スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドMV(FF/CVT)
見た目にだまされるな 2025.03.10 試乗記 「スズキ・ソリオ」がマイナーチェンジ。見てのとおりフロントマスクの迫力が一気にアップしているが、実はボンネットの中身も一変。実はハイブリッドシステムの核となるエンジンが刷新されているのだ。あえてワインディングロードに持ち込み、進化のレベルを探った。すさんだ交通環境に対する防衛本能
いわゆるミニバン的なクルマの販売動向を分析すると、おしなべて商売的にはベースモデルより優勢だというカスタム系のモデル。それらにとって最も大切なのは車輪よりも顔面力だ。個人的には出オチの一発芸にしか思えないけれど、販売の現場ではそのご対面の数秒で雌雄が決することもあるという。
というわけで、「ソリオ バンディット」もマイナーチェンジを機に顔面力を一気に高めてきた。日の出前の駐車場にたたずむそのフロントマスクは、なんだか「アルファード」と「デリカD:5」が正面衝突したような造作にもうかがえる。ともにミニバン業界に衝撃を与えた佳作であることは間違いない。スズキとしては勝利の最大公約数をバンディットに託したということだろうか。
と、こちとらまるで気持ちが入らぬまま、日の出が海辺をキラキラと照らす爽やかな朝、バンディットを撮影現場に連れ立ってみれば、機材を用意していたKカメラマンのつぶやきに、すうっと腹落ちさせられた。
「うへえ、またジャギ撮んのかぁ……」
カスタム系=ジャギ。視聴者提供のドラレコ映像を垂れ流しては、けしからんと上から仰せるテレビばかり見ていれば、さながら現代の路上は『北斗の拳』の様相にも思えてくる。いわばカスタム系顔面のジャギ化は、ちまたにはびこるヒャッハー車両を顔圧で制する、エリマキトカゲ的な防衛本能なのだろうか。ちなみにジャギ顔のギラギラ面は、周辺の映り込みに配慮するカメラマンにとっても難敵ではある。
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最新の3気筒エンジンで燃費性能が向上
新しいソリオ バンディット……というか、ソリオシリーズのパワートレインは、全グレードで1.2リッター3気筒のマイルドハイブリッドに改められた。新しい「スイフト」も用いるZ12E型は攪拌(かくはん)性の高いロングストロークと高圧縮比で高速燃焼を実現し、本体効率を高めている。そこに加えられるのは始動と駆動、回生を担う最大トルク60N・mのISGだ。それにCVTを組み合わせてのWLTCモード燃費は22.0km/リッターと、1.2リッター4気筒マイルドハイブリッドの前型に対して12%ほどの向上をみている。スズキのハイブリッドシステムは仕様詳細が二転三転しているが、新エンジンとの組み合わせとなるここで一応の安定をみたことになるのだろう。
そのパワートレイン、音・振動面での3気筒ならではの癖はまったく気にならず……といえばウソになるが、質感を害するほどのものでもない。ロングストローク化に伴うトルクの数値的な向上はないが、低中回転域でのアクセル操作に対するツキは4気筒以上に快活に感じられる。そのうえでモーターのトルクアシストも加われば、加速のためにアクセルを深く踏み込んでエンジンをうならせる機会は相対的に少なくなる。
とはいえ、それは平地の街なかでの話。高速に合流すればさすがにエンジンの稼働もせわしなくなるし、山道に臨めばさすがに加速は緩慢になる。いくらジャギ顔とはいえ、ソリオはソリオだ。高負荷が無理筋ななりたちのクルマを、わざわざワインディングロードの中心地である箱根に連れてくるとは人が悪い。でも首謀の編集Fくんは「ギャップもえ狙いということで」とまんざらでもなさそうだ。
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意外に粘る足まわり
ラオウのような992型「911 GT3」が徘徊(はいかい)する現場のくねくね道でバックミラーを気にしつつ、そろそろと走らせてみると、たわみやねじれ感に乏しいいかにもエコタイヤ的な路面アタリに、立て板に水を流すかのような電動パワステの操舵感では案の定、前向きに臨む気にはなれない。
威勢はいいが、乗ればやっぱマグロだったか……。
と、そう思いながらくねくねをひとつふたつ越えてみると、ん? と気づかされることもあった。フィードバックの薄さを差し引きながら曲がってみるとバンディット、その姿勢自体は割ときちんと御されているということだ。この手の背高クルマの常で若干の踏ん張りどころを超えると急にロールがドサッと降りかかってくる、そんなそぶりをみせることはなく、横Gの高まりとの連動性が保たれている。下りのダイアゴナルな車体状況でもリアタイヤが早々にグリップ抜けする感覚もないし、ギャップを踏んでいっても追従性は割と高く、大きなバウンドでは致し方ないオツリも不安のない程度には収まってくれる。制動時にフロントダイブが著しく先行する感もなく、このあたりは乗員の快適性にも効いてくるだろう。
ドライバーを守るスズキならではの配慮
これでバネ下からのインフォメーションが舵にも豊かに伝わってくれば、案外イケるクチに化けるかもしれない。とりあえずタイヤをねっとり系に換えてみたいなぁ……と思わずジャギに邪気も湧いてしまったが、国内のファミリーユースがメインとなるこの手のクルマゆえ、ドライバーを限界に至らせないためのシグナルを相当早めにともすことにも配慮しなければならないわけだ。あえて車台の素性をみせないことの大事さもよく理解しているがゆえの、こののっぺりした味つけはスズキらしい親心といえるかもしれない。
子どももいなければ積むものもない自分にとって、ソリオのようなクルマは極北の位置にある。でも、小さな車庫スペースにもきっちり収まるスライドドアで、その気になれば家族3人でのキャンプも余裕の積載力をもち、週末には祖父・祖母を乗せて5人で回転ずしにも行ける。日本の家族の生活スタイルに鑑みれば、ここに少なからぬパイがあることは理解できる。それがジャギ顔である必要性はやっぱり最後まで理解できないけれど。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)
テスト車のデータ
スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドMV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3810×1645×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:1030kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:82PS(60kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:108N・m(11.1kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1100rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:22.0km/リッター(WLTCモード)
価格:230万3400円/テスト車=268万6530円
オプション装備:ボディーカラー<メロウディープレッドパール×ガンメタリック2トーンルーフ>(5万5000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション スズキコネクト対応通信機装着車(22万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(3万3990円)/ETC車載器(2万4200円)/ドライブレコーダー(4万9940円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:553km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:289.6km
使用燃料:17.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.4km/リッター(満タン法)/16.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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