第294回:【Movie】麗しの上海でクルマウォッチング
大矢アキオ、捨て身の路上調査員「上海編」
2013.05.03
マッキナ あらモーダ!
エネルギッシュな街で
上海の目覚まし時計は、クルマのホーンと工事現場の機械音、それらにつられて起きる犬の鳴き声だ。それは日曜日とて同じである。エネルギッシュな街だ。
街に出れば、イタリアのアウトストラーダでは月に1回見るか見ないかといった高級車が次から次へとやってくる。その数は、上海万博が行われた2010年から、さらに増えている。
それもそのはずだ。今や上海で頻繁に見かける「ポルシェ・カイエン」および「パナメーラ」は、世界中で中国が第1位のマーケットなのである。ランボルギーニにとっても、米国に次ぐ第2位のマーケットだ。
2012年の乗用車販売台数を比較しても、活況は明らかである。EUは、加盟国すべてをまとめても1205万台(前年比8.2%減)にしか及ばないのに対し、中国は前年比7.1%増の1550万台を記録した。
特に富裕層の多い上海では、メーカーの力が入る。例えばシトロエンは今年の上海モーターショーに合わせ、DSブランド専門ショールームを市内にオープンした。各ブランドにとっては、まさに古典的な旅行パンフレットのキャッチのごとく「麗しの上海」なのである。
たしかに、習近平主席の綱紀粛正政策によって、中国では時計など高級品の売り上げにブレーキが掛かり始めているのは事実だ。今回撮影した上海の淮海中路駅付近や人民広場において、ブランドショップのビルの豪華さに対して妙にお客が少ないのは、その兆候かもしれない。
しかし、そうした一流店がずらりと立ち並ぶ間を、前述のような高級車が東京以上の頻度で交差する光景は、ボクが子どもの頃、まだ人民服を着た人がいた国とは到底思えない。
ついでにいうとボクにとっては「ケンタッキーフライドチキン」「スターバックスコーヒー」「ダンキンドーナツ」といった店を目にするたび、それらがいまだ進出していないイタリアのほうが、よほど社会主義圏っぽく感じる。
中国ブランドは意外に少ない
以下は地下鉄・淮海中路駅近くの閑静な路地に10分ほど立っていたところを通り過ぎたクルマたちである(動画の内容とは違います)。鳥インフルエンザが報道されるなか、いちおう日本から送ってもらった「空間除菌ウィルスブロッカー」を首にかけて臨んだ。
フォルクスワーゲンタクシー(大半は「サンタナ」):65台
ビュイック:16台
フォルクスワーゲン:11台
メルセデス・ベンツ:9台
BMW:8台
アウディ:5台
トヨタ、フォード、シボレー:各3台
ポルシェ、マツダ、ホンダ、日産、プジョー:各2台
キア、MINI、キャデラック、インティニティ、レクサス、ボルボ、三菱、ダッジ:各1台
中国ブランド各種(長城、福田など):15台
際立つのは、やはり上海製「フォルクスワーゲン・サンタナ」のタクシーの多さである。同様に、ビュイック、メルセデスといった中国工場をもつブランドが依然目立つ。
いっぽうで、たとえ韓国GMがシボレーブランドであるとはいえ、欧州で健闘する韓国車が、ここ上海で陰が薄いのは意外であった。また、中国ブランド車は、福田汽車のワゴン「風景」に代表される商用車が大半だ。
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すさまじいホーン
それにしても、上海のドライバーの運転は勇ましい。にもかかわらず、バンパーに傷があるクルマが極めて少ないのは、イタリアと違うところである。
また、動画を見ていただくとわかるが、上海のドライバーは、相変わらず車格に関係なく、よくホーンを鳴らす。
そうした習慣の起源を考えるヒントを与えてくれたのは、動画(後編)の最後に出てくるような「自転車に乗る人たち」である。彼らのなかには、運転中ずっとベルを鳴らしている人がいる。前述の人民服時代を彷彿(ほうふつ)とさせる光景だ。クルマも、そのノリを自然と継承したものと思われる。
眺めていたら、初めて自転車を買ってもらった頃の自分を思い出した。うれしくて、走るときずっとベルを鳴らし続けていた。ホーンを鳴らす理由の大半は本気で「あぶねえじゃねえか!」「早く行け! このやろう」という意思表示だろう。
だが、明らかに安全な所でも使用しているところからして、いいクルマを買ってうれしさのあまり、また自らを鼓舞するために鳴らしている上海人も混じっているに違いない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio L.OYA、Mari OYA)
大矢アキオ、捨て身の路上調査員「上海編」(前編)
大矢アキオ、捨て身の路上調査員「上海編」(後編)
(撮影・編集=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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