第4回:寒いのは苦手(その2)
2012.03.21 リーフタクシーの営業日誌第4回:寒いのは苦手(その2)
電気自動車ってハイブリッド!?
朝のニュースで見た火事はとっくに消火され、ストップしていた京浜東北線も走りだしていたけれど、それでもJR王子駅前の明治通りに並んだ15台ほどの消防車の姿が騒然とした雰囲気を少しだけ残していた。
リーフタクシーの運転手(=矢貫隆)は「まずいな」と考えていた。たった2回しか客を乗せていないのにバッテリーを半分も使ってしまったのだ、この調子ではカラになるのは時間の問題。それならば千代田区役所の近くで営業するのが無難だろう、と。
明治通りを進み、西巣鴨の交差点を左折して中山道を都心に向けて走りだす。そこで客を発見。都電の新庚申塚駅の近くに大勢の中年男女が立っていて、やってくる何台かのタクシーを片っ端から止めていた。リーフに乗ったのは3人。助手席に男性が、後席の2人は女性である。
「あらッ、ね、あなた、このタクシー、電気自動車って書いてあるわよ」
後席の女性に「あなた」と呼ばれた男性が「へ〜っ」と関心ありげに運転手の顔を見て、それから彼女の方を振り返って「お前、電気自動車ったってわかんないだろ、クルマの免許も持ってないんだし」と言った。夫婦らしい。
「ということは運転手さん、このクルマ、ハイブリッドなんだね」
いえ、電気自動車です。
「電気自動車ってハイブリッドじゃなかったの?」
こいつ何にもわかってないとは思ったけれど、“あなた”に恥をかかせてもいけないし、説明に困っているうちに“あなた”も何となく意味を察してくれたようだった。そして運転手は、“あなた”が次に繰りだす質問が、あるいは次の次くらいに繰りだす質問が何なのか、もう想像がついていた。
だから電気自動車だってば
「リーフって、テレビでコマーシャルやってる、あれ?」
はい。
「じゃ、電気自動車なんだ」
はい。
「リッター何kmくらい走るの?」
この質問である。
「ええ〜ッ、ガソリン使わないの? ぜんぜん使わないの? ほんとに?」「あなた、だから電気自動車なのよ」
「うるさい、お前は黙ってろ。電気自動車のことなんてわかってないんだから」
もう、あなたったら、負けず嫌いなんだから……と、後席の奥さんに代わり運転手は胸の内で言うのだった。
「しかし、リーフのタクシーって珍しいね。初めて乗ったよ」
“あなた”が話題を変えた。
うん、もちろん初めてのはずだ。東京には6万台ほどのタクシーが走っているけれど、電気自動車のタクシーはたったの19台しかないのだから(数台の「i-MiEV」を含む)。
「へ〜ッ、19台しかないタクシーに乗れたなんて、そりゃ、ラッキーだな」
とか言ってるうちに目的地に到着。先発のタクシーも後発のタクシーもほぼ同時に到着し、すると“あなた”は2690円の料金の支払いを奥さんに任せ、急いでリーフを降りると別のタクシーに乗ってきたお仲間に報告である。
「俺らが乗ってきたタクシー、電気自動車だったよ。静かだし、速いし、びっくりした。東京に19台しかないんだってさ」(つづく)
(文=矢貫隆/写真=郡大二郎)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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