス・ベンツCLA250(FF/7AT)「Aクラス」などとFFシャシーを共有する、メルセデス・ベンツの小型4ドアクーペ「CLAクラス」が登場。その走りやいかに。南仏からの第一報。
メルセデスといえども……
かつてメルセデス・ベンツというメーカーは、大ざっぱに言えば、「Sクラス」と「Eクラス」、それにスポーツカーの「SL」という3つのモデルで商売をしてきた。また、ひとつのモデルを長くつくり続けた。その代わり、モデルチェンジの度にド偉い進化を遂げるため、それで十分ライバルに伍(ご)していくことができたのだ。メルセデスだけでなく、ヨーロッパの自動車メーカーは概してそういう傾向にあった。
これに対し、アメリカのビッグスリーは、早くからいろいろなモデルを取りそろえ、毎年細かいランニングチェンジを繰り返した。顕著なのがGMで、モデルチェンジの度に従来型が時代遅れに見えるよう、変化のための変化を繰り返した。古いマーケティング用語で「計画的陳腐化」と呼ばれる手法だ。日本の自動車メーカーは、どちらかというとビッグスリー的な手法で商売を続けてきた。
どちらが正しいということではないが、通信技術の進化などによって、人々がアクセスできる情報量が昔とは比べものにならないほど膨大になった現代では、商品が飽きられ、競争力を落とすのが早くなったため、メルセデスといえども、ビッグスリー的な商売を強いられるようになった。今ではビッグスリーに劣らぬモデルラインナップを取りそろえる。
そして今年、「CLAクラス」という新しいモデルが増えた。「A/Bクラス」が用いるFF用プラットフォームを用いた4ドアセダンだ。メルセデスは4ドアクーペと呼ぶ。さらに、彼らはこのプラットフォームから、「GLAクラス」というコンパクトSUVと、コンセプトは明らかになっていないものの、もう1車種つくると明言していて、都合5車種を取りそろえるという。
“コンフォートサス”仕様に好感
FFプラットフォームの打ち出の小槌(こづち)ぶりは、すべてが明らかになった頃にでもあらためてご報告するとして、CLAだ。このクルマに対して、僕は変な出会いかたをした。姿を見たのは、3月頭のジュネーブショー(正確にはその前夜のプレス向けパーティー)が初めてなのだが、その3カ月前、オーストリアのサーキットで、内外装をカムフラージュしたCLAの助手席で同乗走行を体験する機会があった。見るより前に乗っちゃったのだ。
かなりハンサムだ。ほどよくアバンギャルドだが、難解なデザインではなく、わかりやすさもある。ところどころにコンケーブ(えぐれ)があって、抑揚を感じさせる。サイズは現行型「Cクラス」くらい。CLA誕生はだから「次のCはもう少し大きくさせていただきます」というメッセージでもある。これまでのCクラスが日本で絶妙なサイズを保ってきたように、CLAも日本で使うのに最適だ。南仏の山道は道が狭いうえ「そりゃそっちは少々ぶつかってもいいよね」と言いたくなる地元グルマと対面通行する区間が多かったので、取り回しやすいサイズのCLAで助かった。
FFなのでエンジンは横置き。日本向けには、いずれも直噴直4ターボエンジンの1.6リッター(CLA180)と2リッター(CLA250)が用意される。どのモデルもトランスミッションは7段デュアルクラッチトランスミッションが備わる。
用意されていたのは「CLA250」。この2リッターエンジンは、211ps/5000rpmの最高出力もさることながら、35.7kgm/1200-4000rpmの最大トルクに注目すべき。自然吸気なら排気量が3.5リッターほど必要なトルクを、自然吸気ではなし得ない回転の低さ、回転域の幅広さで発生している。例えば、最大トルク38.7kgm、発生回転数1750-2750rpmのディーゼルエンジンを積む「BMW 320d」に対して、さほど劣らぬトルクを、より低い回転数から、幅広いゾーンで発生するのだ。
AやBと同じように、CLAにはスポーツサス仕様とコンフォートサス仕様がある。AもBも日本仕様ではスポーツサスが採用されている。特に「A180」で感じるキビキビとした動きは、ステアリングのギア比あたりも関係するのだろうが、スポーツサスによるところが大きいのだろう。CLAの場合、メルセデスと聞いて想像する通りの乗り味を感じることができるという理由で、僕はコンフォートサスのほうを好む。どちらが正しいということはない。250に積まれる2リッターエンジンはとてもパワフルで、おそらく往年の「シビック タイプR」あたりよりも速いので、スポーティーな足にも一理あるのだが、CLAはコンパクトなクラスとはいえ、メルセデスだ。典型的なメルセデスライドを期待したいじゃないか。
4MATICはAMGのために
空力性能のよさはCLAの特徴のひとつだ。Cd値は0.23と市販車としては最も優れた部類に入る。またこの数値に前面投影面積をかけた実際の空気抵抗値も0.51平方メートルと非常に小さい。なお、6月には「CLA180ブルーエフィシェンシーエディション」という空力スペシャルも投入される予定。これはAピラーの周りやドアミラーの形状を見直し、専用ホイールを装着し、アンダーボディーを最適化するなどして、Cd値0.22を実現した。ただ、残念ながらこちらは日本導入予定はないとのこと。
うれしいことに、CLA250は日本仕様でも4MATICモデルを選ぶことができる。必要に応じてトルクをリアにも配分するオンデマンドタイプ。FF車の上限かそれ以上にトルキーなエンジンを搭載するだけに駆動力を4輪に分散できるのはありがたい。短時間ながら4MATICモデルも体験できたのだが、砂まじりの舗装路でのトラクションはFFとは段違いだった。俺は走るよ! と自負する人には4MATICをオススメしたい。
なぜメルセデスがAやCLAのために4MATICを開発したかというと、AやCLAに追加設定されるAMGモデルのエンジンが、最高出力360ps/6000rpm、最大トルク46.0kgm/2250-5000rpmと、「ランエボ」や「インプレッサWRX」も真っ青のスペックを誇り、駆動が前輪だけでは到底受け止めきれないからだ。Aは「A45 AMG」、CLAは「CLA45 AMG」として、順次日本にも導入される。
通常のCLAクラスは今年秋以降に日本に導入される。「CLA180」「250」「250 4MATIC」の3種類で、価格はAクラス+数十万円といったところか。折しもアウディが「A3」ベースのセダンを発表したばかり。間もなくCセグメントはハッチバックばかりでなく、セダンも含めた大盛り上がりを見せるようになるはずだ。僕の周りに「6月に新型『ゴルフ』が出るまでは買い換えられないよ〜」という輸入車ファンが何人かいるが、彼らは6月以降も悩み続けることになるのだ。
(文=塩見智/写真=メルセデス・ベンツ日本)

塩見 智
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