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BMW M440i xDriveクーペ(4WD/8AT)

きっと愛せる 2021.02.01 試乗記 渡辺 敏史 新型「BMW 4シリーズ」の直6エンジン搭載モデル「M440i」に試乗。衝撃的なインパクトのフロントフェイスはもちろんのこと、もはや「M4」レベルと思えるほどの切れ味と速さは、大いに印象的なものだった。

その顔 どうした?

クーペの名門といえばBMW。これに異論を挟まれる方は少ないと思う。かつて、4ドアセダンをベースに省ける部品や工程を価格に転嫁した安物という位置づけだった2ドアセダンに特別な意匠を与えて、ノイエクラッセの派生としてピン立ちできる2ドアクーペを次々と生み出したのが1960年代。確か、ホフマイスターキンクの発祥もこの頃に登場した「2000CS」あたりにさかのぼるはずだ。

その後、1970年代には初代「6シリーズ」が登場、世界一美しいクーペの称号をほしいままにし、1980年代には「E30」ベースの「M3」がBMWのクーペにスポーティネスという付加価値をもたらした。以来、初代「8シリーズ」の不振はあったものの、BMWを代表するスペシャリティーとして大小のクーペは位置づけられている。

ああそれなのに、それなのに……。

大小のうちの小、新しい4シリーズの話をするうえで、避けるわけにはいかないのはその顔面にまつわる是非だろう。2019年のフランクフルトモーターショーで発表された「コンセプト4」を現場で見た時には、あまりの衝撃に握っていたスマホを落として画面にヒビを入れてしまったほどだったが、まぁコンセプトカーは宴会芸みたいなもんだから……と一縷(いちる)の望みも抱いていた。

が、その思いは断たれ、今、東京の路上にあるのは、そのショー会場から抜け出してきたかのような4シリーズだ。

2020年6月にデビューした新型「BMW 4シリーズ」。今回は、BMW M社が開発を手がけた“Mパフォーマンスモデル”「M440i xDriveクーペ」に試乗した。
2020年6月にデビューした新型「BMW 4シリーズ」。今回は、BMW M社が開発を手がけた“Mパフォーマンスモデル”「M440i xDriveクーペ」に試乗した。拡大
新型「4シリーズ」で最大の話題となっているのが、斬新な大型キドニーグリル。エンジンの温度を調節するためのグリルシャッターも備わる。
新型「4シリーズ」で最大の話題となっているのが、斬新な大型キドニーグリル。エンジンの温度を調節するためのグリルシャッターも備わる。拡大
センターコンソールがややドライバー側を向いたコックピット周辺部。ハンドル位置は右のほか、左も選べる。
センターコンソールがややドライバー側を向いたコックピット周辺部。ハンドル位置は右のほか、左も選べる。拡大
「M」エンブレムが添えられたステアリングホイール。スポーク部には運転支援システムやオーディオなどのスイッチが並ぶ。
「M」エンブレムが添えられたステアリングホイール。スポーク部には運転支援システムやオーディオなどのスイッチが並ぶ。拡大
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スタイルはすばらしい

横から見れば流行のファストバック的プロポーションにちょっと寄せつつも、「E36」あたりから先代「F32」へと守り続けられてきた流麗な3ボックスシルエットはしっかり継承されている。いや、継承より昇華と言っても過言ではない。バランス的には8シリーズよりこなれているように感じられる。そして後ろに回れば安定の台形スタンス……と、それはまごうかたなきBMWのクーペである。

そう、前にさえ回らなければ、顔さえ合わせなければずっと愛し続けられるんじゃないか。いや、さっき見えたような気がするあの顔はもしや幻覚では……と、恐る恐る前のほうへと目を移すと、そこにいたのはやっぱりとんまるきさん。はち切れんばかりの鼻腔(びこう)につつましげに貼り付けられた日本のナンバーを見ると、届くなり薬箱の奥に放り込んだアベノマスクを思い出す。

既に発表されているM4はこの4シリーズよりさらに巨大なキドニーグリルがあてがわれており、M3も同様の顔圧が与えられた。玉突き事故はこの後に控える「グランクーペ」にも及ぶのだろうか。ともあれ、この類いの衝撃といえば直近で思い出すのは6年前、現行「トヨタ・アルファード」が登場した時だ。

