第4戦中国GP「ハミルトンの進化」【F1 2014 続報】
2014.04.21 自動車ニュース ![]() |
【F1 2014 続報】第4戦中国GP「ハミルトンの進化」
2014年4月20日、中国の上海インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第4戦中国GP。今回もメルセデス勢がGPウイークを席巻し、ルイス・ハミルトンが自身初の3連勝、シルバーアローは3戦連続の1-2フィニッシュを達成した。
![]() |
![]() |
■F1とタクシーの話
それは最古参チームのトップからの意見だった。今季始められた“F1のグリーン化”を目指した新レギュレーションにより、燃料とタイヤをひたすらセーブしなければならないレースを懸念したフェラーリのルカ・ディ・モンテゼーモロ会長は、「“タクシーのようなドライビング”がスリリングなF1の魅力を損なう」という主旨から、何らかの対策が必要だと訴えてきた。
開幕戦オーストラリアGP、第2戦マレーシアGPと比較的おとなしいレースが続いたこともあり、3戦目のバーレーンGPを前に、かのモンテゼーモロ、興行面のトップであるバーニー・エクレストン、そしてFIA(国際自動車連盟)会長ジャン・トッドといった面々を巻き込んで、各所で議論が繰り広げられた。
争点はほかにもあった。1.6リッターV6ターボ+電気ブーストERSという新世代のハイブリッド・パワーユニットが“静か過ぎる”がゆえにトップフォーミュラならではの迫力が失われているという意見もあれば、スピードが遅すぎるのではないかという主張もあった。
前戦バーレーンでのレースは、それら新ルールへの異論反論を黙らせるだけの魅力あふれる展開となった。
今季最速マシン、メルセデス「W05」を操るルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグによるスタートからゴールまでの丁々発止は、世界選手権900戦目という節目を飾るにふさわしい、高度な技のぶつかり合いだった。
確かにメルセデスの速さだけが突出しており、優勝争いは、同じチームの2人の間でしか行われなかった。コンペティションの多様性という意味では面白みに欠けたかもしれないが、トップドライバー同士が互いのプライドをかけ、経験と頭脳を極限まで駆使して覇を競い合う姿こそ、最高峰カテゴリーの存在を世に知らしめるための最高のカードではないだろうか――という考え自体に、異論を挟む余地はないのではないだろうか。
もちろんスポーツは筋書きがないもので、バーレーンのような名勝負が毎戦繰り返される保証はどこにもない。しかしルールはレースを形作る、重要なエレメントのひとつだが、真の主役はドライバーであること、またそのドライバーを上手に“管理”しながら自由に戦わせることのできる環境も忘れてはならないだろう。
3戦して最高位4位というふがいない成績しか残せていなかったフェラーリは、4月14日、ステファノ・ドメニカリが責任を取り代表を辞任。北米で最高経営責任者を務めたマルコ・マティアッチを後任とする発表を行った。レースのスペクタクルを訴える最古参チームは、その競争力のなさを理由に、レース屋ではなく、自動車販売のトップエグゼクティブをサーキットに手配したのだった。
![]() |
■ハミルトン、今年3度目のポールポジション、レッドブルが2-3位
10周年目の上海は、ウエットで予選が行われた。トップ10グリッドを決めるQ3ではレッドブルが善戦し、最初のアタックでセバスチャン・ベッテルがロズベルグを抑えトップタイムをマーク。パワー不足でトップスピードは遅いものの、レッドブル「RB10」はしっかりとしたダウンフォースを得ているようで、滑りやすい路面でも安定感があった。
しかしチャンピオンが頂点に君臨できたのはほんの一瞬だった。ハミルトンがベッテルを0.6秒突き放しやすやすと首位を奪い、その後のフライングラップではさらに約0.5秒ものタイムアップに成功。4戦して3度目のポールポジションを獲得してしまった。ハミルトンは通算ポール数を「34」とし、これで歴代単独4位となった。
