第209回:「頂点」の名を持つタイヤ ブリヂストンの新スタッドレス「ブリザックVRX」を試す
2013.10.25 エディターから一言ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ「ブリザックVRX」がデビュー。ブリザックブランドの誕生から25年、同社が「ブリザック史上最高性能を実現した」とうたう新商品の出来栄えを、北海道・士別での試乗会で確かめた。
北国で4割を超える装着率
スタッドレスタイヤの試乗会は数々あれど、そのなかで序列のようなものが自然と決まってしまう傾向は否めない。この序列において何が大切かといえば、まずは新製品であることだ。
スタッドレスタイヤは3~5年に1度くらいの割合でモデルチェンジするのが一般的で、新製品が毎年投入されるとは限らない。というわけで、タイヤメーカーのなかには昨年デビューした製品や一昨年に登場した製品で試乗会を開くケースもある。もっとも、こういった試乗会では製品に用いられた技術をより深く掘り下げたり、いつもとは違った角度から紹介したりするので製品知識は深まるけれど、毎年のように新技術が登場するタイヤ業界において、最新モデルでないという引け目は依然として残る。したがって、序列としてはどうしても下位に置かれてしまう。
同じ新製品同士で比べれば、やはり定評ある大メーカーの試乗会のほうが上位にくる。彼らは、豊富な開発リソースと潤沢な資金を背景として、中小メーカーにはなかなか手が出せない大胆な新技術を投入することが多いからだ。
また、一般的にいって大メーカーの製品は市場でのシェアが高いので、より多くのユーザーが購入することになる。したがって、こうしたメーカーが主催する試乗会により多くの注目が集まるのも、やむを得ないことといえるだろう。
こう考えていくと、北海道・北東北の主要5都市で44.3%という高い装着率を誇るというブリヂストンの「BLIZZAK(ブリザック)」は、スタッドレスタイヤ試乗会の序列のなかでも一、二を争うほど重要なものといえる。
実際、今回は腕利きで知られる“あのジャーナリスト”や、理論派で知られる“そのジャーナリスト”たちが多数出席。試乗会場は一種ものものしい雰囲気に包まれていたのである。
25年間の技術の集大成
ブリヂストンが2013年7月18日に発表した新しいスタッドレスタイヤは「ブリザックVRX」と名付けられた。VRXとは英語で「頂点」を意味するVERTEXの略で、ブリザックの誕生からこれまでの25年間で積み重ねた同社の技術の集大成にあたるスタッドレスタイヤだという。こんなところからも、ブリヂストンがこの製品にかける意気込みが伝わってくる。
新採用された技術としては、氷上での滑りの原因となる路面上の水膜を取り除く既存の「発泡ゴム」をさらに進化させ、ゴム内の水を吸い上げる水路の表面に親水性素材をコーティングして水を吸い上げる性能を改善した「アクティブ発泡ゴム」のほか、ブロックを小型化して凹凸のある路面での密着性を向上させた「新トレッドパターン」やサイプの切れ込み断面に3次元のジグザグを入れ込んでブロックの倒れ込みを防いだ「3Dホールドスクラムサイプ」などを盛り込んだ「新非対称パターン」などが挙げられる。
この「新非対称パターン」では、サイプの切れ込みによって路面をひっかくとともにブロックの倒れ込み抑制にも役立つ「V字ブロック」をトレッドのイン側に取り入れたほか、アウト側ではトレッドの溝内に取り込んだ雪をより強く押し固める「マルチグルーブ」が採用された。
また、タイヤのコンストラクション(構造)面では、夏タイヤの代表モデルである「ECOPIA(エコピア)PZ」シリーズで開発された技術と、従来型スタッドレスタイヤである「ブリザックREVO GZ」で用いられた技術を融合させた「新非対称サイド形状」を採用。凹凸ある凍結路面や不均一に積もった雪道から受けるタイヤとクルマのふらつきを防止するという。
こうしたさまざまな新技術を採用することにより、「ブリザックVRX」は従来品の「ブリザック REVO GZ」と比較して、氷上ブレーキ性能とウエットブレーキ性能を10%向上したうえ、転がり抵抗を10%低減してクルマの省燃費化にも貢献する新製品に仕上がったとブリヂストンは主張する。
従来品を確実に上回る性能
では、試乗しての印象はどうだったのか? 今回はブリヂストンの自信作とあって、従来型「ブリザック REVO GZ」とさまざまなシチュエーションで性能を直接比較する機会が設けられていた。例えば、屋外のアイス旋回路を「トヨタ・プリウス」で乗り比べたところ、「ブリザック REVO GZ」ではアンダーステアが強くコントロールが難しかったものが、同じ速度でも「ブリザックVRX」では舵角(だかく)が小さくなり、ステアリングから伝わる“しっかり感”もより向上していることが体感できた。
続いて屋内に設けられたアイス路面では「ホンダ・オデッセイ」を用いて発進/スラローム/ブレーキングの各項目を比較したが、その結果、発進では「ブリザック REVO GZ」が16km/hほどでスリップし始めるのに対し、「ブリザックVRX」では20km/hくらいまで安定したグリップ感が得られたほか、スラロームで滑り始める車速は「ブリザック REVO GZ」の20km/hに対して「ブリザックVRX」は23km/hと3km/hほど高かった。
さらに、初速25km/hと30km/hの2パターンで試したブレーキングでは、「ブリザックVRX」のほうが「ブリザック REVO GZ」より2~3mほど制動距離が短い傾向を示した。
その後は一般路を用いての総合テストを行ったが、「ブリザックVRX」は全般的なグリップ力が高く、ステアリングからは常にしっかりした接地感がつたわってくるのが印象に残った。
今回は気温がマイナス10度をやや上回るほど気温が“高く”、一部で雪や氷が溶けだすスタッドレスタイヤにとって最悪に近いコンディションだったが、それでも「ブリザックVRX」は、定量的な差は小さいながらも、従来品の「ブリザック REVO GZ」をさまざまな状況で確実に上回ってみせた。その意味では、大メーカー“ブリヂストン”の底力をあらためて思い知らされた試乗会だったといえるだろう。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=ブリヂストン)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
NEW
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。 -
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの
2026.7.16マッキナ あらモーダ!アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。
