ボルボS60 T4 R-DESIGN(FF/6AT)【試乗記】
スポーティーセダンの在り方 2012.03.15 試乗記 ボルボS60 T4 R-DESIGN(FF/6AT)……435万円
1.6リッターターボエンジンを搭載する「S60」に「R-DESIGN」が限定で設定された。環境性能とスポーティー性を両立させたモデルの走りを試す。
100台限定の「R-DESIGN」
ボルボの「R-DESIGN」は、専用の内外装と強化されたシャシーが与えられたグレードである。3リッター6気筒エンジンを搭載するAWD(4WD)の「S60」「V60」「XC60」と、2.5リッター5気筒を積む「C30」にはカタログモデルとして存在するが、今回登場した「S60 T4 R-DESIGN」は100台の限定販売となる。
ベースになったのは、1.6リッター4気筒ターボエンジンを搭載する「S60 DRIVe」。パワートレインはそのままに、シャシーのチューニングが施されている。フロントとリアのスプリングを「S60 T6 AWD SE」よりも15%強化し、リアのダンパーが応答性の高いモノチューブタイプになり、さらにはブッシュ類も見直された。専用のストラットタワーバーも備えるほか、DSTC(ダイナミック・スタビリティ&トラクション・コントロール)も進化しているという。
シャシーの強化ばかりでなく、外装と内装も他のR-DESIGNに準じて仕立てられている。フロントグリルは光沢のあるブラックに塗られ、R-DESIGN専用のフロントバンパーとリアにはディフューザーが付き、5本スポークの18インチ径アロイホイールが装着される。
室内に目を移すと、T-Tec/テキスタイル/本革のコンビネーションシート、専用のアルミニウムパネル等が採用され、これまたスポーティーな雰囲気に満ちている。
魅力的なフットワークのよさ
さて、ボルボの考えるスポーティーセダンが果たしてどんな走りっぷりを見せてくれるのか、期待に胸を膨らませながら走りだす。まずは動力性能。これに関しては、アグレッシブな外観を裏切ることのないものだった。4気筒直噴ターボエンジンは、1.6リッターとは思えないほどの力強さがある。
1540kgの車重に対して十分なパワーとトルクがあり、走らせる前に心配していた非力さはみじんも感じられない。ターボは低回転から効くので、街中でのドライバビリティーは高い。官能的な気持ちよさこそないのだが、扱いやすいエンジンである。
デュアルクラッチ式6段トランスミッションの完成度も高く、変速はスムーズだ。エンジンとのマッチングはよい。
山坂を走ると、もう少しパワフルだと楽しさが増すようにも感じられたが、基本的にシャシー性能がエンジンパワーを上回っていて、安心して飛ばせる性格のクルマだ。4気筒であるがゆえに回頭性が高く、締め上げられたサスペンションのおかげでフットワークは上々、R-DESIGNの名に恥じないきびきびとした走りを見せる。
ステアリングは素直で、狙ったラインをスムーズにトレースしてくれるし、ブレーキ性能も高いので、ワインディングロードを余裕を持って速いペースで走れるのがうれしい。スタイリングばかりでなく、中身もダイナミックなこのS60は、スポーティーセダンとしての魅力に満ちている。
少し不満が残る乗り心地
スポーティーな味付けと引き換えに失ったものもある。乗り心地だ。特に低速での乗り心地は硬い。どたばたしたところや、安っぽい振動は感じられないものの、明らかに硬い。首都高の目地段差を越える際にはかなりの突き上げがあり、「荒れた道で入念にチューニングした」とメーカーが主張している割には、いま一歩洗練されていないように感じた。とりわけ後席でのハーシュネスが大きく、決して快適とはいえない。これではドライバーは楽しめても、同乗者はつらい。
スポーツカーならたったひとりで悦に入るのもいいだろうが、スポーティーセダンであれば、もう少し乗り心地を詰めてほしかったというのが正直なところだ。コーナリング性能と乗り心地を高いレベルでバランスさせてこそ、本当の意味でのスポーティーセダンになりえるのではあるまいか。
スポーティーセダンが実用性と走らせる喜びを兼ね備えたクルマだとするならば、S60 T4 R-DESIGNは実用性の面でいささか不満が残る。
しかし、同じクラスのライバルたちに比較すると、この435万円という価格は魅力的ではある。「メルセデス・ベンツC200ブルーエフィシェンシー アバンギャルド」が509万円、「BMW 328i」が570万円であることを考えればコストパフォーマンスは高い。しかも、ボルボには、「ヒューマン・セーフティ」と呼ばれる歩行者検知機能付き追突回避・軽減フルオートブレーキシステムを25万円のオプションながらつけられるから、これもアドバンテージになるかもしれない。
(文=阪和明/写真=荒川正幸)
