マツダ・アクセラスポーツ15XD Lパッケージ(FF/6AT)
地味だけれど革新的 2016.09.07 試乗記 マイナーチェンジを機にラインナップに加えられた、「マツダ・アクセラスポーツ」の1.5リッターディーゼルモデルに試乗。新たなパワーユニットがもたらす走行性能や、走りの質を向上させるという新技術の効果についてリポートする。燃料噴射制御で「静かなクルマ」に
お題は「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」と「G-ベクタリング コントロール」である。どちらも一筋縄ではいかないシロモノだ。確実に性能を向上させるテクノロジーだが、派手さがない。エンジンの出力が爆発的に上がったり、先進的な安全技術が飛躍的な発展を遂げたりすれば書くことはいくらでもある。目に見えにくい地味な改良は、記事にするには厄介なのだ。
マツダ・アクセラは、2016年7月にマイナーチェンジを受けた。これまで2.2リッターだけだったディーゼルエンジンに、1.5リッターが加わったことが最も大きな変更点である。2.2リッターモデルはガソリンエンジンモデルとの価格差が100万円近くあり、ハイブリッドモデルよりも高い。販売数は限定的だったが、これでアクセラもディーゼルが主流になると思われる。
1.5リッターディーゼルエンジンは「デミオ」と「CX-3」に使われていて、昨年末の改良で「ナチュラル・サウンド・スムーザー」が装備されるようになっていた。簡単に言えば、ディーゼル特有のガラガラ音を抑制する装置である。音の原因がピストン付近の共振であることを突き止め、ピストンピンの穴の中に重りを付けたダンパーを仕込んで制振装置の役割を持たせようとした。その結果、共振レベルが最も高かった3.6kHz付近の振動が約半分になったという。
防音材を使うのではなく、不快な音を元から絶とうというわけだ。考え方として正しいし、細かいところもないがしろにしない姿勢が素晴らしい。素直に感心するのだが、これで満足しないのがエンジニアという生き物だ。3.6kHz以外にも1.3kHz、1.7kHz、2.5kHz付近でノック音が発生していることに気づいてしまった。原因はエンジン加振力と構造系共振のピークが重なって増幅していることだと判明。燃料噴射タイミングを0.1ミリ秒単位で制御し、エンジン加振力を構造系共振と逆位相にすることで音を抑えたのだそうだ。これがナチュラル・サウンド・周波数コントロールである。
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上品で実用的な1.5リッターディーゼル
ナチュラル・サウンド・スムーザーを装備したデミオとCX-3には試乗したことがある。とても静かなエンジンで、車内にいる限りディーゼルだということを意識しなかった。ナチュラル・サウンド・周波数コントロールのおかげで、さらに静粛性が高くなっているはずである。しかし、デミオとCX-3に乗ったのは半年以上前のことだ。1.3kHz、1.7kHz、2.5kHz付近の音が小さくなったと断言するには勇気がいる。
微細な違いはわからないが、アクセラが静かなことは確かだ。街なかで走っている時は多少のノイズは感じるが、高速道路の巡航ではコンパクトクラスとは思えない静けさである。追い越し加速はちょっと物足りない感じもした。ただ、むなしくエンジン回転が上がるより、上品さが好ましい。決定的に速さが足りないというわけではないのだから、このクルマには合っている。
1.5リッターディーゼルは、快楽ではなく実用性を求めるエンジンなのだろう。過剰感に満ちている2.2リッターが“ハレ”、1.5リッターは“ケ”という明確な性格付けがなされている。ただ、ちょっとした田舎道でマニュアルモードを使ってシフトしてみたら、思いのほか快い音を響かせるのが楽しかった。今回は山方面には行けなかったのだが、ワインディングロードでもスポーティーな走りが期待できそうだ。
そして、G-ベクタリング コントロール(GVC)である。「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS(スカイアクティブ ビークルダイナミクス)」の第1弾なのだという。エンジン、トランスミッション、シャシー、ボディーそれぞれで発展させてきたSKYACTIVテクノロジーを統合制御する試みだ。GVCは「エンジンでシャシー性能を高める技術」だとの説明があるのだが、頭のなかにはてなマークがよぎる。
気づかれずに利く新技術
