ランドローバー・ディスカバリーHSE(4WD/8AT)
熟成の極み 2014.06.09 試乗記 ランドローバーの代表的オフロードモデル「ディスカバリー」が、マイナーチェンジ。新たなエンジンやトランスミッションを得た、最新モデルの走り、そして乗り心地をリポートする。待ち望まれたリファイン
現在のディスカバリー(以下ディスコ)は2009年に“3”の大幅改良版として登場した4世代目となる。そのモトとなった3代目ディスコの登場は2005年。現行「フリーランダー」の登場が2006年だから、日本に正規輸入されるランドローバーとしては、これが最古参の基本骨格設計を持つ……ということもできる。
すでに次期ディスコといわれるコンセプトカーやスクープ情報も出はじめていて、来年にはその新しいディスコシリーズの市販型がデビューする予定。……といった周辺情報を考えるに、2014年モデルとして発売されたこのクルマは、4代目ディスコとしてはほぼ最終進化型になるのだろう。まさに「熟成きわまる」というべきだろうが、実はモデル末期といえる2014年モデルで、4代目ディスコは最大の変更を受けた。
最大のメダマは、エンジンの刷新である。日本仕様の歴代ディスコはずっとV8ガソリンを搭載していたが、ついに最新のV6機械過給エンジンに交代となった。このダウンサイジングエンジンはすでに兄貴分のレンジローバー系に搭載済みだったので、まあ予想どおりの展開ではある。
ただ、欧州でのディスコを見ても分かるように、このクルマは6気筒ディーゼルを積むのが本来の姿。これまでの彼らがほかに適切なガソリンエンジンを持たなかったという現実を差し引いても、ディスコに5リッターV8とは、性能面でもパッケージでも税制面でも過剰感は否めなかった。V6ガソリンの投入は、個人的にはレンジローバー系より、ディスコのほうが待ち遠しかった朗報と思う。
新エンジンにともなってトランスミッションも6ATから最新の8ATになり、同時にシフトセレクターはジャガー由来のダイヤル式に変更、さらに世界のディスコユーザーの90%以上にとって無用の長物(!?)だった副変速機もオプション扱いとなった(トランスファーそのものは残っている)。
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「V6+8AT」に不満なし
エンジンのダウンサイジング……となれば、走りにうるさいマニア層が期待するのがノーズ周辺の軽量化だろう。しかし、新しいディスコは残念ながら、エンジン変更によっては、ほとんど軽くなっていない。特に今回の試乗車は、オプションの副変速機&リアデフロックも装着されていたこともあって、同じ「HSE」同士の比較だと、2013年モデルより10kg軽いだけ。しかも、車検証表記によれば、その10kg分の削減も後軸重側であり、前軸重は新旧で変化はない(もっとも、ディスコの前後重量配分はそもそもほぼ50:50。重量バランスは悪くない)。
エンジンは従来型V8比で、最高出力ダウンで最大トルクがアップ。少なくとも、日本の常用域での体感的な力強さやパンチ力は増した。音質は明らかに変わって、当たり前だがV6の音がするが、静粛性にも不満はまるでなし。
機械過給であることもあって明確な過給ラグは存在しないものの、右足に力を込めた一瞬ならぬ“半瞬”の後にズドンとトルクを出す……という今風のフラットトルクエンジンである。
エンジン単体の特性では、ジワジワという微妙な加減速操作を、大排気量の自然吸気より少しだけ受け付けにくくなったのは事実。しかし、そのぶんはギアが2段増えて、しかもロックアップ領域も大幅拡大して、カキカキと小気味よく緻密変速する8ATが相殺している感じ。新しい8つのギアの上2段は従来の6ATとほぼ同等のレシオで、それより下を、より細かく刻んでいる。というわけで、総合的にはこのヘビーな慣性重量のわりには走行中にブレーキペダルに足が伸びる頻度は低めで、速度調整しやすいタイプである。
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乗るほどにホレボレ
それにしても、この重厚で快適で、たおやかで豊潤で安心感のあるディスコの乗り味は、相変わらずステキすぎる。
ランドローバーでもとりわけ四角いディスコは、ボンネットの見切りも、数あるランドローバーに輪をかけてすばらしく、目線も小山の上から見下ろすように高い。だからディスコは、乗用車としてははっきりと巨大なクルマだが、狭い路地もまったく苦にしない。
ドラポジは自慢のコマンドポジションの典型例であり、見晴らしのよさやバツグンの車両感覚に加えて、ヒップポイントに対して低いベルトラインの恩恵で肩口の開放感が別格なのも美点だ。昨今は潜り込むようなパッケージのクルマばかりなので、この上半身がガラスに囲まれる独特の開放感も、ランドローバーの重要な快感ポイントだと思う。
