マツダ・アクセラスポーツ2.0 プロトタイプ(FF/6AT)/アクセラスポーツ1.5 プロトタイプ(FF/6AT)
待てば“Cセグ”の日和あり 2013.09.18 試乗記 新世代マツダ車の3番バッター、新型「アクセラ」のデビューが間近に迫った。スカイアクティブ・ガソリンユニットを搭載した5ドアハッチバックのプロトタイプを箱根で試し、市販モデルの仕上がり具合を占った。「アテンザ」の縮小版にあらず
スカイアクティブ技術と「魂動」(コドウと読む)デザインを併せ持つ新世代マツダ車として、新型「アクセラ」は「CX-5」と「アテンザ」に続く第3弾に当たる。この新世代のクルマたち、マツダのスタッフが口をそろえて言うように、マーケットからかなり好意的に受け止められているようである。
ハイブリッドカーかコンパクトカーか、さもなければミニバンでないとなかなかランクインできない日本の新車販売ランキングにおいて、2013年1月~6月の通期でCX-5は19位(1万9784台)、アテンザは29位(1万2820台)に入った(自販連調べ)。
順位だけ見ればそれほどのニュースとは思えないかもしれないが、クルマが売れないこのご時世にCX-5は月販3000台、アテンザは同2000台で推移しているのだ。わが“ガラパゴスな自動車市場”で、1カ月に2000台規模で売れている中型のセダン&ワゴンなんてアテンザのほかに「スバル・レガシィ」ぐらいしかない。これはさりげなく「2013年の自動車界の出来事」のひとつであろう。
さてこの日、われわれの目の前にずらりと並んだアクセラは、いずれも5ドアハッチバックの「アクセラスポーツ」で、セダンの姿はなかった。見た目ではまんま量産仕様だが、すべてプロトタイプとのこと。加えてスペックも「予定値」という。
用意されたエンジンはラインナップの基本となる1.5リッターと2リッターのガソリン仕様で、2.2リッターディーゼルも、トヨタの技術が注がれているといわれる2リッターガソリンベースのハイブリッド仕様もなかった。今回は、これから始まる「アクセラ劇場」の、いわばプロローグといったところである。
間近から、そしてちょっと離れて眺めるアクセラスポーツのコドウ・デザインは、とてもバランスよくまとまっていた。「本来ならもっと大きく作るべきものを、無理やり小さくまとめました」的なアンバランスさは感じられない。つまりアテンザにはよく似ているけれども、その単なる凝縮版になってないということだ。あくまでアクセラはアクセラとして、最初から全長4.5mのスケールでデザインされたような自然さがある。
聞けば、アクセラのデザインは同じコドウでも、コンパクトカーらしい凝縮感や躍動感を表現しており、一から描き直しているそうである。ちなみに、サイドウィンドウのグラフィックとリアドアは、5ドアハッチとセダンで共通とのこと。美意識だけに没頭せず、合理性もしっかり追求されているわけである。
「情報」とインテリアの真面目な関係
兄貴分のアテンザとはひと味違う「線」が見られるのは、インテリアもまた同じである。アクセラのダッシュボードは、あちらほど視覚的なカタマリ感がない。もっとすっきりと削(そ)ぎ落とされていて、開放的かつ機能主義的だ。
メーターはシンプルな一眼式で、ダッシュボードの上面には「プジョー3008」のようなポップアップ式のヘッドアップディスプレイが備わっている(試乗車によっては付いてないものもあった。オプション装備らしい)。視線をそのまま左に動かせば、中央には7インチのディスプレイ(固定式)がある。これはBMWの「iDrive」やメルセデス・ベンツの「COMANDシステム」のように、センターコンソールにあるダイヤルで操作するようになっている。ちなみにマツダはこのダイヤルを「コマンダーコントロール」と呼ぶ。
別にセンターパネルがこちらに向いているわけではないが、ドライバーにとって、とても「情報的な囲まれ感」が強いコックピットである。質感の高さや造形の優雅さをうたうクルマは多々あれど、こういう骨格部分にトコトンこだわっている日本の実用車というのは、ありそうでなかなかないものだ。
おそらくはオプションとなるであろうレザーシートもいい感じだ。適度に盛り上がったサイドサポートがスポーティーな走りを予感させる一方、表面的にはしなやかに沈んでフィットし、その奥で体をぐっと支える掛け心地はなかなか快適である。
ちなみにこの日、表皮が布のシートを備えた試乗車もあったが、掛け心地に若干の違いがあった。表面の張りがより強く、フィット感ではいまひとつ平凡という印象を持った。
ところで、アテンザだとちょっと大きいが、手頃なサイズのコドウ・デザインが出て、新型アクセラをぜひわが家のファミリーカーにと考えている人も多いのではないだろうか。そうなると気になるのがいかにも狭そうに見える後席の居住性だと思うが、アクセラは意外や乗れるパッケージの持ち主である。
実際に試したところ、身長180cmクラスの乗員がそれほど窮屈な思いをせず、前後に座ることができた。ただし、後席に着座した時の頭まわりの開放感は、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のように比較的スクエアな形状の5ドアハッチバックのほうに分がある。
また、リアウィンドウの上端が弧を描いて下降してきているために“かもい”が低く、そのぶん乗降性に若干しわ寄せがきているように感じられた。リアドアとウィンドウを5ドアハッチとセダンで共用しているのなら、この点についてはセダンも同じと想像できる。
1.5リッターエンジンを侮るなかれ
この日、箱根の天気は不安定で、筆者が試乗する番になると、待ってましたとばかりに強い雨が降りだした。路面状況は完全なるウエットである。まずは2リッターエンジン+6ATで箱根のワインディングロードを下った。