エンジンとシャシーが連動するというのは、従来のクルマ知識では理解不能な事態である。だからこそ革新的なのだ。GVCはドライバーがステアリングを切ったことを感知するとエンジントルクを低減し、わずかに前輪へ荷重を移す。接地性が増すことで、ステアリング操作に対しての反応がよくなるという理屈だ。エンジンをコントロールすることで、結果としてシャシー性能が向上する。
ドライバーは常に両手と右足を動かしてクルマを自らの意思にそって走らせようとする。習熟するにつれ、連携はなめらかになっていくはずだ。前輪に荷重が乗っているほうが曲がりやすいことは、経験を重ねていくことで誰もが気づく。クルマの中でエンジンやブレーキなどがそれぞれの仕事をしているのを、人間がうまくコントロールしてやるのが運転である。それをクルマの側が代行してくれるのだ。自動運転にも不可欠となる技術だろう。
トルクは繊細に制御されるので、ドライバーが気づくレベルではない。メーターを見ていても、もちろん回転数はそのままだ。こんな離れ業が可能になったのは、エンジン制御技術を磨いてきたからだろう。GVCはステアリングとエンジンをつないで協調させるだけなので、新たなハードウエアを付け加える必要はない。発想の転換で走りがよくなるのはもうけものだ。
ただ、正直に言うと「お、GVCが効いている!」と感じる瞬間はなかった。アクセラのハンドリングは素直で気持ちのいいものだ。交差点を曲がる時、高速道路でレーンチェンジする時、ごく普通の運転で実感する。マツダ車の走りはこんな感じだったよな、という記憶が積み重なっていくので、GVCの働きなのかどうかが判然としない。
後席の真ん中で違いがわかる
GVC装着車と非装着車を直接乗り比べれば違いがわかるのだろう。試乗車を返却した際、広報担当者にGVCの感想を話すと、苦笑いを浮かべながら「普通に乗っていてわかりやすいものではないですね」とフォローしてくれた。エンジニアも、地味ですよね、と話していたそうだ。
新しい技術を理解するため、広報担当者の研修も行われている。自ら運転するのはもちろん、後席の真ん中に座って違いを見極めるプログラムもあった。最も安定性の悪い席なので、クルマが変な動きをすれば一番大きな影響を受ける。GVCの効果で揺れが少なくなるのがよくわかったという。
強風や大雨の中で走る時も違いがわかりやすいらしい。運転しにくい時にこそ効果が表れる。本来は低速で少しだけステアリングを切った時にもGVCが効いているのだが、微細な違いを認識するのは難しい。しかし、それが積み重なれば話は別だ。長距離ツーリングをすれば、修正舵(だ)が少なくて済むので疲れにくいはずだという。ぜひ非装着車と並べて長距離を走ってくださいと言われたが、直後に「アテンザ」にもGVCが装備されたというニュースが流れた。他モデルにも早い段階で波及するだろうから、比較試乗のチャンスはなさそうだ。
ディーラーを訪れた顧客が短時間の試乗でGVCの効果を理解するのは無理だろう。販売員としては悩ましいところだが、これがマツダらしさなのだ。1年ほど前、デザインを前面に出したデミオの特別仕様車が鳴り物入りで発売された。オシャレ路線を推進する決意を示したが、その後の動きはない。地味でも確実にドライバーの楽しみを増すテクノロジーを開発するほうが、マツダにはふさわしい姿勢だと思う。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
マツダ・アクセラスポーツ15XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1795×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1600-2500rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89Y /(後)215/45R18 89Y(トーヨー・プロクセスT1スポーツ)
燃費:21.6km/リッター(JC08モード)
価格:268万9200円/テスト車=272万1600円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2709km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:147.1km
使用燃料:8.2リッター(軽油)
参考燃費:17.9km/リッター(満タン法)/18.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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