アウディS1スポーツバック(4WD/6MT)
アウディなのに突貫小僧 2014.11.18 試乗記 「S3」譲りの“ダブルインジェクション”エンジンに、クワトロ4WDシステム、そして4リンク・リアサスペンションと、小さなボディーにアウディのホットなテクノロジーが詰まった「S1/S1スポーツバック」。6段MTを駆使して、路面に231psをたたきつけると……? S1スポーツバックで箱根のワインディングロードに繰り出した。アウディ久々のMTモデル
アウディの最小コンパクトハッチ「A1」にも“S”が加わった。3ドアとスポーツバックの両方に用意される「S1」だ。
言うまでもなく、Sとはハイパワーエンジン+クワトロ搭載の高性能アウディである。S1は、これまでFFのみだったA1シリーズ初の4WDモデルでもある。
短いノーズに詰め込まれたエンジンは、231psの2リッター4気筒16バルブDOHCターボ。筒内噴射とポート噴射を自動的に切り替えるダブルインジェクションで、「S3」用横置き285psユニットのデチューン版といえる。
変速機は6段MTのみ。2ペダルのSトロニック仕様はない。と書けばネガティブ情報かもしれないが、日本のMT党からみると、「TT RS」以来、4年ぶりに復活する「マニュアルで乗れるアウディ」である。Sトロニックを付けないのは、20kg重くなるデュアルクラッチ変速機でフロント荷重を増やしたくなかったというのが大きな理由。スペース的にもキツイため、この先、待っていても出ることはなさそうだ。
シャシー面での大きな変化は、リアサスペンションがA1のビーム式から4リンクに改められたこと。大トルクで後輪でも蹴るようになると、マルチリンク化は必須だったのだろう。
日本でのA1セールスは、1対3で5ドアの「スポーツバック」が多いという実情にかんがみ、ひとコマ2時間限定の試乗会で借りたのは3ドアより20万円高い「S1スポーツバック」(430万円)である。
コケティッシュから男物へ
オプションの赤黒ツートンをまとった5ドアのS1で、まず目立ったのは高そうな18インチの鋳造アルミホイールだ。テールパイプは4本出し。つり目は新デザインのバイキセノンヘッドランプ。コケティッシュなA1に比べると、だいぶ男物に変身している。
専用スポーツシートとシフトレバーが目立つ前席空間は、コンパクトである。ダッシュボードに量感があるせいか、コックピットでも「フォルクスワーゲン・ポロ」よりタイトに感じる。ステアリング径は36cmと小さく、6時の位置にツブシが入った天地は34cmしかない。
試乗時間に先立って、ナンバーの付いていない撮影用車をホテルの敷地でちょっと動かした編集部Tさんが、足まわりの剛性感というかソリッド感がスゴイ! と報告した。望むところだ。Dホテルを出て、別荘地の細い道を走り始めると、サンゴーのポテンザからけっこうハードな突き上げがくる。でも、考えてみるとこの荒れた舗装路は、どんなクルマで走っても乗り心地にはキツイのである。
エンジン音はとくに大げさではない。アイドリングはどうかと思いながら、最初の信号で止まったら、アイドルストップに入った。朝からたぶんブン回されているはずだが、走りだす前、計器盤の平均燃費は8.5km/リッターと出ていた。輸入車のカタログ燃費は国産車ほど実走燃費との乖離(かいり)がひどくないが、S1のJC08モード値は14.4km/リッターである。
クワトロで地面をかく歓び
車重1380kgで231ps。S1スポーツバックは0-100km/hを5.9秒でこなす。20kg軽い3ドアは5.8秒。S1は突貫小僧である。「ゴルフGTI」や「メガーヌ ルノースポール」らがきれない6秒の壁をクリアするのは、四駆のトラクションならではだろう。
それを実感したのは峠道のワインディングロードである。S1は駆けぬける歓びならぬ、地面をかく歓びが味わえるクルマである。リアアクスル側にマウントされた油圧多板クラッチは、前後トルクを100対0から50対50に適宜振り分ける。そのクワトロシステムのおかげで、231psが器から溢(あふ)れるような醜態を見せることがない。パワーを持て余すフラストレーションを覚えることなく、速く走れる。ボディーのコンパクトさも強い味方だ。スポーティーに走れば走るほど、留飲の下がるクルマである。
パワーオンのコーナリング中も後輪のトラクションを実感できる。その一方、アクセルを戻せばテールがアウトに流れ、ノーズがインを向く。前輪駆動車オハコのいわゆる“タックイン”も滑らかで気持ちいい。
6段MTはシフトタッチもギア比も不満ない。クラッチペダルは軽くはないが、重くもない。ただし、クラッチとブレーキ、2本のペダルは左側にオフセットしていてやや窮屈だ。ノロノロ渋滞にハマると気になるかもしれない。左ハンドル仕様では問題ないそうである。
ワタシ惚れました
“アウディドライブセレクト”は「効率」「オート」「ダイナミック」の3モード。切り替えると、エンジン、ステアリング、油圧ダンパーなどの特性が変わる。だが、その差はそれほど大きくなく、最もハードなダイナミックでもタウンユースに支障はなさそうだ。
ダイナミックモードでは、エンジン内のサウンドアクチュエーターやテールパイプにある排気フラップの作用で音もスポーティーに変わる。ここまでは珍しくないが、S1はフロントガラスの付け根にある振動子で車内の空気まで震わせて“イイ音”をつくっている、という説明を聞き、ガラスに触りながら6800rpmのレブリミットまで回してみたが、べつになんともなかった。そういうレベルの振動ではないらしい。
しかしとにかく、ダイナミックモードでも、何かの特性が度過ぎてバンカラになるわけではない。そういう意味では、Sシリーズの名に恥じない大人の高性能コンパクトである。3ドアでもスポーツバックでも400万円をきることはないが、220psで2WDのゴルフGTIが380万円ちょっとだから、いいところか。万能のGTIに比べると、はるかに走る楽しみに特化している。今どき、単能のほうが高いのは納得できる。
クワトロシステムで統治された231psのハイパワーをマニュアルギアボックスで操れる、そのランニングメカを全長3990mmのコンパクトボディーに詰め込んだのがS1である。今回はすいた一般道とワインディングロードだけの限定的なテストドライブだったが、コンパクトカー好きにしてMT好きの個人的感想を言えば、惚れました。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
アウディS1スポーツバック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3990×1745×1440mm
ホイールベース:2465mm
車重:1380kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:231ps(170kW)/6000rpm
最大トルク:37.8kgm(370Nm)/1600-3000rpm
タイヤ:(前)225/35R18 87Y/(後)225/35R18 87Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:430万円/テスト車=452万円
オプション装備:オプションカラー(ミサノレッド パールエフェクト/ブリリアントブラック)(6万円)/コントラストルーフ(8万円)/ボーズ5.1chサラウンド・サウンドシステム(8万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:867km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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