兄貴分のアテンザでは、この2リッターエンジンにそれほど明確な個性を感じなかった。しかし、アクセラだと車重がそれなりに軽くなっているらしく(アクセラ プロトタイプの車重は未公表)、だいぶ力強く感じられる。スロットル操作に対するエンジンのレスポンスとトルクフィールが気持ちよく、ロックアップ領域が広くとられた6段ATのおかげもあって、そのフットワークは小気味よい。3000rpm以下の常用域ではエンジンの遮音も効いており、このクラスの実用車に求められる静粛性は十分に備えていると感じた。
ただし、天下に名だたるターンパイクにふさわしい(?)、生きのいい走りに徹すると、ミラーサイクルエンジンの宿命か、高回転域での吹け上がりが若干眠たげに思えた。またさっきまで静かだったエンジンが、耳障りではないが、ちょっと騒々しくなることも気になった。もっとも日常的には高速道路での追い越しぐらいでしかこういう乱暴な乗り方はしないだろうから、燃費志向のこの時代、欠点と指摘するほどのものではないのかもしれない。
新型アクセラで初登場の1.5リッターのスカイアクティブ・ガソリンユニットも、基本的な性格は2リッターとよく似たしつけになっている。つまり実用域では力強く、レスポンスにも不満はないが、高回転域ではややおとなしい。しかし、Cセグメントカーとしては大きめなこのボディーを、1.5リッターの自然吸気エンジンがここまで立派に引っ張るとは思わなかった。「安価なエントリーエンジン」と呼んでしまってはもったいない、線の太い実力派という気配が漂っていた。
ちなみにこのアクセラスポーツのプロトタイプでは、2リッターガソリンエンジン(6AT仕様)のJC08モード燃費は19.0km/リッター、1.5リッター(同)は19.4km/リッターと発表されている。
オトナな足どり
ウエット路面を2リッターガソリンエンジン搭載のアクセラで走ってまず感じたのは、姿勢のフラット感が高いということ。操舵(そうだ)あるいは路面からの入力に伴う姿勢変化を、サスペンションはゆったりと余裕をもって収束させているように感じられた。
それでいて、ダンパーは微小域からしなやかに仕事をしているらしく、路面の細かな不整に対して突っ張るようなマナーは見せない。この乗り心地のよさ。アクセラも大人になったものだなあ、と感じた次第である。
大人になったといえば、ハンドリングも同様だ。従来はレスポンスが重視され、操舵に対して過敏なまでにヨー応答ゲインが立ち上がったが、新型はステアリング・ギアレシオが速められた(16.2:1→14.0:1)にもかかわらず、もっとずっとおとなしく、節度あるハンドリングになったように感じられる。より正確に言うなら、切ったら切ったぶんだけ応答するようになっている。
スプラッシュノイズが上がるほどの水膜が路面のところどころにあり、ハイペースを維持するのがためらわれる場面もあったが、ステアリングには終始、確かな路面フィールが伝わり、リアタイヤのスタビリティーも非常に高かったおかげで、雨の試乗をすっかり楽しんでしまった。新型はビビッドなターンインから卒業して、全体として一段と“速く楽しいクルマ”にステップアップしたようだ。
待てば“Cセグ”の日和あり。フォルクスワーゲン・ゴルフの購入を考えている人は、新型アクセラを見てからにしないと、もしかすると後悔するかもしれない!
(文=webCG 竹下元太郎/写真=マツダ)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マツダ・アクセラスポーツ2.0 プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1795×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:155ps(114kW)/6000rpm
最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89W/(後)215/45R18 89W(トーヨー・プロクセスT1スポーツ)
燃費:19.0km/リッター(JC08モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(0)/高速道路(0)/山岳路(10)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
マツダ・アクセラスポーツ1.5 プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1795×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:111ps(82kW)/6000rpm
最大トルク:14.7kgm(144Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92V/(後)205/60R16 92V(トーヨー・ナノエナジーR38)
燃費:19.4km/リッター(JC08モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(0)/高速道路(0)/山岳路(10)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

竹下 元太郎
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
NEW
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。 -
NEW
失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編)
2025.12.20小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。 -
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。

































