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第309回:アウトバーン世代の涙

2025.05.05 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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アルピナの良さがわからない

担当サクライ君からメールが来た。

「次回は首都高で『アルピナB3 GT』にお乗りになりませんか?」

え、アルピナか……と思いながらも、私は「乗る乗る~!」と元気に返信した。

当日の夜。

サクライ君は、高級な爆音とともにわが家にやってきた。

が、夜のB3 GTは、ただの「BMW 3シリーズ」に見える。以前私が買った235万円の先代「320d」(中古)とも、そんなに変わらない。でも値段は1680万円(車両本体価格:1650万円。右ハンドル仕様は30万円の有償オプション)。高い。高すぎる。

実は私は、アルピナの良さがわからないのである。こう言うと「えっ!」と驚かれるが、これだったらBMWでよくないか? と思ってしまう。だからサクライ君からの提案にも一瞬ためらった。

でも、わからないなら人に聞けばいい。そうだ、サクライ君に聞いてみよう! そう思って、「乗る乗る~!」と返したのでした。

B3 GTで走りだすと、私は早速切り出した。

オレ:サクライ君、アルピナって何がいいの?
サクライ:えっ、全部が全部、なにもかもがいいですよ。
オレ:特に何がいいの?
サクライ:……やっぱり乗り心地ですかね。
オレ:確かに乗り心地いいけどさ、乗り心地ならシトロエンとかのほうが良くない? オレ、シトロエンなら何台か買ってるけど、これより超絶安いよ。
サクライ:シトロエンより速いじゃないですか。
オレ:そりゃそうだけどさ。

最後の純アルピナといわれる「B3 GT」のステアリングを握り、夜の首都高に出撃。実はこう見えてあまりアルピナに詳しくないので、今回はその魅力をしっかり理解しようと思っている。
最後の純アルピナといわれる「B3 GT」のステアリングを握り、夜の首都高に出撃。実はこう見えてあまりアルピナに詳しくないので、今回はその魅力をしっかり理解しようと思っている。拡大
ドイツで一番小さな自動車メーカーであるアルピナ社、正式名「アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン社」は、2025年に自社での車両開発・製造・販売を終了する。アルピナの商標権をBMWに譲渡し、以降はクラシックアルピナモデル関連のビジネスを中心に、別の道を歩むという。
ドイツで一番小さな自動車メーカーであるアルピナ社、正式名「アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン社」は、2025年に自社での車両開発・製造・販売を終了する。アルピナの商標権をBMWに譲渡し、以降はクラシックアルピナモデル関連のビジネスを中心に、別の道を歩むという。拡大
2024年6月に発表された「BMWアルピナB3 GT」。ステーションワゴンの「B3 GTツーリング」、4ドアクーペの「B4 GTグランクーペ」 とともに60年に及ぶ同ブランドの最終章を飾るモデルとなる。
2024年6月に発表された「BMWアルピナB3 GT」。ステーションワゴンの「B3 GTツーリング」、4ドアクーペの「B4 GTグランクーペ」 とともに60年に及ぶ同ブランドの最終章を飾るモデルとなる。拡大
アルピナ独自の「ドームバルクヘッドレインフォースメント」が追加されたエンジンルーム。「BMW M」由来の3リッター直6ツインターボのS58ユニットは、最高出力が従来型「B3」の495PSから529PSに高められた。
アルピナ独自の「ドームバルクヘッドレインフォースメント」が追加されたエンジンルーム。「BMW M」由来の3リッター直6ツインターボのS58ユニットは、最高出力が従来型「B3」の495PSから529PSに高められた。拡大
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巡航最高速度は308km/h!

B3 GTは首都高に乗り入れた。まずはジョイント乗り越え時の収束具合を確かめる。

サクライ:ね、乗り心地いいでしょう。
オレ:……いや、これなら、この間乗った「ゴルフ」の「Rライン」のほうがちょっとだけ上だな。「ゴルフR」じゃなくてRラインのほうね。安いほう。あれはホントに首都高のジョイント史上最高の乗り心地だった。
サクライ:でも、こっちは529PSですよ。従来の34PSアップです。
オレ:首都高じゃそんな馬力いらないからなぁ……。

一応フル加速も試してみた。確かに速いし、エンジンも超ナメラカだけど、フェラーリ(自然吸気モデル)のようなソプラノサウンドがさく裂するわけではなく、これに1680万円も払うのかと思うと、人生がつらく苦しく感じられる。

サクライ:あ、このクルマ、アウトバーンで308km/h巡航できることが保証されています。
オレ:え、そうなんだ!
サクライ:最高速じゃなくて、巡航最高速度が308km/hなんです。
オレ:そっか、それだったのか、アルピナの良さって!
サクライ:すごいですよね。ご納得いただけましたか。
オレ:納得したよ! 