予選2位は、ハミルトンから0.6秒遅れてレッドブルのダニエル・リカルド。ベッテルは結局3番手につけた。ロズベルグはミスもあり4位。フェラーリのフェルナンド・アロンソは、定位置といっていい5番グリッドから今季初表彰台を目指す。
フェリッペ・マッサ6位、バルテリ・ボッタス7位とウィリアムズ勢に次いで、フォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグ、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュが並んだ。そして10番グリッドについたのはロータスのロメ・グロジャン。これまで無得点のチームにとってQ3初進出となった。
![]() |
■“ハミルトンの日”の始まり
ドライとなった決勝日は、スタートでチャンピオンシップを争う2人の明暗が分かれた。ポールシッターのハミルトンがトップを守ってターン1に進入する一方、同じ最速マシンをドライブするロズベルグはスローな出だしとボッタスとの接触で4位から7位に後退。ロズベルグがハミルトンの後ろに追いつくのは、56周レース(実際はチェッカードフラッグが手違いで1周前に振られたため54周)の42周目までかかることになるのだが、時すでに遅し。この日は終始ハミルトンの日となった。
スタート直後に予選3位のベッテルが2番手に上昇。5番グリッドのアロンソもすばらしい加速を見せたが、同じくロケットのように飛び出した6番グリッドのマッサと接触してしまう。2台は幸い無傷で、アロンソは1位ハミルトン、2位ベッテルに次ぐ3位と好位置につけ、今季初ポディウムへの足がかりとした。
ハミルトンは10周して2位ベッテルに9.6秒のギャップを築いてしまった。つまり1周あたり1秒近く突き放したのだ。ペースが思わしくないベッテルの背後には、速さを取り戻したフェラーリのアロンソ。2回のうち最初のピットストップをベッテルに先駆けて行ったフェラーリのエースは、アンダーカットに成功し、ベッテルの前を走ることとなった。
![]() |
![]() |
■ベッテル、2戦連続の屈辱
レースの3分の1が過ぎ、各車最初のピットストップを終え、トップ5は1位ハミルトン、2位アロンソ、3位ベッテル、4位ロズベルグ、5位リカルド。トラブルさえなければハミルトンが逃げ切るであろうことは明らかだったが、その後方では徐々に動きが出始めていた。
まずはベッテルの脱落だ。22周目、ロズベルグにオーバーテイクされ4位に落ちると、瞬く間にチームメイトのリカルドにも追いつかれてしまう。25周目、レッドブルはベッテルに対し、リカルドを先に行かせろと無線で指示。チャンピオンはなかなか譲らなかったがリカルドの勢いは止まらず、王者は2戦連続でチームメイトに負けるという屈辱に耐えなければならなかった。
息を吹き返した跳ね馬を駆り2位を走行していたアロンソは、シルバーアローの追撃をかわすことはできず、42周目にロズベルグに抜かれてしまった。ここでメルセデス1-2が(ようやく)できあがった。結局フェラーリは今季最高位の3位でゴール。まだ課題も多いが、新体制下で次につながる結果を残したのだった。
今のところ、メルセデスがシーズンを席巻するであろうことは疑いようがない。そしてこの最強マシンを操る、2人の間の緊張感がレースを経るごとに増しているということも、また事実であろう。開幕戦の1勝のほか3連続2位でチャンピオンシップの首位を守るロズベルグ、初戦の無得点から3連勝中のハミルトン。両者の間には、4点しか差がなくなった。
自身通算25勝目を独走で飾ったハミルトンには、持ち前のずばぬけた速さに加え、これまでロズベルグの方が勝っていると思われていた燃費やタイヤをコントロールする力、クレバーな走りが備わりつつある。進化の途上にある2008年チャンピオンに、チームメイトはどのように勝負を挑むのか?
序盤戦のひとつの区切りである中国GPが終わり、F1はいよいよヨーロッパへ。第5戦スペインGP決勝は3週間後の5月11日に行われる。
(文=bg)