レクサスIS300h“Fスポーツ”(FR/CVT)/IS250“バージョンL”(FR/6AT)/IS350“Fスポーツ”(FR/8AT)
新世代レクサスの集大成 2013.06.21 試乗記 「真の“走る楽しさ”の体現」をキーワードに開発された新型「IS」。同モデル初のハイブリッド「300h」からトップグレード「350」まで、最新レクサスの走りを試した。“スポーツ”にとことんこだわる
2005年の8月に日本でも立ち上げられたレクサスブランド。その中にあって、スーパースポーツである「LFA」を除くと、「IS」は「ラインナップきってのスポーツモデル」という位置づけだ。海外マーケットに向けては初代のISであり、日本国内では「トヨタ・アルテッツァ」として販売された先々代モデルから、そうした位置づけに変わりはないという。
そして、このほどデビューした3代目モデルが、その“スポーツ”というキャラクターをより際立たせる方向でのリファインを行った事は明らかである。一見して「ISだ」と理解できる全体の雰囲気をキープしつつも、例のスピンドルグリルや、リアドアの下部からテールランプに向けて大胆に跳ね上がるキャラクターラインなど、よりアグレッシブで躍動感に富んだデザインを採用しているからだ。
一方で、そんな新型ISのボディーディメンションが、全長は「メルセデス・ベンツCクラス」と同等、全幅は「BMW 3シリーズ」と10mm違い、ホイールベースは3シリーズ/「アウディA4」とやはり10mm違い、という値に落ち着いた事は、このモデルがいわゆる“欧州Dセグメント”のカテゴリーをあらためて強く意識している事実をも示している。
販売の主戦場はアメリカであっても、そこでのコンペティターとして考えるのも、クルマづくりの参考として一目置くのも、やはり“ジャーマン・プレミアム3”。――それは間違いないのである。
エコ性能でディーゼルをしのぐ「300h“Fスポーツ”」
そんな欧州勢との戦いを意識しながら、“後出しジャンケン”で負けてしまうのでは意味がないとばかりに、満を持して投入したのが、このモデルでは初となるハイブリッド仕様の「300h」だ。
23.2km/リッターというクラスの常識を越えた燃費(JC08モード)をたたき出す300hは、欧州測定モードでは99g/kmというCO2排出量をアピールする。この“2桁CO2”というのは、最新ディーゼルエンジンを搭載するかの地のライバルたちも達成できない「驚きの値」なのだ。新型ISのハイブリッドモデルは、実は欧州でのこうした成績を念頭に開発されたものでもあるという。
そんな300hで出発してみると、やはり加速のパフォーマンス自体はそう大したものではない、というのが実感だ。
街乗りシーンや、幹線道路のちょっと素早い発進加速程度では、まずはモーターのみでスルスルと走りだし、気付かぬうちにエンジンが始動して静かに加速を続けるという、おなじみのトヨタ2モーター式システムならではの滑らかさが心地よい。だが、山岳路へと差し掛かり、アクセルペダルの踏み込み量が増していくと、3500rpmを超えるあたりからエンジンの存在感が目立つようになり、それまでの静粛を打ち破って耳に届く4気筒エンジンならではのノイズがちょっとやかましいという印象が、急速に強まってしまうのだ。
ある時点から加速度的に物足りなさが顔をのぞかせるこうした動力性能のフィーリングのせいで、率直なところ300hを“生粋のスポーツセダン”と受け取るためには、「いま一歩、たくましさに欠ける」と感じざるを得ない。しかしそれを承知の上で、まずは“2桁CO2”ありきで開発されたのが今回のモデルという事なのだろう。
「ディーゼルをしのぐエコモデル」というフレーズと共に欧州市場に切り込むために、動力性能はある面割り切った部分があると開発陣も認めている。
そんな300hだが、フットワークの印象のよさが後述するガソリンモデルとほとんど変わらないのは、4気筒エンジンの採用によって6気筒ユニット搭載のガソリンモデルと比べて重量増が避けられた事に加え、駆動用バッテリーが後輪直後の低い位置に搭載され、前後重量配分の均等化と低重心化が実現された影響もあるはずだ。
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飛ばさなくても心地よい「250“Lパッケージ”」
300hに対して60万円安のスターティングプライスを掲げて、エントリーグレードとしての位置づけをアピールすると共に、唯一4WD仕様を用意する点から雪国の人々の興味を引きそうなのが、2.5リッターV6エンジンを搭載する「250」シリーズだ。
3.5リッターエンジンに比べると、その最高出力は100ps以上もダウン。けれども、それでもその値は200psを軽くオーバーするだけに、日常シーンで物足りなさを感じる機会は皆無と言って差し支えない。
かくして、実用性では「これで文句ナシ」の実力の持ち主ではあるのだが、惜しむらくはこちらのエンジンには「350」には新採用の8段ATが組み合わされなかった点にある。
「適当なトルク容量のATユニットがまだ存在せず、コストアップも避けられない……」などと、開発陣からは“言い訳”も聞かれるが、変速時のエンジン回転数変動が抑制され、よりワイドな変速レンジが得られるさらなる多段化が実現していれば、さらに上質な動力性能が獲得できた事は疑いない。
そもそも、一級スポーツカー並みの350の加速力は“過剰”という人にとって、250は決して「安価だから選ぶ」という存在ではないはず。見方によっては250シリーズ全体に“格下感”も生まれそうなこのトランスミッションの設定は、プレミアムモデルをうたうISにはふさわしくないように思う。
電子制御式の可変減衰力ダンパーを含む「スポーツサスペンション」採用の「250“Fスポーツ”」と、それが履くものと同銘柄同サイズの18インチシューズを履いた「250“バージョンL”」の2台をテストドライブしたが、より強い好印象を抱いたのは後者だった。まるで自身がクルマの一つのピースとなったかのような、いわゆる“人車一体感”が飛び切り強く、常にフラットな姿勢のまましなやかに路面をなめるテイストはすこぶる秀逸だ。
連続するコーナーでは、まるで自分自身が“旋回中心”となったような感覚が新鮮。「飛ばさなくても心地よい」というのは特筆すべきポイントだ。もちろん“Fスポーツ”も同様の感覚を味わわせてはくれる。が、前述のように“特別な足まわり”を採用する一方で、それは“バージョンL”での好印象を大きく上回るものではなかった。
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別格のプレミアムスポーツ「350“Fスポーツ”」
「IS F」が従来型のまま継続販売中の現在、新型IS中での最強グレードが「350」シリーズだ。中でも、その“Fスポーツ”には300h、そして250のそれとは別格のスペシャルチューニングが施されている。350“Fスポーツ”のみには、電子制御式の可変ギア比ステアリングや4WSシステムなどを統合制御する「ダイナミック・ハンドリングシステム」が与えられているのだ。
そんな350“Fスポーツ”でワインディングロードに繰り出すと、0-100km/hを5秒台でクリアしてしまうであろう3.5リッターエンジンと8段ATの組み合わせが生み出す強力な加速力もさることながら、「これ以上やったら“過敏”かな」というスレスレのところでまとめられた、ステアリングの切り込みから間髪入れずの回頭と横Gの発生が印象的だ。
