表彰式でのひとこま。No.2 アウディの優勝ドライバーたちが、トロフィーを掲げる。2010年から続くアウディのルマン連勝記録は、これで「5」に伸びた。
(photo=Motoko Shimamura)
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アウディがルマン24時間で5連覇を達成
2014年6月14-15日、フランスのサルトサーキットで第82回ルマン24時間耐久レースが開催された。優勝は、M.ファスラー/A.ロッテラー/B.トレルイエがドライブしたNo.2 アウディR18 e-tron クワトロ。これにより、アウディは2010年からのルマン5連覇を達成した。
久々に最高峰クラスでの参戦となったポルシェ。写真の20号車は、決勝でも一時はトップを走る健闘を見せた。
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予選に臨むNo.7 トヨタTS040 ハイブリッド。
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ルマンには、量産車ベースのマシンも数多く参戦する。写真手前は常連「コルベット」の最新型。
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こちらは AFコルセ の「フェラーリ458イタリア」。決勝ではクラス優勝を果たした。
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ポールポジション獲得に笑顔を見せるNo.7 トヨタのS.サラザン(写真左)、A.ブルツ(同右)、そして中嶋一貴(同右から2人目)。
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■中嶋が日本人初のポールポジション獲得
2012年から続くアウディ対トヨタの戦いに代わり、新たにポルシェが加わって三つどもえとなった今年のルマン。16年ぶりにその勇姿を見せるポルシェは、1970~80年代にルマンで不動の地位を築き、歴代最多勝利記録も保持する名門中の名門だ。
一方、今年15回目の出場となるアウディは、2012年にハイブリッド車による初勝利を成し遂げたチームであり、過去12回の優勝を誇るほか、2010年から続く連勝記録も更新中。そして、ハイブリッドカーでの参戦3年目を迎えるトヨタは、“3度目の正直”とばかりに悲願の初優勝を狙う。
このように異なるバックグラウンドを持つチームによる、ハイブリッドカー同士とはいえ仕様が違うマシンの戦いは、思いもよらない形で幕を開けることになった。
予選初日となる6月11日。夜からの予選を前に行われた練習走行において、昨年の覇者、No.1 アウディR18 e-tron クワトロ(L.ディ・グラッシ/L.デュバル/T.クリステンセン組)がハイスピードコーナーであるポルシェカーブの先で大クラッシュ。大破したクルマをドライブしていたのは、日本のモータースポーツ界でもおなじみのデュバルだった。幸い命に別条はなかったものの、負傷した足でのドライブは難しく、チームは代わりのドライバーをもってレースに臨むという苦渋の選択を下した。
そんな中、着々とタイムアタックに向けて準備を進めていたのがNo.7 トヨタTS040 ハイブリッド(A.ブルツ/S.サラザン/中嶋一貴組)。ルマンを含むシリーズ戦のWEC(世界耐久選手権)では、僚友のNo.8(A.デビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組)が開幕戦から連勝、今回も初日のセッションからトップタイムをマークし続けるのを横目に、着実に自分たちのメニューをこなしてきたもようだ。
結果、予選2日目の最終セッション、予選3回目でアタッカーを務めた中嶋が開始15分もたたないうちに1分21秒789のタイムをマーク。ライバルたちはセッション最後までこれをターゲットタイムにして懸命にアタックするも、折あしく、コースアウトやクラッシュを喫するクルマが続出。荒れたコースに打つ手がないまま、今年のポールポジションは中嶋の手中におさまる結果となった。
予選総合トップ6
1.No.7 トヨタTS040 ハイブリッド(A.ブルツ/S.サラザン/中嶋一貴組)3分21秒789
2.No.14 ポルシェ919 ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/M.リーブ組)3分22秒146
3.No.8 トヨタTS040 ハイブリッド(A.デビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組)3分22秒523
4.No.20 ポルシェ919 ハイブリッド(T.ベルンハルト/M.ウェバー/B.ハートレー組)3分22秒908
5.No.3 アウディR18 e-tron クワトロ(F.アルバカーキ/M.ボナノミ/O.ジャービス組)3分23秒271
6.No.2 アウディR18 e-tron クワトロ(M.ファスラー/A.ロッテラー/B.トレルイエ組)3分24秒276
6月14日15時(フランス現地時間)、トヨタTS040 ハイブリッドを先頭に、24時間におよぶ耐久レースがスタートした。
