第347回:ランチア終了のお知らせ? アルファ・ロメオ分離独立? 気になるフィアットの近未来
2014.05.16 マッキナ あらモーダ!本社をロンドンに移転
ヨーロッパはイースター(キリスト教復活祭)とメーデー休暇が終わり、自動車販売はこれから夏休み前の7月上旬まで気合が入る季節だ。そうしたなか、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は2014年5月6日、ミシガン州オーバーン・ヒルズのクライスラー本社で、経営5カ年計画を発表した。今回はその内容と、関連するさまざまなトピックをまとめてお伝えしながら、近未来のFCAの姿を占ってみたい。
席上セルジオ・マルキオンネCEOは、2018年までに総額300億ユーロ(約4兆2300億円)を投資し、グループ全体で年間700万台の販売体制を目指すことを明らかにした。
また同氏は質疑応答で「自らを含む取締役の拠点をロンドンに移すつもりである」と発言して話題を呼んだ。FCAはすでに法律上の本社をオランダに移しており、それに合わせて税務上の本社をイギリスに移す計画が模索されていることが伝えられていたが、今回は総司令部もロンドンに置くという構想があることを認めたものだ。
ただしマルキオンネ氏は、イタリア、特に現在フィアット本社があるトリノの動揺を考慮してのことだろう「スタッフは世界各国に点在させる」と、フォローした。
アルファ・ロメオ、8台の新型投入
いっぽうエンスージアストにとって最も気になるのは、グループ内各ブランドの近未来であろう。今回の発表でイタリア、米国双方のメディアが最も話題として取り上げたのは、アルファ・ロメオだ。
計画ではアルファ・ロメオに50億ユーロ(約7044億円)を投入し、ブランド再興をはかる。従来車種のハイパフォーマンス仕様も含めた数字だが、2018年までに8台のニューモデルを投入する予定だ。それによって、2013年販売台数の5倍にあたる50万台の販売体制を目指す。
具体的には、2015年に新ミッドサイズセダンを発表。これはかねて欧州でうわさされている「ジュリア」と思われる。
続く2016年から2018年には、現行「ジュリエッタ」に代わるコンパクトカー2車種に加え、ミドルサイズ1車種、SUV2車種、フルサイズモデル1車種、そして新スポーツカーなどが投入される。ご想像のとおり、新スポーツカーとは新型「マツダ・ロードスター」の姉妹車に違いない。
思えば、マルキオンネは2010年にアルファ・ロメオの世界販売台数を「2014年までに50万台まで引き上げる」と宣言したものの、昨2013年は7万5000台にとどまった。それだけに、この新しいプランがどこまで実現できるかが注目される。
また、今回の発表では触れられなかったが、「FCA内はアルファ・ロメオを、傘下のマセラティやフェラーリ同様に分離・独立させるプランが検討されている」という話が欧州で伝えられている。関係各位に再興計画の信用を得るために、損益計算の透明性を確保し、かつブランドイメージをより強固にするのがその狙いとみられる。
ランチアに新車計画なし
対して、悲しい知らせを記さなくてはならないのはランチアである。今回の5カ年計画では、ランチアに関して新車計画は示されなかった。唯一、「イタリアを軸としたブランドとして、ネットワークを再構築する」とした販売計画に名前が出たのみである。
現在、欧州におけるランチアのラインナップは、「イプシロン」「デルタ」と、北米製クライスラーのバッジを変えた「テーマ」「ボイジャー」だ。2014年第1四半期のランチア販売台数(イギリスにおいてクライスラーブランドで販売されているものは除く)は欧州全体でも、1万9588台にとどまる。フィアットブランドより一桁少なく、約88%にあたる1万7241台を小型車イプシロンに頼っている状態だ。
そうした背景には、欧州主要国における一般ユーザーの空気がある。
大半の人にとってランチアといえば、すでにコンパクトカーのイメージしかない。イタリア大統領車に「フラミニア」「テーマ」「テージス」などの乗用車が多く使用され、世界ラリー選手権(WRC)でランチアが活躍した黄金時代を懐かしむのはイタリア人くらい、それも大半はマーケットの担い手から引退した年配者だ。そうした意味で、ビジネス的観点からクールにとらえれば、FCAがランチアの将来に見切りをつけたのは当然の成り行きといえる。
