BMW 435iクーペ Mスポーツ(FR/8AT)
あくまでもエレガント 2013.12.04 試乗記 「3シリーズクーペ」の後継を担う新型車「BMW 4シリーズ」に試乗。1960年代から連綿と受け継がれてきた、BMW製クーペの伝統に触れた。ぜいたくなクルマ
取材日の朝は雨模様だった。薄暗い駐車場にたたずむ「BMW 435iクーペ」は、ガンメタという色のせいか、まるで戦闘機のようにも見えた。もちろん戦闘機でないことは私も知っております。屋根のある駐車場内で撮影するため、『webCG』編集部のスタッフがクルマを動かすことになった。私はそれをぼんやり外から見ていた。ヴォンッ! という爆発音が轟(とどろ)いた。たいそう活発なモデルなんだな、と私は思った。実際にステアリングを握ってみると、このとき抱いた私の印象は間違っていた。
「4シリーズ」という独立した名称を初めて与えられた「3シリーズ」ベースの2ドアクーペ、その現時点でのトップモデルが435iである。搭載するエンジンは、バイエルンの代名詞たる直列6気筒。排気量は3リッター、お得意のツインパワーなる過給システムを加えて、最高出力306ps/5800rpm、最大トルク40.8kgm/1200-5000rpmを発生するN55B30A型ユニットである。
ボディーサイズは、現行3シリーズベースゆえ、2810mmのホイールベースは同一ながら、若干長く、幅広く、低くなっている。ワイド&ローを強調した、後輪駆動の古典的スポーツカー・プロポーション。ボディーが拡大したせいか、それともタイヤ&ホイールが1サイズ格上の19インチを標準としているためか、あるいは装備充実のためか、4気筒同士の比較だとセダンより10kg重くなっている。乗車定員は1名減の4人乗りで、価格は30万円弱高い(「328i」と「428i」との比較。なぜ4気筒で比較しているかというと、セダンには「335i」の設定がないから)。いずれにせよ、4人乗りクーペは5人乗りのセダンより実用性が低い分、ぜいたく品なのだ。
435iはドアを開けた瞬間、「6シリーズ」もかくや、と思わせるゴージャス感で乗る者をワクワクさせる。試乗車の内装は「コーラル・レッド」と呼ばれる深紅で、ダコタレザーの標準シートを備えている。ダッシュボードのフェイシアにはウッドパネルが用いられている。様式的にはトラッド・スポーツカーなのだ。着座位置はセダンよりグッと低い。ペタンと地面に座るような低さ。セダンより10mm地球に近づき、重心の低さを感じる。室内は特に横方向にゆとりがあり、リッパなミディアムクーペの風格がある。
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優雅に走らせるのが似合う
ステアリングの左にある丸いスターターボタンを押すと、ヴァフォンッ! と一発爆裂音がかすかにする。試乗車は「アクティブMサスペンション」なる10万円のオプションの可変ダンピングを装備している。最近のBMWの例に漏れず、走行モードの切り替えスイッチは、センターコンソールの8段ATのシフトレバーの右横にある。燃費最優先のECO PROモードからコンフォート、スポーツ、スポーツ+まで4種類の設定があり、ドライバーの気分次第で切り替え可能だ。 ECO PROモードは明らかに燃費志向で、レスポンスが鈍い。コンフォートモードだと十分なレスポンスが得られ、乗り心地も快適だ。スポーツにすると、エンジン回転がガンッと上がり、がぜんスロットルに対して鋭くなる。乗り心地がガツンと固くなる。ステアリングも重くなってフィールを増す。ラグジュアリークーペからスポーツクーペへとドライバーに見せる顔を変える。その切り替えは明瞭で、う~む、435i、君の本当の正体はどれなんだ? と問いたくなる。
耳を澄ますと、エンジンが教えてくれる。スタート時こそヴァフォンッ! と爆裂音を発するけれど、この直6ターボはたけだけしいタイプではない。シルキースムーズと表現されてきたBMWのストレートシックス、いま考えてみると、私の知る80年代からターボ化されるまでのそれは、実にメカニカルな肌触りがあった。金属の塊同士が擦れ合う、メカメカしさがあった。現行ターボユニットは違う。ただただ、清らかにスムーズなのだ。実にエレガントなエンジンゆえ、乗り心地とステアリングフィールが固くなっても、私の気持ちはエレガントなままで、あらぶったりしない。なので、コンフォートが435iにはよく似合うと私は思う。
ステアリングは、低速ではクイックで、速度があがるにつれて鈍くなる「バリアブル・スポーツ・ステアリング」が標準装備される。駐車時には4WSか!? と思うほどクイッと曲がる。室内は驚くほど静かで、例えば電話で大切なお話などをするのに向いている。
