トヨタ・エスクァイア ハイブリッドGi 7人乗り(FF/CVT)
試合巧者の本領発揮 2015.01.27 試乗記 トヨタの5ナンバーサイズミニバンに、「ヴォクシー」「ノア」に続く第3のモデル「エスクァイア」が登場。その実力をリポートする。多チャンネル戦略の申し子
現在、トヨタの公式ウェブサイトでエスクァイアのページを開くと“納期目処のご案内”という項目が出てくる。この原稿を書いている時点では、エスクァイアのハイブリッドを注文しても納車予定は4月以降。3~4カ月待ちということだ。つまり、エスクァイアのスタートダッシュは上々。トヨタの商品企画がうまくハマった好例である。
この『webCG』でもすでに鈴木真人さんも書いておられるように、エスクァイアはヴォクシー/ノアの顔ちがい&装備ちがいの兄弟車である。それ以上でも以下でもない。そんなエスクァイアの……というか、トヨタの企画力の巧妙なところは、このクルマを自社の販売ネットワークのスキ間を埋めるコマとして使いつつ、さらに日本中に飽きるほどあふれまくっているヴォクシー/ノアに対して“プチ高級”という位置づけにしたところだ。
エスクァイアは全国のトヨタ店およびトヨペット店があつかう。ヴォクシーの販売はネッツ店、ノアのそれがカローラ店の担当だから、エスクァイアの登場によって、ついにトヨタ系販売店のすべてで5ナンバーワンボックスが買えることになったわけだ。
トヨタのように販売店をあえて複数のネットワーク系列に分割して、それぞれに微妙に異なるモデルを供給して競わせる手法は、かつて“多チャンネル戦略”などと呼ばれた。多チャンネル戦略は昭和から平成初期にかけて、国産のほぼ全メーカーが取り入れていたが、バブル崩壊後、トヨタ以外は見事に撃沈した。商品の差別化の難しさやコスト高に加えて、自社内での販売競争が“共食い”にしかならなかった。
しかし、トヨタはひとり多チャンネル体制を維持して、今回のように、いまだにメリットをフル活用している。その是非はともかく、素直にたいしたものだ。
中身は兄弟車と変わらず
今回の試乗車は最上級のグレード「ハイブリッドGi」で、セカンドがロングスライドキャプテンシートとなる7人乗り。
エスクァイアのグレード構成はシンプルで、パワートレインこそヴォクシー/ノアと同じく全種類(今回の1.8リッターハイブリッドと2.0リッター、そして2.0リッターにFFと4WD)が用意されるものの、エアロ系グレードは用意されず。全車が乗り心地と静粛性に有利な15インチタイヤを履く。
走りや使い勝手については、当たり前だが、ヴォクシー/ノアと区別はつかない。新鮮味はまるでないが、それは悪いことではない。
クラス唯一の本格ハイブリッドは低速走行だとときおりエンジンを止める。いまさらながらエンジンの停止/再始動マナーはさすがトヨタ式で、静粛性はクラストップである。
操縦性はロール量もロールスピードもうまく抑制されていて、基本的に安定している。ステアリングもまずまず正確。まあ、「本気でブッ飛ばしたときの信頼感は『ステップワゴン』のほうが……」とか「ゆったりした重厚感なら『セレナ』も……」といった重箱のスミはなくはない。しかし、どんなドライバーでも不安感なく、日本の一般的な使い方での満足度などのトータル性能では、エスクァイアを含むトヨタ系が、現時点で最優秀と断じて間違いはない。
シートアレンジや使い勝手にしてもそうだ。セカンドのロングスライド機構は途中で横スライドして、リアホイールハウスを避けながらさらに後ろに下がる機構。そういう複雑なメカニズムを、なんの予備知識がなくても、レバーひとつですぐに使いこなせる。サードシート空間も最も広く、その跳ね上げ式収納作業も、非力な女性でもなんら問題なし。
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長い目で見るとハイブリッドはお得
このジャンルは、日本のビッグスリーが、完全に閉じられたせまい市場のなかで、20年近くにもわたって真正面から張り合って進化発展、そして熟成してきた。おたがいの手のうちも、ユーザーの生活スタイルから深層心理まで、すべて知り尽くしたうえで闘っている。
だから、そこで最新となるエスクァイア(およびヴォクシー/ノア)が、現時点でクラストップのデキなのは必然である。このクラスのクルマ選びは“最新が最良”と考えておいて、おおかた外すことはない。
ヴォクシー/ノアでは2.0リッターのほうが売れているそうだが、エスクァイアの初期受注はハイブリッド優勢という。
2.0リッターとハイブリッドの価格差は約20万円。ネットなどで得られる情報を総合すると、実用燃費は2.0リッターで9~10km/リッター、ハイブリッドで13~16km/リッターくらい。今のガソリン価格なら5万kmほどでモトが取れる計算で、将来的な下取り価格も考えると「最終的にはハイブリッドがちょっとお得」と思える絶妙な価格設定である。
