アルピナB3ビターボ リムジン(FR/8AT)
良質なる速さ 2013.10.21 試乗記 アルピナの新型「B3ビターボ」が、日本上陸を果たした。“至高の作品”とうたわれる、ハイパフォーマンスセダンの実力とは……?力と美の供宴
「BMW 3シリーズ」のアルピナ版が、「B3ビターボ」である。現行「F30」ベースの最新型は、2013年3月のジュネーブショーで発表された。日本でもセダン(955万円~)とワゴン(1028万円~)が販売されているが、発表から半年の9月時点ですでに2014年5月までのオーダーを受けているという。
3リッターエンジンのベースは、「BMW 335iクーペ」に使われている直噴直列6気筒(N55)。それをツインターボに換えたほか、いずれもオリジナルの鍛造クランクシャフト、クランクケース、吸気パイプ、高圧燃料ポンプ、大容量インタークーラー、ステンレス製のエキゾーストパイプといった専用部品を組み込んで“アルピナ化”を施している。その結果、得られた最高出力は410ps、最大トルクは61.2kgm。ちなみに「335iクーペ」は306psと40.8kgmである。
しかし、アルピナの伝統にのっとって、外観は今度も控えめだ。アルピナブルーのキャンバスに、面相筆で描いたような白いストライプを入れたボディーはむしろシックである。足もとを締めるアルピナ・クラシックホイールも美しい。フィンが細かすぎて、まるでワイヤホイールのように見える20スポークの20インチホイールは、1本約10万円。進行方向の段差には要注意である。
レザーとウッドパネルの室内でスポーツ性を主張していたのはステアリングホイールだ。リムには黒とブルー2色の革が縫い込まれている。変速機は3シリーズで使われているものと基本的に同じZF製8段ATだが、このハンドルの裏側には小さなプッシュボタンを革でくるんだシフトスイッチが備わる。指先で用もなくシフトしたくなるほどタッチのいい変速インターフェイスである。
試乗したのは右ハンドルのセダン。ダッシュボードには“Burkard Bovensiepen GmbH+Co.KG”の社名とともに「013」のシリアルナンバーの入ったプレートが貼られていた。
ゆっくり行っても気持ちいい
新型B3ビターボは0-100km/hを4.2秒でこなす。「E90」ベースの旧型よりさらにコンマ5秒も速くなった。しかしそんな限界的な加速性能を味わったのは、青山通りのショールームをスタートして何時間かたってからだった。
まず最初に心を奪われたのは、実に仕立てのいい普段の走りである。ダイナミック・ドライビング・コントロールの“コンフォートモード”だと、乗り心地はなめらかで快適だ。扁平(へんぺい)率30%の戦闘的なミシュランを履いているとはとても思えない。ステアリングも爽やかに軽い。
3リッター直6ツインターボは、ひたすら静かである。アイドリングもまったくウナらない。“プーン”という軽いエンジン音が遠い別室で聴こえる程度。停車すればたいていそれもすぐ消える。新型は初めてアイドリングストップ機構を備えるB3である。唯一例外だったのは、冷間始動時で、このときばかりはスーパーカーの一族を思わせる爆音を上げる。朝の5時だったので、あわててガレージを抜け出した。
「170km/h時でもエンジン回転数を2500rpmに抑えてくれる8段ATのおかげで、快適な長距離ドライブが可能」なんていう記述がプレスリリースにある。アルピナに投資するドイツ人は本当にそんなスピードでアウトバーンを巡航するんだ!? と驚くが、100km/hではたった1500rpmである。うるさいはずがない。じゃあ、つまらないのか? 静粛でも、アルピナが磨きに磨いた末の上質な回転フィールは感じ取れるから心配無用である。
以上のような仕立てのおかげで、B3ビターボはゆっくり走っていても気持ちいい。そのため、混んだ町なかでもフラストレーションを感じないし、宝の持ち腐れ感を覚えることもない。
一体感が得られるクルマ
しかるべき場所で、フル加速の実力の一端も味わった。その場合でも荒々しさはないが、しかし、舗装をはがすのではないかと思わせるリアタイヤのキック力というか“駆動感”が強烈な印象をもたらす。クルマに乗って、久々にアドレナリンが出た。でも、そんなことをしょっちゅうやっていたら、タイヤが何本あっても足りない。こういうクルマのドライバーに最も大切なのは“自制心”だろう。
クルーズコントロールは250km/hまでセットできる。そのACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の性能を試してみようと、10km/h刻みのプリセットをあてずっぽうに上げていったら、予想以上に前走車に近づいたので驚いた。追従式のアダプティブ機構は付いていなかったのだ。ハンドビルドの高価格車だから、望めばなんでも付けてくれるのだろうが、標準状態がこれ、というところがアルピナらしい。「自分で運転するクルマ」である。
乗り始めた直後から思ったのは、普通のBMW 3シリーズよりもコンパクトなクルマに感じられたことである。しばらく考えて、これもアルピナチューンのストレートシックスのたまものだということがわかった。アクセルを踏む右足のほんのわずかな入力をくんで、エンジンが出力してくれる。おかげで、まるでフルオーダーのスーツや靴のように、クルマと一体になれるのだ。パワーの質、速さの質がいい。それがB3ビターボの気持ちよさの源泉だと思った。根強いアルピニスト(?)がいるのもわかる。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
アルピナB3ビターボ リムジン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1810×1445mm
ホイールベース:2810mm
車重:1650kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:410ps(301kW)/5500-6250rpm
最大トルク:61.2kgm(600Nm)/3000-4000rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)265/30ZR20 94Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:11.4km/リッター(JC08モード)
価格:955万円/テスト車=1063万円
オプション装備:ボディーカラー<アルピナブルー>(39万7000円)/フロントヘッドレスト<ひし形デザイン>(7万3000円)/ステアリングホイール ラバリナレザーのバイカラー(7万3000円)/リアビューカメラ(8万2000円)/ガラスサンルーフ(17万円)/ルーフライニング<カラー:アンソラジット>(3万5000円)/右ハンドル仕様(25万円)
テスト車の走行距離:4306km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:225.2km
使用燃料:31.7リッター
参考燃費:7.1km/リッター(満タン法)/7.4km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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