何ともシャープな挙動でありながら、プレミアムスポーツモデルらしいどっしり感も演出され、前述した250の場合以上に高く濃密な“人とクルマの一体感”を味わう事ができる。乗り手に違和感を抱かせず、同時にコンベンショナルな脚では困難だろうなと思わせるそんな“落としどころ”は、なかなか見事なポイントだ。
同時に、そんな特徴的な走りの感覚を達成させながら、ハイレベルな快適性も両立させている点にも価値がある。スポーツモデルでありながらもあくまでもしなやかな乗り味は、やはりそのしなやかさに感激させられる、いくつかの最新欧州スポーツモデルとも一脈通じる印象だ。そしてそれは、たとえダンパーのセッティングを最もハードな「スポーツS+」のポジションに合わせたときにも、大きく変わる事はない。
個人的に今度のISラインナップの中からベストな一台を選ぶとすれば、この350“Fスポーツ”か、逆に250のベーシック仕様のどちらかになると思う。
前述の250シリーズへの8段AT未搭載やこの期に及んでのアイドリングストップ機構の未採用、せっかく「GS」で電動化されたのになぜに足踏み式に逆戻り? のパーキングブレーキなど、不満な点も皆無ではない。
しかし、このところ“国際競争力がガタ落ち”と思えるものばかりだった日本発の最新モデルの中に、こうした納得の内容の持ち主が現れた事は、“レクサスのこれから”への期待を含めて素直に喜びたいと思う。
(文=河村康彦/写真=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
レクサスIS300h“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm
ホイールベース:2800mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178ps(131kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:22.5kgm(221Nm)/4200-4800rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:30.6kgm(300Nm)
タイヤ:(前)225/40R18 88Y/(後)255/35R18 90Y(ブリヂストン・トランザ ER33)
燃費:23.2km/リッター(JC08モード)
価格:538万円/テスト車=616万150円
オプション装備:プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万3000円)/“Fスポーツ“専用本革スポーツシート+電動チルト&テレスコピックステアリングコラム+オート電動格納式ドアミラー+後席SRSサイドエアバッグ+ブラインドスポットモニター(37万8000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万2000円)/LEDヘッドランプ+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(5万2500円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万4150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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レクサスIS250“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm
ホイールベース:2800mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6AT
最高出力:215ps(158kW)/6400rpm
最大トルク:26.5kgm(260Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88Y/(後)255/35R18 90Y(ブリヂストン・トランザ ER33)
燃費:11.6km/リッター(JC08モード)
価格:480万円/テスト車=544万7850円
オプション装備:フロント225/40R18+リア255/35R18タイヤ&アルミホイール(5万1450円)/プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万3000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万2000円)/ブラインドスポットモニター(5万2500円)/LEDヘッドランプ+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(19万4250円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万4150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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レクサスIS350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm
ホイールベース:2800mm
車重:1640kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8AT
最高出力:318ps(234kW)/6400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88Y/(後)255/35R18 90Y(ブリヂストン・トランザ ER33)
燃費:10.0km/リッター(JC08モード)
価格:595万円/テスト車=696万3250円
オプション装備:プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万3000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万2000円)/“Fスポーツ“専用本革スポーツシート+電動チルト&テレスコピックステアリングコラム+オート電動格納式ドアミラー+後席SRSサイドエアバッグ+ブラインドスポットモニター+オーナメントパネル[クラフテッドラインウッド](46万9350円)/LEDヘッドランプ+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(19万4250円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万4150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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