生活者の強い味方
11月にマイナーチェンジを受け、「スズキ・スイフト」と同じ1.2リッター4気筒の「デュアルジェットエンジン」を積んだ「スズキ・ソリオS-DJE」に試乗しながら、数日前にコーヒー好きの知人と交わした会話を思い出す。
お題は「コンビニの100円コーヒー」。あれはなかなかうまい、食通ではない自分には十分だという話をした。特にセブン-イレブンのやつが好みだ。
いっぽうコーヒー好きの知人は、値段を考えれば上等の味だと認めながら、「それでもやっぱり香りや、器の形や感触を楽しみたい」と反論するのだった。特にいまの季節のコンビニは、おでんや肉まんの湯気でホカホカしているのでコーヒーを楽しむには最悪の環境であるらしい。
スズキ・ソリオも、値段を考えればべらぼうに広くて小回りが利き、よく走る、生活者の強い味方である。ソリオが1台あれば、4人家族のファミリーなら何の不足も感じないだろう。試乗会での短時間の試乗だったので燃費は計測できなかったけれど、スイフトの例から推察するに燃費もいいはずだ。
ただし形やドライブフィールを楽しみたいクルマ好きとしては、「どうしてもソリオにしたい」という強いインパクトは感じなかった。
とはいえ、何かに不満を覚えるわけではない。12.0という高い圧縮比や機械抵抗を減らすことなどで省燃費を実現した“スズキ版SKYACTIV”ともいえるデュアルジェットエンジンは、その排気量から想像するよりはるかに力強く加速する。高速道路の合流部分で加速するとかなり高い回転域まで使うことになるけれど、ノイズもバイブレーションも少なく、スムーズに回る印象だ。
25.4km/リッターというJC08モード燃費は、使いやすさを犠牲にして成り立っているのではなく、きちんと乗り手の立場になって達成したものだ。
組み合わされるCVT(自動無段変速機)とのマッチングもよく、速くはないけれどレスポンスはいい。
「真面目に作られている」という印象は、エンジンだけでなく足まわりも共通だった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗り心地の改善もエンジンのおかげ?
「真面目」だと感じたのは、高速道路での走行時に横風を受けても、これだけの背高モデルなのにほとんど影響を受けなかったからだ。ピタッと安定しているし、ステアリングホイールの手応えもしっかりしているから不安を感じない。
さすがにこれだけ風を受ける面積が広いと、100km/h前後から風切り音が気になるけれど、前述したようにエンジンの滑らかさや静かさとあわせて、高速走行は得意種目だといっていいだろう。
実は、市街地での乗り心地がマイナーチェンジ前よりもしなやかになっているように感じた。このあたりを担当エンジニア氏にうかがうと、特に足まわりは変更していないという。ただし、エンジニア氏も同様に乗り心地が大人っぽくなっていると感じたというのだ。
彼の推測では、その秘密は新しい「デュアルジェットエンジン」にあるとのことだ。このエンジンの最大トルクは12.0kgmと、以前から存在する1.2リッターと変わらない。ただし、この最大トルクを生む回転数が4800rpmから4400rpmに引き下げられているのだ。結果、低速域でトルクに余裕が生まれ、それが滑らかな加速となり、乗り心地まで向上したと感じるのではないか、ということだ。
「デュアルジェットエンジン」搭載モデルにはアイドリングストップ機構が備わり、インストゥルメントパネルには回生ブレーキの作動状況を示すエネルギーフローインジケーターが装着される。
いまとなっては珍しさもないけれど、アイドリングストップから再始動する瞬間の素早さやスムーズさは、訓練された内野陣のダブルプレーのように見事で、ここにも「真面目に作ってるな」と感心させられた。
とはいえ、「感心」といえばソリオの場合、やはり室内の広さだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
車内の広さに“おもてなし”をプラス
最高級グレードのソリオS-DJEは、後席スライドドアが左右ともドアハンドルのスイッチにタッチするだけで開閉できる。人さし指でツンとつっつくと、さーっと開いて、だだっ広い空間が現れる。
左右が独立して165mmもスライドする後席を一番後ろまで下げれば、足を組むなんてお茶の子さいさい。天上が高いから開放感があるし、後席にはリクライニング機構も付いていて思いきりくつろぐことができる。
余談だけれど、前席シートバックに2個のドリンクホルダーを備えたピクニックテーブルが標準で装備されるようになったので、後席の“おもてなし感”はさらにアップした。
ピクニックテーブル以外のシートアレンジメントや使い勝手には、マイチェン前からの大きな変化はないけれど、この広さは圧巻だ。友だちを乗せてもいいし、サーフボードや自転車を積んでもいい。
冒頭で、デザインやドライブフィールを楽しみたいクルマ好きにはモノ足りないと書いたけれど、クルマ以外の趣味を楽しみたい人にとっては十分以上の出来だ。
細部まで真面目に作られているから、安心しておすすめできる。
家族や友人と出掛けて、わいわい遊んで笑った後に飲めば、コンビニのコーヒーだって抜群においしく感じるはずだ――。スズキ・ソリオに乗りながら、そんなことを考えた。
(文=サトータケシ/写真=森山良雄)
テスト車のデータ
スズキ・ソリオS-DJE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3710×1620×1765mm
ホイールベース:2450mm
車重:1060kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ヨコハマ・ブルーアース)
燃費:25.4km/リッター(JC08モード)
価格:176万6100円/テスト車=176万6100円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:542km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。



