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“ノイエクラッセ”以来の伝統
奇数はセダン、偶数はクーペ、というラインナップの整備を進めるBMWが送り出した新しい中型クーペ。現行「1シリーズ」のクーペも、早晩「2シリーズ」として登場するだろうし、2013年5月にヴィラ・デステで公開された「7シリーズ」ベースの「グラン ルッソ クーペ」も「8」としてデビューする可能性は否定できない。
という推測はともかく、最新4シリーズの最高性能モデル、435iはどんなクルマだったか? というと、私の結論はコレです。
「3.0CS」の再来。
だからどうした、ということはないのです。ただ、そうだなぁ、と思っただけで。実は私、幸運にも2013年初夏のイタリアで、1973年の「3.0CSi」、75年の「3.0CS」、さらに81年の「635CSi」、おまけに93年の「850CSi」に乗る機会があった。「BMWグループ・クラシック」が主催する、1泊2日でガルダ湖周辺を走り回るイベントに参加させてもらったのです。このとき私は初めて知った。たとえモータースポーツのベース車両となった、かの3.0CSiであっても、スパルタン一辺倒ではなくてエレガントなクルマであったことを。
クルマづくりの名手BMWは、いまもスポーツサルーンを最も得意としている。それはつまるところ、モダンBMWが1960年代に発表した「1500」ノイエクラッセを源泉としているからだ。BMWってピュアスポーツカーはあまり上手ではない。あくまで、スポーツサルーンのメーカーなのだ。
そして、クーペとは、セダンをベースにしつつ、よりダイナミックな運動性能を与え、内外装をよりパーソナルに仕立てたモデルである。それゆえ、クーペはBMWにとって自家薬籠中の得意分野といえる。なにしろセダンづくりがうまいのだから。傑作とされる3.0CSと、新しい435iとの共通点はなにか? 3リッター直列6気筒エンジンを積む、フロントエンジンの後輪駆動ということである。
435iは、レーンデパーチャー・ウォーニング(車線逸脱警告システム)や前車接近警告機能、衝突回避・被害軽減ブレーキ等の電子制御システムを標準装備し、それらを売りのひとつに数えているけれど、その本質は3.0CSと変わるところはない。エレガントな高級クーペなのである。もちろん、だからこそ新しい4シリーズは成功するであろう、と私は申し上げたいのです。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
BMW 435iクーペ Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1825×1375mm
ホイールベース:2810mm
車重:1620kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306ps(225kW)/5800rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1200-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 89Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:12.7km/リッター(JC08モード)
価格:774万円/テスト車=837万5000円
オプション装備:Mスポーツブレーキ(10万円)/アクティブMサスペンション(10万円)/パールウォルナット・ウッドトリム+パールグロスクローム・ハイライト(1万7000円)/電動ガラスサンルーフ(17万円)/リアウィンドウ・ローラーブラインド(4万8000円)/スルーローディングシステム(2万8000円)/アダプティブLEDヘッドライト(16万5000円)/アクティブクルーズコントロール(9万5000円)/パーキングアシスト(4万9000円)/メタリック・ペイント(8万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3985km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:428.8km
使用燃料:51.1リッター
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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