日本でアルピナに乗り、そこらをちょろちょろ走るだけじゃ、真の良さがわからないのは当然だったのである。

左右に小さなカナードとスプリッターが備わった「ALPINA」の立体的なロゴ入りスポイラーが目を引くフロントフェイス。エアロデバイスは、BMWの風洞試験施設で効果を確認済みだという。
左右に小さなカナードとスプリッターが備わった「ALPINA」の立体的なロゴ入りスポイラーが目を引くフロントフェイス。エアロデバイスは、BMWの風洞試験施設で効果を確認済みだという。拡大
「B3 GT」で首都高に乗り入れて、まずはジョイントの乗り越え時の収束具合を確かめる。確かにコントロールしやすく乗り心地はいいが、首都高の速度域ではアルピナの本領が発揮できないとも感じた。
「B3 GT」で首都高に乗り入れて、まずはジョイントの乗り越え時の収束具合を確かめる。確かにコントロールしやすく乗り心地はいいが、首都高の速度域ではアルピナの本領が発揮できないとも感じた。拡大
エンジンルームにBMWアルピナであることを示すシリアルナンバー入りのプレートが備わる。今回の試乗車両では「BMW ALPINA B3 GT Limousine 009」と刻印されていた。
エンジンルームにBMWアルピナであることを示すシリアルナンバー入りのプレートが備わる。今回の試乗車両では「BMW ALPINA B3 GT Limousine 009」と刻印されていた。拡大
「GT」モデル専用となる「オロ・テクニコ」と呼ばれるゴールドに塗られた「アルピナクラシック20インチ鍛造ホイール」。リム部分には「B3 GT」のロゴが入っている。
「GT」モデル専用となる「オロ・テクニコ」と呼ばれるゴールドに塗られた「アルピナクラシック20インチ鍛造ホイール」。リム部分には「B3 GT」のロゴが入っている。拡大

インバウンド客は日本車に夢中

オレ:サクライ君はアウトバーンで300km/h出したことある?
サクライ:あります。いまやポルシェのワークスとなったマンタイがチューンした「911 GT2」のコンプリートカーで。
オレ:へえー! いいなぁ。どんな感じだった?
サクライ:それはもう、とにかく前のクルマがものすごいスピードで近づいてきました。
オレ:そうかぁ。そうだろうなぁ。オレ、アウトバーンってほぼレンタカーでしか走ったことないから、下り坂で絶叫しながら200km/h! が生涯ベストだよ。それでも最高に楽しかったけど。
サクライ:アウトバーンは最高ですよね。
オレ:アウトバーンは最高だよ! そこで308km/hで快適に巡航できるなら、1680万円の価値あるね!
サクライ:だと思います。

われわれは、宝の持ち腐れ速度域でB3 GTを走らせつつ、辰巳PAに滑り込んだ。クルマはまばらだったが、インバウンド客が10人くらい、クルマ見物に訪れていた。彼らが乗ってきたらしき、レンタカーの「ホンダ・シビック タイプR」も止まっていた。

彼らは、B3 GTにはほとんど見向きもしなかった。わざわざ日本まで来て、ドイツ製の高級セダンを見ても、何とも思わないのだろう。

オレ:サクライ君、やっぱり最高巡航速度308km/hは、ドイツでしか意味ないのかも……。
サクライ:ドイツで意味があれば、それでいいんじゃないでしょうか。
オレ:そうね! オレたち、アウトバーンに憧れて育った世代だもんね!
サクライ:アウトバーンは最高ですよ。
オレ:アウトバーンは不滅だね!

なぜか目頭が熱くなった。

(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=ニコル・レーシング・ジャパン)

この日の首都高・辰巳PAには、レンタカーの「ホンダ・シビック タイプR」に乗ったインバウンド客の姿が。彼らはシビック タイプRの写真撮影に夢中で、アルピナにはほとんど関心を示さなかった。
この日の首都高・辰巳PAには、レンタカーの「ホンダ・シビック タイプR」に乗ったインバウンド客の姿が。彼らはシビック タイプRの写真撮影に夢中で、アルピナにはほとんど関心を示さなかった。拡大
アルピナの流儀でコーディネートされたコックピット。「オロ・テクニコ」のカラーは外装だけでなく、ステアリングホイールのステッチやアルミニウム製のシフトパフドルなどにも用いられていた。右ハンドル仕様は30万円の有償オプション。
アルピナの流儀でコーディネートされたコックピット。「オロ・テクニコ」のカラーは外装だけでなく、ステアリングホイールのステッチやアルミニウム製のシフトパフドルなどにも用いられていた。右ハンドル仕様は30万円の有償オプション。拡大
「B3 GT」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4725×1827×1440mm、ホイールベースは2851mm。車重は1875kgと発表されている。「アルピナブルー」のボディーカラーが東京の夜景に映える。
「B3 GT」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4725×1827×1440mm、ホイールベースは2851mm。車重は1875kgと発表されている。「アルピナブルー」のボディーカラーが東京の夜景に映える。拡大
最高巡航速度308km/hは、ドイツのアウトバーンでしか意味をなさないものかもしれないが、われわれカーマニアはそこにロマンを感じてしまうのだ。速度無制限区間は年々減る一方と聞く。しかしアウトバーンに憧れて育った世代にとっては、いまでも最高のステージなのである。
最高巡航速度308km/hは、ドイツのアウトバーンでしか意味をなさないものかもしれないが、われわれカーマニアはそこにロマンを感じてしまうのだ。速度無制限区間は年々減る一方と聞く。しかしアウトバーンに憧れて育った世代にとっては、いまでも最高のステージなのである。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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