走りの優劣については微妙なところ。エスクァイアを高級ミニバンと見ればハイブリッドの静粛性は魅力のひとつだが、リアルな動力性能では、パワートレイン単体出力と車両重量(ハイブリッドのほうが40~50kg重い)が相殺された印象で、ハイブリッドも2.0リッターも大差なし。実用域の乗り心地では重さがアドバンテージになるケースも多いものの、エスクァイアの場合は、鋭い段差での「ドシンバタン」がハイブリッドのほうで目立つ。これは重さが裏目に出ている感じだ。運転していてリニアで楽しく、快適なのは2.0リッターのほうだ。
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メーカーがこのクルマを手がける意義
エスクァイアの上級たるキモは、エクステリアでは大面積のグリルデザインとそこにあしらわれた大量のクロムメッキ、インテリアでは細部にメッキ加飾が入って、前2席のシートヒーター(商品名は快適温熱シート)が全車標準になることだ。10月末新発売のエスクァイアでシートヒーターを前面に押し出すあたりが、また商売上手なところである。
さらに今回の「Gi」では5ナンバーミニバンでは異例のレザーシートとなる。これはもちろん本革ではないが、最近は東レの「アルカンターラ」が下手な本革より高級品と見なされるように“合成皮革=安物イミテーション”という単純な方程式は成り立たなくなっている。また、最近の合皮はびっくりするほどよくできていて、エスクァイアのそれも、肌触りや柔らかさなどそれなりの高級感がきちんとある。また、実物を見て気づいたのは「シートの掃除が楽そう」ということ。子供がまだ小さいファミリー層など、高級うんぬん以前に、こうした機能でエスクァイアを選ぶケースもありそうだ。
意地悪にいえば、エスクァイアの商品企画は、本来は架装子会社のモデリスタあたりがやるべき仕事だろう。また、いかにもド派手なオラオラ系フェイスに「大メーカーのやることか!?」とか「あざとい!」と、たしなめたくなる良識派もおられるかもしれない。
ただ、世間の高級車デザイン潮流は間違いなく、エスクァイアの方向にむかっている。私も最初に写真で見たときには好感が持てなかったが、まるで一枚カガミのようにキラキラ光る実物を見ると「ああ、本能的に欲しいと思う人は少なくないよなあ」と納得してしまった。
エスクァイアの中身はたしかに架装メーカーでも可能なレベルではあるが、これをベース比10万~15万円高で売る……というのは、やはりメーカーの量産カタログモデルの企画でないとむずかしいだろう。勝てば官軍。事実、エスクァイアは売れに売れている。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
トヨタ・エスクァイア ハイブリッドGi 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1695×1825mm
ホイールベース:2850mm
車重:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:99ps(73kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)/4000rpm
モーター最高出力:82ps(60kW)
モーター最大トルク:21.1kgm(207Nm)
タイヤ:(前)195/65R15 91S/(後)195/65R15 91S(グッドイヤー・デュラグリップ)
燃費:23.8km/リッター(JC08モード)
価格:320万4000円/テスト車=362万7468円
オプション装備:ボディーカラー<スパークリングブラッククリスタルシャイン>(3万2400円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンシールドエアバッグ<フロント・セカンド・サードシート>(4万8600円) ※以下、販売店オプション/T-Connectナビ 9インチモデル DCMパッケージ(29万4840円)/マルチビューバックガイドモニター(3万240円)/ETC車載器 ビルトインタイプ<ボイスタイプ> ナビ連動タイプ(1万7388円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2229km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(3)/山岳路(0)
テスト距離:151.8km
使用燃料:11.5リッター
参考燃費:13.2 km/リッター(満タン法)/13.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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