フォルクスワーゲン・ゴルフGTE(FF/6AT)
電気じかけのGTI 2014.09.25 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」から走りの血統を引き継ぐプラグインハイブリッド・ゴルフ「GTE」が登場。その走りはGTIを超えたか? スイスからの第一報。フォルクスワーゲン初のプラグインハイブリッド
先日、都内をドライブしていたら、見慣れぬ「ゴルフ7」が対向車線を走ってきた。フロントマスクがいつもと違う。すれ違いざま、目に飛び込んできたラジエーターグリルのバッジを見ると、そこには「e-GOLF」の文字。おそらく日本導入に向けてテストを行っているクルマなのだろう。
フォルクスワーゲンは2014年後半に電気自動車(EV)の「e-up!」を日本に導入し、2015年前半には、ゴルフ7のEV仕様であるこの「e-ゴルフ」を発売する予定だ。EVの魅力を知る者としてはこの2台だけでも期待に胸が膨らんでしまうのだが、2015年後半にはさらにもう1台、見逃せないクルマが控えている。それが、「ゴルフGTE」だ。
ゴルフファンでなくとも、ゴルフのスポーツモデルである「GTI」の名前はご存じのはず。現在のゴルフGTIは2リッター直4直噴ガソリンターボを搭載するが、ヨーロッパではさらにそのディーゼル版の「ゴルフGTD」が存在し、TDI(直噴ターボディーゼル)が誇る強大なトルクによりスポーティーなドライビングを楽しむことができる。そして、今回スイスで試乗したゴルフGTEは、「ゴルフGTI」のスポーティーな走りを、プラグインハイブリッドというパワートレインで実現する“第3のGT”である。
GTIの流れをくむモデルであることは、そのデザインからも明らか。左右ヘッドライトを結ぶカラーのラインもそのひとつ。ただし、GTIと違って色使いがレッドからブルーに変わるのがGTEの特徴である。一方、フロントバンパーに設けられたC字型のLEDランプは前述のe-ゴルフから受け継ぐもの。インテリアもまたGT系の演出がなされており、チェック柄のシートがGTIファンにはたまらない! こちらもレッドのラインがブルーに変更されており、GTIとはまた別のクールな雰囲気に仕上がっている。
その動力性能も、GTの名にふさわしい内容である。
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0-60km/hならGTIに勝てる!
ゴルフGTEのプラグインハイブリッドシステムは、110kW(150ps)の1.4TSIエンジンと75kW(102ps)の電気モーター、そして、8.7kWhの大容量リチウムイオンバッテリーによって構成されている。システム全体では、最高出力150kW(204ps)、最大トルク350Nm(35.7kgm)のスペックを誇り、0-60km/h加速は4.9秒と、GTIより0.1秒速い駿足(しゅんそく)ぶり。最高速は222km/hをマークする。
プラグインハイブリッドを名乗るだけに、バッテリーの電力だけで走る「Eモード」(=EV走行モード)は、最大50kmの航続距離を達成。EV走行でも最高速は130km/hに達するので、高速道路もお手の物だ。充電はフロントグリルのVWエンブレム裏にあるソケットを使い、ドイツでは家庭用230Vのコンセントを用いた場合が3時間45分、また、"ウォールボックス"と呼ばれる据え置き型充電補助装置や公共の充電ステーションを利用した場合は2時間15分でフル充電が可能だ。なお、EVほど充電時間がかからないので、急速充電には対応していない。
Eモードのほかに、「バッテリーホールド」「バッテリーチャージ」「ハイブリッドオート」「GTEモード」という4つのハイブリッド走行モードが用意されるのも、ゴルフGTEの特徴である。その違いは、走行をとおしてバッテリー残量を常に一定レベルに維持しようとするのがバッテリーホールドで、ガソリンエンジンを積極的に活用して充電量を増やすのがバッテリーチャージだ。反対に、モーターを積極的に使うことでガソリン消費を抑えるのがハイブリッドオート。そして、GTEモードは、モーターとエンジンの性能をフルに生かして、スポーティーな走りを実現する。
EV走行とハイブリッド走行をミックスした燃費は、1.5リッター/100km(=66.7km/リッター、NEDC=新欧州ドライビングサイクル)。ガソリンも電気もフルの状態なら、航続距離は940kmに及ぶというゴルフGTE、さっそく走りだしてみよう。
ブレーキを踏みながらスタートボタンを押すと、メーターパネルに「READY」の文字が表示され、ハイブリッドシステムの準備完了。何もしなければ、Eモードで走りだす設定である。シフトレバーをDレンジに入れてブレーキペダルから足を離すと、ゴルフGTEはゆっくりとクリープ走行を始める。続いてアクセルペダルを踏み込むと、乗員込みで約1600kgのボディーを軽々と加速してみせた。しかも、EV走行らしく、その加速はスムーズで静かだ。
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プレミアムスポーツの資質
ゴルフGTEの場合、エンジンとモーターの動力は6段DSGを介してタイヤに伝えられる。シフトもまたスムーズで、とくにEモードではいつシフトしたか気づかないほど。一般道から高速に入っても、モーターの力強さに衰えはなく、100km/h超でもストレスを感じる場面はなかった。ちなみに、走行中にアクセルをオフにすると、Dレンジではいわゆる回生ブレーキを利かせず、コースティング(惰力走行)を行う。回生ブレーキで減速したければ、Bレンジを選ぶか、パドル操作でマニュアルシフトすればいい。もちろん、ブレーキペダルを踏んだときには、回生ブレーキと機械式ブレーキの働きにより、強力な制動力が生み出される。
ハイブリッドモードではさらに気持ちのいい加速を味わうことができる。たとえば、ハイブリッドオートでは、ただでさえ余裕のあるトルクを発揮する1.4TSIエンジンをモーターがアシスト。アクセルペダルの操作に機敏に反応して、力強い加速が得られるのだ。
圧巻はGTEモード。シフトレバー脇のボタンを押してモードを切り替えると、それまで静かだったキャビンが突如にぎやかになり、がぜん気分が高まってくる。性格が豹変(ひょうへん)したGTEは、アクセルペダルを軽く踏み込んだだけで痛快な加速を見せてくれるし、深く踏み込めばGTIを凌(しの)ぐほどの鋭い加速が楽しめる。確かにGTを名乗るだけのことはある。それでいて、オプションの18インチタイヤを履く試乗車は、重厚で快適な乗り心地を示し、高速走行時の安定感も抜群だから、グランドツアラーとしての資質も十分である。
ふだんは短距離の移動が多く、ときどき長距離を走るという使い方なら、これ一台で“ほぼEV生活”ができるうえに、プラグインハイブリッドだからバッテリー切れで止まる心配もない。そういう意味では、e-up!やe-ゴルフよりも幅広いユーザーに受け入れられるに違いない。
気になる日本での価格だが、ドイツで3万6900ユーロ(約500万円)という車両価格に対して、フォルクスワーゲン グループ ジャパンとしても500万円前後、補助金を差し引いて400万円台後半を狙っているようだ。環境性能だけでなく、プレミアムスポーツとしての性能を手に入れ、実に魅力的なクルマに仕上がっていたゴルフGTE。日本上陸がとても待ち遠しい一台である。
(文=生方 聡/写真=フォルクスワーゲン)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4270×1799×1457mm
ホイールベース:2631mm
車重:1599kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1600-3500rpm
モーター最高出力:102ps(75kW)/2500rpm
モーター最大トルク:33.7kgm(330Nm)/--rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V
燃費:1.5リッター/100km(約66.7km/リッター。NEDC<新欧州ドライビングサイクル>複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。