普及型は新興国、高級車は本国で
生産拠点も発表され、それに合わせてさまざまなニュースも流れたが、それらを見るとマルキオンネの計画は明白だ。普及価格帯の車はコストの安い新興国で、世界の富裕層をターゲットにメイド・イン・イタリーをセリングポイントにできる高価格車はイタリアの生産を拡大する、というプランであることが容易にわかる。
業界紙『オートモーティブ・ニュース・ヨーロッパ』によると、現行「フィアット・グランデプント」の後継車として2016年に発表予定で、おそらく「500プラス」と呼ばれる車種は、ポーランド工場で作られる。これによって、人気の小型SUV「500L」を生産するセルビア工場、そして現行トールワゴン/商用車の「ドブロ」を作るトルコ工場と合わせて、フィアット車の新興国生産体制がより加速するのは確実である。
いっぽうで、マセラティは、現在「ギブリ」と「クアトロポルテ」の生産拠点であるトリノ郊外グルリアスコの工場に加え、フィアットのミラフィオーリ工場で、2016年に発表するSUV「レヴァンテ」と、その姉妹車となるアルファ・ロメオのSUV車を生産する予定だ。
参考までにマセラティは、2018年までに上記のレヴァンテを含む4台の新車を投入する予定だ。2014年3月のジュネーブショーで公開した「アルフィエーリクーペ」の生産型を2016年、そのオープンモデルを2017年、「グラントゥーリズモ」の新型を2018年というのが、その計画である。
ただし、高級車の生産だけでは従業員の余剰が生じてしまうし、イタリア政界や労働組合からの風当たりが強くなる。そこで、前述のグランデプント生産終了でラインが空く中部イタリアのメルフィ工場では、ジープの小型SUV「レネゲード」を、姉妹車「フィアット500X」とともに生産する予定だ。
このあたりは、かつて500Lの生産拠点としてセルビアを選ぶのと並行して、3代目「フィアット・パンダ」の生産をイタリアに戻したのと同じ、マルキオンネ得意の巧みな手法といえよう。
「500」は走るiPhoneに?
こうしたマルキオンネのストラテジーは、欧州ユーザーの商品選択マインドの変化とも合致している。かつて、2代目パンダや500がポーランド工場で作られることが決定したとき、「看板車種を国外工場で作るなんて」と眉をひそめるイタリアのジャーナリストは少なからずいた。しかしふたを開けてみれば、そのようなことを言う一般ユーザーは少なく、それどころか両モデルとも大ヒットとなった。
普及車種に関して言えば、デザインも含め製品が良いものなら、生産地にはこだわらない。そうした思考がもはや欧州の消費者の間で浸透した。
かつてマルキオンネはフィアットブランドを「自動車界のアップル」と定義したことがあった。また、フィアット・スタイリングセンターのダイレクター、ロベルト・ジョリートは現行パンダを前に、筆者に「パンダはモデルが変わっても基本的なアイデンティティーを保ち続ける。ちょうどMacのように」と語ったことがある。
彼らが話した意図とは若干違うかもしれないが、デザインが良ければ製造地にこだわらないという点では、アップル製品に最も近いクルマは、今のフィアットブランドであろう。
少々話がそれてしまったので、おしまいに再び今回の5カ年計画に話を戻せば、FCAは現行500に関して次期モデルの計画を示さなかった。つまり、少なくとも2018年まで生産される可能性が強まったわけだ。新興国で生産されながらも、その製品が高く評価され、基本的に同じデザインで長く生産される。そうした意味で 500は“走るiPhone”的地位を着々と獲得しつつあるのかもしれない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、Fiat Chrysler Automobiles)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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