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No.1 アウディR18 e-tron クワトロ。レース終盤、ライバルの相次ぐトラブルによりトップに躍り出るも、最終的には2位でフィニッシュした。
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日没を迎えたサルトサーキット。各車、ヘッドランプをともしつつ走り続ける。
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ピット作業中のA.デビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組のNo.8 トヨタTS040 ハイブリッド。予選3番手からスタートし、3位入賞でレースを終えた。
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No.2 アウディR18 e-tron クワトロの、ゴールの瞬間。チーム関係者やファンが声援とともに迎える。
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■レースは序盤から荒れ模様
今年のルマンは決勝レースを迎えるまで、珍しく雨とは無縁のレースウイークだった。ところが日曜、決勝の開始を告げる午後3時になるとにわかに暗雲が立ち込め、小雨が降り始めた。するとあっという間に雨脚が強まり、足元をすくわれる車両が続出。結果、セーフティーカーによるレースコントロールが導入された。
落ち着かない状況の中、われ関せずと順調に周回を重ねていたのは、No.7 トヨタTS040 ハイブリッド(A.ブルツ/S.サラザン/中嶋一貴組)。日本人初となるポールポジションタイムをマークした中嶋は、スタートこそルマンの経験豊富なチームメイトに託したが、その後のスティントでは順当に戦略を消化し、トップの座を確実なものとしていった。対する僚友そしてライバルチームは、車両トラブルなどで思うようにスケジュールを消化できず、順調なトップとの差が1周近く開いてしまうほどだった。
だが「好事魔多し」とでも言うのだろうか。まだ暗闇が広がる午前5時前、サラザンからバトンを受け取った中嶋がコースイン、アルナージュまで進んだところで突如マシンはストップした。「電源が落ちたので無線すら使えなかった」と、コース上でなす統べもなくレースは終了。予想外のエンディングに、はかなさだけが残った。
7号車に代わってトップに立ったのは、2号車のアウディ。だが程なくしてターボのトラブルに見舞われ、5周近く後れをとる窮地に立った。その後は我慢の走行を続ける一方で、巡ってきたチャンスには迅速に反応。中でもロッテラーは最速タイムでライバルたちに詰め寄ると、トラブルに乗じてトップに立ったポルシェの20号車を逆転、予測が難しい戦いをものにした。
この2号車のドライバーは、2011年、2012年と連覇している“最強トリオ”だ。長期戦ならではの怖さを熟知し、それを打ち負かす強さをも身に付けた彼らは、目の前に訪れた大きなチャンスをここぞとばかりにつかむと、見事なマネジメントでレースをコントロール。
「われわれのコンディションは決して最善とはいえないものだったが、その中で、どうやって問題を解決しようかと学びながら戦ったよ」とアウディのモータースポーツ部門を率いるウォルフガンク・ウルリッヒ氏がレース後の記者会見で語ったように、バランスの取れた戦略で厳しい戦いを乗り越えて、勝利を手にした。
決勝結果(トップ6)
1.No.2 アウディR18 e-tron クワトロ(M.ファスラー/A.ロッテラー/B.トレルイエ組)379周
2.No.1 アウディR18 e-tron クワトロ(L.ディ・グラッシ/M.ジェネ/T.クリステンセン組)376周
3.No.8 トヨタTS040 ハイブリッド(A.デビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組)374周
4.No.12 レベリオンR-One・トヨタ(N.プロスト/N.ハイドフェルド/M.ベッシェ)360周
5.No.38 ザイテックZ11SN・ニッサン(S.ドラン/H.チンクネル/O.ターベイ)356周
6.No.46 リジェJS P2・ニッサン(P.ティリエ/L.バデイ/T.ゴメンディ)355周
クラス別トップ
・LMP1クラス:No.2 アウディR18 e-tron クワトロ(M.ファスラー/A.ロッテラー/B.トレルイエ組)379周
・LMP2クラス:No.38 ザイテックZ11SN・ニッサン(S.ドラン/H.チンクネル/O.ターベイ)356周
・LMGTEProクラス:No.51 フェラーリ458 イタリア(G.ブルーニ/T.バイランダー/G.フィジケラ)339周
・LMGTEAmクラス:No.95 アストン・マーティン V8ヴァンテージ(K.ポウルセン/D-H.ハンソン/N.シーム)334周
(文=島村元子/text=Motoko Shimamura)
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