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第58回:ケルアックの代表作が初の映画化!
『オン・ザ・ロード』

2013.08.27 読んでますカー、観てますカー

ロードムービーの国アメリカ

ロードムービーを見るたび、アメリカという国を心底うらやましく思う。島国ニッポンでは、どう頑張ってもあのスケールを作り出すことはできない。かの国では、東海岸から西海岸へと走るだけで物語が生まれる。視線の欲望はスクリーンから抜けだし、遠くへ遠くへと向かっていく。そして、この映画は『オン・ザ・ロード』なのだ。ジャック・ケルアックの小説が、初めて映画化された。日本ではかつて『路上』と訳されていた、まさに道の上をクルマで走り抜けることそのものが主題なのである。

ビート・ジェネレーションの代表的な作品といえる『オン・ザ・ロード』が出版されたのは、1956年のことだ。劇的なストーリーはなく、1947年から50年にかけて繰り返された移動の記録である。物語はニューヨークから始まり、ニューヨークで終わる。結局は動いていないのだから、移動は手段ではなく目的だったのだ。

主人公のサル・パラダイスは、ジャック・ケルアック自身が投影されていると言われている。ウィリアム・バロウズやアレン・ギンズバーグなどの知識人仲間とつるんでいたケルアックは、ニール・キャサディという奔放な自由人と出会い衝撃を受ける。少年院あがりの女たらしだが、常に歓喜にあふれ、自分の欲望に忠実に行動する。ケルアックは彼と旅を重ねることで、自らを解放していったのだ。

レースで活躍した「ハドソン」

ニールをモデルとしたディーン・モリアティを、ギャレット・ヘドランド、サルをサム・ライリーが演じている。1回目の旅は、ヒッチハイクだ。デンバーにいたディーンを訪ね、サンフランシスコ、ロサンゼルスまで足を伸ばす。クルマでの旅が始まるのは、翌年になってからだ。ディーンがハドソンに乗って東部までやってきたのだ。

小説では49年型ハドソンと書いてあって、映画でも49年の「ハドソン・コモドール」が使われている。ということは、ピカピカの新車だ。小説の中に前席に4人並んで座ったという描写が出てくるから、かなりの大型だ。定職についていないディーンにとっては、あきらかにぜいたくすぎるクルマである。結婚して娘も生まれ、ようやくまっとうな暮らしが始まろうとしていたのに、衝動的に貯金をはたいて買ってしまったのだ。

ハドソンという自動車会社は現在は消滅してしまったが、戦前には日本に輸入されていたこともあるらしい。アニメ映画の『カーズ』に「ドック・ハドソン」というキャラクターが登場していて、伝説のレーシングカーということになっていた。これは、1951年型の「ハドソン・ホーネット」がモデルになっている。レースでの栄光を背景に、当時は“速いクルマ”というイメージがあったのだ。

ディーンは運転の名手であり、スピード狂である。無理な追い越しをかけたりして荒い運転を繰り返した結果、すでにエンジンのベアリングが壊れていた。刹那的な生き方は、運転にも表れるのだ。

「ハドソン・コモドール」
ハドソン社は1909年に設立された自動車製造会社。1920年代にはアメリカ第3位の規模を誇っていたが、1954年に合併によりAMCとなった。コモドールはフルサイズの乗用車で、映画に登場するのは3代目モデル。自動車会社に採用された初の女性デザイナーであるベティ・サッチャーによって設計されている。
「ハドソン・コモドール」
    ハドソン社は1909年に設立された自動車製造会社。1920年代にはアメリカ第3位の規模を誇っていたが、1954年に合併によりAMCとなった。コモドールはフルサイズの乗用車で、映画に登場するのは3代目モデル。自動車会社に採用された初の女性デザイナーであるベティ・サッチャーによって設計されている。     拡大

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最後は南へと向かう

3回目までの東西の往復と違い、1950年の最後の旅は、メキシコに向かって南に走る。小説には37年型のフォードのセダンと書かれていたが、映画で使われていたのはもう少し新しく、しかもクーペである。戦前型では撮影に堪えられなかったのかもしれない。ひどいボロぐるまで、右のドアが壊れているというところは原作に忠実である。

南への旅は、西に向かうのとは様相を異にする。アメリカ人にとって、西を目指すのは本能のようなものだ。東海岸から始まった開拓はどんどん西へと進み、ついに西海岸に到達した。その後はハワイを併合し、この物語の少し前には日本を占領するところまでいっていたのである。西へと向かうのはもはや歴史をなぞることでしかなく、海までたどり着いたらまた東に戻るしかなかった。南にこそ、見たことのない世界があった。野性を残した大地と人々に触れてふたりは歓喜するが、それは旅の終わりを意味してもいる。

この作品の製作総指揮は、フランシス・コッポラである。1979年から構想があり、これまでにマイケル・ハーとラッセル・バンクスが脚本を書いているが、映画化は見送られた。『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレスにオファーされてからでも、でき上がるまでに8年を要したのだ。原作が発表された直後には、ケルアック自身がマーロン・ブランドと共演する構想があったというし、ゴダールがメガホンを取る可能性もあったらしい。

ビーバップ・ジャズの時代に即興の言葉でつづられた小説が、『オン・ザ・ロード』だった。わずか3週間で書き上げられたという伝説が残るほどだ。それなのに、映画化にはとてつもない時間がかかってしまった。ディーンが持っていた燃え上がるような衝動は、今やどこにも残っていないのかもしれない。われわれは、もう“路上”にはいない。

(文=鈴木真人)

タイトル:『オン・ザ・ロード』
公開表記:8月 TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
コピーライト:(C)Gregory Smith
公式サイト:http://www.ontheroad-movie.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画オンザロード/536070576445759
公式Twitter:https://twitter.com/OnTheRoad_mov
配給:ブロードメディア・スタジオ
R-15

【CAST】
サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン 他

【STAFF】
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ(『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』)
音楽:グスターボ・サンタオラヤ(『ブロークバック・マウンテン』『バベル』)

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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