今回の取材車はオプションサイズの50偏平の20インチ(!)という武闘派タイヤを履いていたが、これが予想に反して(?)見事に履きこなしているのだ。低偏平タイヤ特有のコツコツは最小限、それでいて明確な乗り心地の悪化や過敏さはほとんど感じさせず、ステアリングも切り始めからフルロック近くまで、ホレボレするほど、しっとりとリニア。
20インチというホイールサイズには素直に驚くが、知っている人は知っているよ うに、ディスコは昨年モデルから2グレード両方で19インチが標準サイズとなっているから、この程度は誤差の範囲内なのだろうか。「ディスコといえば17~18インチくらいが妥当じゃないの?」と古風なマニアはおっしゃるかもしれない。
以前よりオンロード志向のチューンになったとはいっても、ディスコのゆったり悠然としたステアリング反応(切り側も戻り側も)は、乗用車としてみると、本格オフローダー特有のクセといえなくもない。現在の低偏平タイヤは、それを絶妙に緩和して、「らしさ」を保ちつつも、現代のオンロードSUVとしてギリギリ違和感のない俊敏さに落ち着ける役割を果たしている。
私も「オフローダーはホイールが小さいほどカッコイイ」と信じる古いタイプの人間だが、そのいっぽうで最新ディスコの19~20インチの履きこなしには感心せざるを得ない。また、かりにディスコを買うことになったとしても、今の乗り味と余分にかかるコストを考えれば、あえてインチダウンする気にはならない。
新型レンジもたじたじ?
また、今回のディスコの改良点はエンジンやトランスミッションだけではない。外観と車名は、最新ランドローバーの共通モチーフに合わせて手直しされて、現在話題の事前警告安全装備も追加された。
さすがに衝突防止オートブレーキまでは踏み込めなかったようだが、水深、斜め後方、後方の警告機能が用意された。まあ外観や車名の変更はどうでもいい(?)が、事前警告安全システムの充実は素直に喜ばしい。
インテリアは高級なメリディアン製オーディオが全車標準化されたくらいで、その他に大きな変更はなし。おそらく世界のミニバン/SUVでもっとも健康的に座れるサードシートも健在だし、シートベルトバックルなどの細かい調度品まで、いちいち精密で使いやすい仕立てもそのままだ。今のランドローバーは、悪い意味での「英国車」というツメの甘さみたいなものは見事なまでに消え失せており、ローバー、BMW、フォード……と親会社が変わるたびに吸収してきたノウハウの蓄積が生きている感じだ。
ディスコはハッキリいうと古いタイプのクルマである。すこぶる正確だが、慣れないと「鈍い」と誤解されそうなすべてのレスポンスはいかにも昔風だし、より車体の大きなレンジローバーよりなんと約200kgも重いのも、設計の古さゆえである。
ただ、その重さはこと乗り心地や快適性、静粛性では確実にプラス方向に効いている。今回は当たり前のようにオンロードのみの試乗だったが、ランドローバーのなかでもディスコがもっとも過酷な走行シーンを想定したクルマであることは説明不要だろう。
とにかく、熟成きわまったディスコはほとんど文句なしに快適で好ましい高級オフローダーである。新型レンジローバーの完成度に異論はまったくないが、その約半額でこれが手に入ることを考えると、あえて「レンジローバーなんかいらない」と思っちゃったりもするのだ。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ランドローバー・ディスカバリーHSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4850×1920×1890mm
ホイールベース:2885mm
車重:2570kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージド
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109Y M+S/(後)255/50R20 109Y M+S(ピレリ・スコーピオン ゼロ)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:819万円/テスト車=926万9000円
オプション装備:アクティブリアロッキングディファレンシャル+副変速機付きトランスファー(13万4000円)/リアシートエンターテインメントシステム(41万1000円)/エクステンデドレザーパック(13万円)/20インチスタイル510アロイホイール(25万円)/ウェイドセンシング+パークディスタンスコントロール<フロント>(8万7000円)/ブラインドスポットモニター+リバーストラフィックディテクション(6万7000円)
テスト車の走行距離:7014km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:185.9km
使用燃料:31.1リッター
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。