第80回:カマロやヴェイロンが変形してド迫力ロボバトル!
『トランスフォーマー/ロストエイジ』
2014.08.07
読んでますカー、観てますカー
興行収入が10億ドルを突破した大ヒット映画
ワールドワイドで興行収入が10億ドルを突破したそうである。全米では2億4000万ドル以上で、公開された60カ国すべてで第1位を獲得したというから大変な勢いだ。マイケル・ベイ監督はスティーブン・スピルバーグに次いで監督作品の累計興行収入が歴代2位になったとのことで、記録ずくめの映画である。スピルバーグも製作総指揮として参加しているから、ヒットするべくしてヒットしたということなのだろう。同じく大ヒットした『GODZILLA ゴジラ』と比べても、約2倍の成績なのだから驚く。
とはいえ、どちらにしても日本発の作品である。ゴジラの元祖はもちろん1954年に本多猪四郎監督が撮った作品だし、トランスフォーマーはもともとタカラが販売していた変形ロボット玩具シリーズから来ている。日本でTVアニメが製作されてから、今年が30周年なのだそうだ。『トランスフォーマー/ロストエイジ』は、ハリウッド版映画としては4作目になる。前作で3部作が終わり、新シリーズも3作品が予定されているようだ。これだけのドル箱なら、手放すはずがない。
ストーリーはつながっているが、俳優陣は一新された。主人公は、シャイア・ラブーフからマーク・ウォールバーグに代わった。へなちょこの口だけ達者な青年から、夢を追い続ける発明大好きオヤジになったわけである。ヒロインは3代目で、新鋭のニコラ・ペルツが務めている。歴代ヒロインの中で、間違いなく一番日本人ウケするルックスだ。
トランスフォーマーたちは、相変わらずの面々もいれば新たなメンバーも加わっている。オプティマスプライムはトレーラーに変形し、バンブルビーはやはり黄色い「シボレー・カマロ」だ。……なんて言っても、これまでのストーリーを知らなければ何のことやらわからないだろう。基礎知識の説明が必要だ。
クルマに変形する金属生命体の宇宙人
トランスフォーマーとは、惑星サイバトロンからやってきた宇宙人である。彼らは生命を生み出す物質オールスパークによって誕生した金属生命体で、正義の戦士であるオートボットと悪の軍団ディセプティコンに分かれて争っている。彼らは地球では機械に変形(トランスフォーム)していて、多くの場合クルマになっている。
オートボットの総大将がオプティマスプライムで、ガタイがでかいのでいつもトレーラーに変形している。黄色い体のバンブルビーが最初に登場した時は1967年型のカマロだったが、途中で新型に姿を変えている。オートボットは、地球上の機械を瞬時にスキャンして構造を把握し、自らを変形させることができるのだ。いろいろ納得のいかない部分はあるかもしれないが、とにかくこれがトランスフォーマーの世界なのである。
渡辺謙が声を当てているドリフトは二刀流の侍で、「ブガッティ・ヴェイロン」に変形する。ディセプティコン側には「ランボルギーニ・アヴェンタドール」や「パガーニ・ウアイラ」に変形する者もいて、GMのクルマばかりだった2007年の第1作からかなりグレードアップしている。宇宙人の好みも、7年の間に変わったのだろう。
クルマだけでなく、金属生命体としてのトランスフォーマーもかなりデザインが変わった。はじめの頃はタイヤやドアなどのパーツがよくわかる形で残っていたが、今回の体はかなりスマートだ。変形のアクションも違う。ガチャンガチャンと音を立てて段階を踏んで形を変えていたのが、今では瞬時にトランスフォームが完了する。ディセプティコンに至っては、パーツを細分化して流動体になり、再構成して形を整えるプロセスを用いるようになった。テクノロジー的には、明らかに彼らのほうが上を行っている。
7年の間にCG技術も大変な進歩を遂げたのだ。今や、映画では何でも描けるようになった。実写とCGの合成は不自然さをみじんも感じさせず、街の中に巨大ロボが本当に出現したように見せてしまう。しかも、3Dである。ドルビーシステムの備わった劇場で見れば、音と映像が刺激の渦となって襲いかかる。列車の到着から始まった映画は、はるか遠い地点に来てしまった。
ヒロインの彼氏はラリードライバー
何でもできるから、舞台をいきなりアメリカから中国に移すのもわけはない。宇宙船を乗っ取って、すみやかに移動する。それはいいとして、香港で戦っていると、ビルから落ちた場所が深い渓谷だったのはちょっと説明がつきにくい。ただ、これは映画では起こり得ることだ。『007は二度死ぬ』では、東京都内でカーチェイスをしていた「トヨタ2000GT」が、一瞬で富士スピードウェイに移動していた。
新たな仕掛けとして、オートボットとディセプティコンのほかに、ダイナボットという集団を登場させている。オープニングは恐竜時代の地球の映像で、どうやらその時代からエイリアンが襲来していたらしい。最後の戦いには、恐竜型トランスフォーマーのダイナボットが参戦することになる。おそらく、第2次3部作の今後に彼らが関わってくるのだろう。
正義の戦士だったオートボットは一部の人類からは敵とみなされるようになり、CIAや巨大企業がからんで陰謀が渦巻く。地球人とディセプティコンが裏で手を組むなど、ストーリーは複雑化して今後収まりをつけるのが大変そうだ。今思えば、第1作は牧歌的な雰囲気が漂っていたものである。
スケールは大きく広がったものの、変わらないのはクルマ愛が貫かれていることだ。オートボットたちが戦うシーンはCG見本市みたいだけれど、クルマの形でのバトルもしっかり用意されている。トランスフォーマーは現実のクルマが変形するからこそファンタジーとして楽しめるのであり、クルマの魅力をないがしろにしては成立しない。ロボの迫力ばかりを追い求める愚は犯していないのだ。
ニコラ・ペルツ演じるヒロインの彼氏は、「シボレー・ソニック」でラリーに出場するドライバーである。ほとんどストーリーに関わらないところで、なぜかクルマに寄せた設定が仕込まれているのだ。そもそも、この物語は少年が初めてのクルマとしてボロのカマロを手に入れることから始まった。この映画を観た子供たちが、ロボのカッコよさとともにクルマの魅力に気づいてくれることを願いたい。
(文=鈴木真人)
『トランスフォーマー/ロストエイジ』
2014年8月8日(金)より、夏休み3D/2D/IMAX3D全国ロードショー
オフィシャルサイト:http://www.tf-movie.jp/
facebook:https://www.facebook.com/tfmovie.jp
twitter:https://twitter.com/tf_autobot
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。