クーペらしい流麗なルーフラインをみせる新型「4シリーズ」。「M440i xDriveクーペ」のリアエンドには、リップ状の「Mリアスポイラー」が装着される。
クーペらしい流麗なルーフラインをみせる新型「4シリーズ」。「M440i xDriveクーペ」のリアエンドには、リップ状の「Mリアスポイラー」が装着される。拡大
本文で触れたナンバープレートとの位置関係はご覧の通り。ちなみに、より横長な欧州のプレートもキドニーグリルより内側におさまる。
本文で触れたナンバープレートとの位置関係はご覧の通り。ちなみに、より横長な欧州のプレートもキドニーグリルより内側におさまる。拡大
スポーティーなデザインの「Mスポーツシート」。13万6000円のオプションとして用意される。
スポーティーなデザインの「Mスポーツシート」。13万6000円のオプションとして用意される。拡大
後席の定員は2人。中央のアームレストには左右席用のカップホルダーが備わる。
後席の定員は2人。中央のアームレストには左右席用のカップホルダーが備わる。拡大

走りはさすがのビーエム調

まぁ乗り込んでしまえばこっちのものだろうとエンジンをかけると、フォンと響き渡るのはストレート6ならではの粒立ちの滑らかなサウンドだ。そんな時代じゃなくなりつつあろうが、いいものはいい。今や結構な高額モデルでしか味わえなくなったのが惜しまれるが、やっぱりBMWののれんに期待する満足感の過半はここに秘められているように思う。

ゆるゆると歩むようなところからのコントロール性も良く、ブレーキの利きも立ち上がりが穏やかと、試乗車のM440iは操縦性も上質だ。そして何より、そういった低中速域での乗り心地の良さはライバルのアベレージを鑑みても特筆に値する。この点、同じパワートレインと「xDrive」(4WD)を採用するセダン「M340i」と比べても間違いなく一枚上手だ。メルセデスやレクサスがランフラットタイヤのしつけに手を焼くなか、BMWは先駆ゆえの蓄積もあり、それを見事にものにしている。

高速域でも、出くわすジョイント段差や大きめの凹凸の乗り越えは丸く、乗り心地は至って上質だ。サスの伸び側の抑えが緩く、上屋の上下トラベルが大きめなのは相変わらずのBMW調で、思わずドライブモードをスポーツに入れたくなるが、近年のモデルに加えられたアダプティブモードはなかなか賢くて、盲牌(もうぱい)しづらいモード切り替えに触れずとも、乗ってイライラすることのないコンディションに保ってくれる。

ターボで過給される“ストレート6”エンジンの最高出力は387PS。最大トルク500N・mは1800rpmという低回転域から5000rpmの間で発生する。
ターボで過給される“ストレート6”エンジンの最高出力は387PS。最大トルク500N・mは1800rpmという低回転域から5000rpmの間で発生する。拡大
「M440i xDrive」の0-100km/h加速タイムは4.5秒で、WLTCモードの燃費値は11.2km/リッター。今回は350kmほどの距離を試乗し、満タン法、車載燃費計ともに10.1km/リッターを記録した。
「M440i xDrive」の0-100km/h加速タイムは4.5秒で、WLTCモードの燃費値は11.2km/リッター。今回は350kmほどの距離を試乗し、満タン法、車載燃費計ともに10.1km/リッターを記録した。拡大
トランスミッションは8段ATのみ。シフトレバーの周辺には走行モードのセレクターやインフォテインメントの操作デバイスが並ぶ。
トランスミッションは8段ATのみ。シフトレバーの周辺には走行モードのセレクターやインフォテインメントの操作デバイスが並ぶ。拡大
「M440i xDriveクーペ」用の19インチアロイホイール。内側のカラーリング(セリウムグレー)がジェットブラックのものも選択できる。
「M440i xDriveクーペ」用の19インチアロイホイール。内側のカラーリング(セリウムグレー)がジェットブラックのものも選択できる。拡大

もっとマイルドでいいくらい

曲がり始めのゲインの立ち上がりが強い感覚もまたBMWらしいといえばそうだが、このあたりは低偏平+ランフラットというタイヤのケース剛性が最も顕著に現れているのだろう。が、そこから先の本格的にタイヤが負荷を支える段階になってくると、クルマの側がグイグイとインに入ろうという仕立てになっていて、全体的なコーナリングのシャープネスは調律が取れているように感じられた。

