第263回:海でもFUN TO DRIVE!?
トヨタの新型プレジャーボート「PONAM-31」に試乗した
2014.11.07
エディターから一言
2014年10月に東京・天王洲のクリスタルヨットクラブで開催された、トヨタの新型プレジャーボート「PONAM-31(ポーナム31)」の記者発表&試乗会に参加した。
知名度とポテンシャルのギャップ
「トヨタがプレジャーボートを作っているの? 聞いたことがないなあ」
この言葉を何度聞いたことだろうか。今年6月の、とある日。佐世保の街でのことである。商店街で出会った人たちに「観光ですか?」と聞かれ、「明日、トヨタのプレジャーボートで小値賀島まで行くんです」と答えると、佐世保の人たちは一様に首をかしげた。
「トヨタは1997年からプレジャーボートを作ってます。もう17年の歴史があります」。そして「佐世保に九十九島があるのが知られていないのと同じですよ」と説明すると妙に納得された。「それはぜひ一度乗ってみたいね」と。
軍港や佐世保バーガーが全国的に知られている佐世保だが、観光地としての知名度はさほど高くない。佐世保港の西の半島から北へ25kmの海域に点在する208の島々からなる九十九島は潮の干満や日差し、天候、季節によって変化し、ハリウッド映画『ラストサムライ』で島国日本を代表する原風景としてオープニングの映像にされた神秘的で詩情あふれる絶景の地。さらに平戸島から五島列島へと続くエリアは西海国立公園に指定され、同時に豊かな漁場となっている。また、隠れキリシタンの島としての歴史を持つ黒島(佐世保市)、野崎島(小値賀町)もこの海にある。
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東シナ海の荒波を切って進む走破性
2013年4月、佐世保市は五島列島の一つを構成する小値賀町とともに、国土交通大臣から新観光圏の認定を受け、「海風の国」をテーマに、観光立国・日本の顔となる海を中心とした観光地域づくりに取り組んでいる。具体的には地域に根ざした豊かな観光コンテンツを陸路は「海風の国」を感じることができる港まち佐世保ならではのオリジナル観光バス、海路はプレジャーボートでつなぐ、交流滞在型の観光プログラムの開発を目指している。
そして、その海路の実証実験がトヨタのプレジャーボート「PONAM-35」を使って行われ、筆者も取材でそれに同行した。
その日の佐世保はちょうど梅雨入りしたばかりで、絶好のクルージング日和とはいかなかったが、それでも時折、雲間から太陽が顔を出すこともあり、九十九島の島々を縫うように佐世保の海をクルージングするのは実に気持ちがよかった。海面が近く、風を感じながら高速で疾走するプレジャーボードの旅は大型の観光船では味わえない爽快感がある。海鳥や岩がとても身近に感じられる。まさに「海風の国」のコンセプトにピッタリであった。開放感あふれるフライングブリッジからの眺めもよく、エンジンの振動や騒音が少ないので、会話が弾んだ。
そしてボートは外洋に出て小値賀島を目指す。小値賀までの距離は約60kmである。外洋に出ると海の様相は一変した。波の高さも形も近海のそれとはまったく異なる。飲み込まれそうな高波が次から次へと容赦なくボードに襲いかかってくる。周囲に島影はなく、ただただ大海原が広がるだけ。その中をわずか35フィートのPONAM-35が波を切り、力強く進んでいく。スリル満点。へたなジェットコースターよりも面白い。「かつてこの海を多くの留学僧たちが命がけで大陸に渡っていったんだよなあ」などと天平の甍(いらか)の世界に思いをめぐらしているうちに無事、ボートは小値賀島の港に到着した。
トヨタがこだわるアルミハルの実力
途中、立っていられないくらい大きな揺れが続く区間は何度かあったものの、思いのほかスムーズに到着。当初は「こんな体験は二度と嫌だ」とお客さまが感じるくらい揺れたのでは? という心配もあったが、逆にちょっとスリルが楽しめ、「ぜひ、また乗りたい」と思ってもらえる、思い出に残るクルージングだった。実験は大成功だった。
「この時化(しけ)の中を佐世保から1時間半で到着したとはすごい。いいボートだ」。ちょうど高速艇で佐世保から帰島した西 浩三 小値賀町長と港で一緒になり、町長からもお褒めの言葉をいただいた。島と佐世保をつなぐ定期便の高速艇もこの日は時化の影響で到着が遅れたそうだ。
高強度のアルミ合金を使ったハル(船体)、「ランドクルーザー」の4.5リッターV8エンジンを船舶用に改良した高出力、低燃費のエンジン(2基搭載)、そして自動車技術を応用した制御システムといったトヨタが17年間で培ってきた技術が見事に結実した成果でもあった。
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海のFUN TO DRIVEを追求
さて、PONAM-31である。今回発表されたこの新艇は、徹底的に走りを追求するとともに、クルージングやフィッシングなどのスポーツアクティビティーを楽しめ、キャビンの居住性にもこだわった新しいクラスの「スポーツ ユーティリティー クルーザー」として開発された。
トヨタのクルマに例えるならば、PONAM-35は本格的なオフロード性能を有するラグジュアリーSUVの「ランドクルーザー200」。それに対して、新艇PONAM-31は街乗りとしての走行性能を高めたライトデューティモデルの「ランドクルーザープラド」といえるだろう。
実際、PONAM-31にはプラド(海外向け)の3リッター直列4気筒直噴ディーゼルエンジンが船舶用にチューニングされて2基搭載されている。もちろん船体は佐世保の海でもその実力が証明された高剛性アルミハルを採用し、快適な乗り心地と高い耐久性を確保。さらには、着岸操作を支援する「トヨタ ドライブアシスト」やフィッシング等で威力を発揮する「トヨタ バーチャル アンカー システム」(いずれもオプション)など自動車技術を応用した制御システムもある。
そして、最大の特徴はこうした高性能、高機能を備えながらもメーカー希望小売価格2970万円(税抜き)という競争力のある価格に抑えたことだろう。ここに「より多くの人にプレジャーボートの魅力を伝えたい。海のFUN TO DRIVEを追求していく」というトヨタの想いと「クルマの歴史はたかだか100年ちょっと。それに対して、ボートの歴史は数千年。たかだか17年の挑戦で諦めるつもりはない。陸だけでなく海のモビリティーを提供していくことがトヨタの使命」という決意が伺えた。そんな新艇発表会であった。
(文=宮崎秀敏<株式会社ネクスト・ワン>/写真=元田敬三、宮崎秀敏、トヨタ自動車/取材協力=公益財団法人 佐世保観光コンベンション協会)

宮崎 秀敏
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