BMW 440iクーペ Mスポーツ(FR/8AT)
感動モノの出来栄え 2016.08.23 試乗記 BMWがスペシャリティーモデル「4シリーズ」のエンジンラインナップを一新。各モデルに、モジュラー設計の新世代パワーユニットを採用した。最もパワフルな3リッター直6ターボが搭載された「440iクーペ」に試乗し、その実力を報告する。いよいよ新世代エンジンを搭載
この4月、日本におけるBMW 4シリーズのパワートレインが一新された。新エンジンは1気筒あたりの排気量が約500ccのシリンダーを直列に配置するモジュラー設計となっており、直列4気筒なら2リッター、直列6気筒なら3リッターということになる。
4シリーズは、チューンが異なる2種の直列4気筒2リッターターボエンジンと、直列6気筒3リッターターボエンジンをラインナップ。いずれも直噴システム、ツインスクロールターボチャージャー、無段階バルブコントロールシステム、バリアブルカムシャフトコントロールが備わる。
エンジン排気量を腹八分目に抑えて効率化を図りつつ、ターボでパワーに厚みを持たせるというコンセプト自体は、従来と変わらない。
今回試乗した「BMW 440iクーペ Mスポーツ」が積む3リッター直列6気筒ターボエンジンは、従来型にあたる「435i」と排気量は同等ながら、最高出力は20ps強化の326ps/5500rpm、トルクは5.1kgmアップの45.9kgm/1380-5000rpmとなっている。
これだけ力強さを増しているのに燃費も13.5km/リッターに向上しているというのが新エンジンのウリ。というわけで、おのずと注目はエンジンに集まる。
どうも「2」とか「4」とか「6」とか、BMWの偶数番号シリーズにはいまだになじめないけれど、4シリーズのクーペとはつまり「3シリーズ」のクーペ。4シリーズ クーペの2810mmというホイールベースは、3シリーズのセダン/ツーリング(ワゴン)と共通である。
なぜ3シリーズのクーペではなく4シリーズのクーペと呼ぶようにしたのか、その真意はわからないけれど、試乗車の総額889万7000円(税込み)というプライスリストを見ると、なんとなく想像できる。
3シリーズのクーペがこんなにすると「えっ!?」と思うけれど、4シリーズだと聞けば、なんとなく納得してしまう。
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数字には表れない“ありがたみ”
4シリーズのルックスは、七三分けの正統派二枚目。インテリアは見慣れた最近のBMWテイストで、ドライバーズシートに腰掛けた時の驚きはないけれど、仕立ての良いスーツに袖を通した瞬間のように気分がシャキッとする。
エンジン始動時には、「バウン!」と下腹に響くサウンドの演出でドライバーを盛り上げる。ただしひとたび始動してアイドリング状態に移ると、振動は皆無。「ルルルルル」というアイドル時の排気音のボリュームは控えめ。それでも隣の町のお祭りの太鼓や花火の音が聞こえるくらいには耳に入って、控えめに存在感を主張する。
うるさくはないけれど、エンジンが精緻に働いていることを伝えるこの音、これも演出の成果だとしたら相当凝っている。クルマ好きにとっては、遠くから聞こえる子守歌のようである。
アクセルペダルを踏み込むと、ミディアムレアで焼いたステーキの肉汁のように、じゅわーっとトルクがあふれてくる。ステーキの肉汁と違うのは、肉汁は出たら出っぱなしであるけれど、このエンジンのトルクはアクセルペダルの微妙な踏み加減に瞬時に反応して、出したり止めたりできることだ。
右足の親指の付け根に込める、ほんのわずかな力の加減に応じてくれる繊細なエンジンだ。
エンジン回転数が3500~3750rpmを超えるあたりから、回転計の針が盤面を駆け上がる速度が加速する。同時に、背後から聞こえる排気音が、乾いたヌケのよい響きへと変化する。クルマ好きにとってこれはノイズではなくサウンドで、アクセルペダルで楽器を演奏しているような感覚になる。
キメの細かい手触りの回転フィールといい、古典的なクルマの楽しみ方かもしれないけれど、直列6気筒エンジンにはやはり、ありがたみがある。直6がどんどん減っている昨今、まさに「有り難い」。
ちなみに326.4kmを走って、満タン法での燃費は11.3km/リッター。13.5km/リッターというJC08モード燃費には及ばないものの、極端なエコドライブを行うことなく、326psで1.7t近い車重を引っ張り回した結果の数字としては悪くない。
省燃費と動力性能を両立しているのはもちろんのこと、そこにファン・トゥ・ドライブが加わって、三方が丸く収まる大岡裁きのようなエンジンだ。いやいや、大岡裁きの三方一両損と違って、何も損なわれていないのだから、なおさらすごい。
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高性能スポーツクーペのお手本
ついついエンジンに目が向いてしまうけれど、シャシーもエンジンと同じく味わい深い。
これだけの大パワーを受け止めるのに乗り心地に粗っぽさは感じられず、市街地でもしなやかで滑らかな走行感覚をドライバーに伝える。
高速道路で速度を上げるとしなやかさにどしっとした安定感が加わり、そこにコーナーが加わると今度は敏しょう性までが加わる。
新しい6気筒直噴ターボは、ゆったり走らせると優雅でジェントル、ムチを入れると硬派なスポーツカーに印象を変えたけれど、シャシーも同じだ。おしゃれで快適なクーペとしてスカして乗っても様になる一方で、その気になれば軽快なフットワークを心ゆくまで楽しむことができる。
昔のモータースポーツの教科書には、「レースで速いエンジンは、実はピークパワーではなく中低速のピックアップがいい」とか、「ルマンで勝つマシンは実は乗り心地がいい」と書いてあったことを思い出す。BMW 440iクーペ Mスポーツに乗っていると、そういった言葉は都市伝説ではなく真実なのだと思えてくる。
本当に速く走れるクルマは、扱いやすさも備えているのだ。
BMW 440iクーペ Mスポーツでなにより好ましいと思えたのは、エンジン性能もシャシー性能も突出しているにもかかわらず、それぞれが別個のものではなく、一台のクルマとしてまとまっていることだ。
アクセルペダルに力を入れればシャシーも力強い走りに対応し、アクセルペダルを緩めれば乗り心地も快適さを伝えてくる。
バランスがいいクルマというと、時としてつまらないのではないかと考えてしまう。でもBMW 440iクーペ Mスポーツのように超高次元でバランスしているのは感動モノだ。まさに、高性能スポーツクーペの教科書と呼びたくなる一台。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
BMW 440iクーペ Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1825×1375mm
ホイールベース:2810mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:326ps(240kW)/5500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1380-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 89Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラット>)
燃費:13.5km/リッター(JC08モード)
価格:809万円/テスト車=889万7000円
オプション装備:BMW Individualレザー・メリノ<エクステンド・レザー>ナツメグ/ブラック(46万3000円)/BMWコネクテッドドライブ・プレミアム(6万1000円)/パーキングサポート・パッケージ(11万3000円)/アダプティブLEDヘッドライト(17万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1126km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:326.4km
使用燃料:28.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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