最終的には四駆のスタビリティーで安定性を担保する思惑かもしれないが、この後ろにM3/M4が控えていることを鑑みれば、曲がりの速さより所作の優雅さを楽しませてくれるもう少しマイルドなハンドリングでいいのではないかと思う。というか、個人的にはこれがM4であってもいいんですけどと思うほど、存分に鋭く速い。

カメラのシャッター音が響く撮影の様子を遠目に眺めていると、とんまるきさんがちょっと輝いているように見えて……と、つい心を許している自分がいることに気がついた。

なんとかは3日……の例えよろしく、早くも3時間で慣れてしまったということだろうか。そういえば、いつの間にやらアルファードを見ても悪寒が走ることはなくなったが、あちらは数的圧力も多分にあるだろう。果たしてこの4シリーズは、ちまたの方々にどのように受け止められるのか。もし街なかでその後ろ姿を見かけたならば、ドキドキしながらそーっと前のほうに回り込んでみていただければと思う。

(文=渡辺敏史/写真=田村 弥/編集=関 顕也)

「M440i xDriveクーペ」は電子制御でリア左右輪の駆動力を調整する「Mスポーツディファレンシャル」を装備。旋回時の走行安定性と、コーナー脱出時のトラクション性能を高める。
「M440i xDriveクーペ」は電子制御でリア左右輪の駆動力を調整する「Mスポーツディファレンシャル」を装備。旋回時の走行安定性と、コーナー脱出時のトラクション性能を高める。拡大
液晶表示のメーターパネルは、カーナビのマップも表示可能。走行モードの切り替えにより、速度計やエンジン回転計のカラーリングが変化する。
液晶表示のメーターパネルは、カーナビのマップも表示可能。走行モードの切り替えにより、速度計やエンジン回転計のカラーリングが変化する。拡大
開口部の大きなトランクルーム。積載容量は4人乗車時で440リッターとなっている。
開口部の大きなトランクルーム。積載容量は4人乗車時で440リッターとなっている。拡大
運転支援システムの充実も新型「4シリーズ」のセリングポイント。「高速道路渋滞時ハンズ・オフ・アシスト」も備わっており、一定の条件下で“手放し運転”も可能となる。
運転支援システムの充実も新型「4シリーズ」のセリングポイント。「高速道路渋滞時ハンズ・オフ・アシスト」も備わっており、一定の条件下で“手放し運転”も可能となる。拡大

テスト車のデータ

BMW M440i xDriveクーペ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1850×1395mm
ホイールベース:2850mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:387PS(285kW)/5800rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93Y/(後)255/35ZR19 96Y(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:11.2km/リッター(WLTCモード)/12.4km/リッター(JC08モード)
価格:1025万円/テスト車=1058万6000円
オプション装備:ボディーカラー<アークティック・グレーレース・ブルー>(12万4000円)/BMW Individualアルミニウム・ハイグロス・インテリアトリム(7万6000円)/Mスポーツシート(13万6000円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2278km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:352.1km
使用燃料:34.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費: 10.1km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW M440i xDriveクーペ
BMW M440i xDriveクーペ拡大
センターモニターのサイズは10.25インチ。コネクテッド機能が備わっており、アプリも豊富にそろう。
センターモニターのサイズは10.25インチ。コネクテッド機能が備わっており、アプリも豊富にそろう。拡大
センターコンソールにはリッド付きのカップホルダーが配置される。その奥にはスマートフォンの非接触充電トレーも。
センターコンソールにはリッド付きのカップホルダーが配置される。その奥にはスマートフォンの非接触充電トレーも。拡大
センターコンソール後端には、後席用の空調スイッチが用意される。2連のUSBコネクターはともに「Type-C」規格のもの。
センターコンソール後端には、後席用の空調スイッチが用意される。2連のUSBコネクターはともに「Type-C」規格のもの。拡大
後席を倒し、キャビンとトランクをつなげた状態。長尺物の積載にも対応できる。
後席を倒し、キャビンとトランクをつなげた状態。長尺物の積載にも対応できる。拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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