第222回:18禁(!?)の東京モーターショー
2011.12.02 マッキナ あらモーダ!第222回:18禁(!?)の東京モーターショー
昔はダルマ、今はスーツ
ボクが子供だった1970年代、東京モーターショーは毎年開催だったこともあり、わが家では年間最大のイベントだった。東京郊外住まいのボクにとって、1年に1度竹芝桟橋から晴海見本市会場まで乗る水上バスはボクにとって唯一の船舶であったし、東京湾は唯一の海だった。慣れぬ海風で風邪をひかせないよう、親はボクに厚手のコートを着せ、マフラーを何重にも巻かせたものだから、往復はダルマのような格好だったものだ。
さて読者諸兄もご存じのとおり、第42回東京モーターショーが2011年11月30日、報道関係者に公開された。今年はフランクフルトおよびロサンゼルスショーと間隔を開けるため、1カ月遅れの開催というスケジュールが組まれた。
それにしては暖かい。毎年ジュネーブショーに向かうたび、トンネルの上のモンブランに積もる雪が少なくなっていることで地球温暖化の兆しを感じるが、東京ではコートなし、スーツなしで歩く人の数でそれを感じる。
昔との違いといえば、他にもある。ボクが子供の頃は東京ショーいうと、何週間も前から電車内に中づり広告が出されたり、街のあちこちにもポスターが貼られたりと、なにやらお祭り前のわくわく感が東京全体で醸し出されていたものだ。
かわって今日では、モーターショーの事前盛り上がりムードは、当時に比べてかなり低い。とはいっても告知媒体がインターネットをはじめ、よりパーソナルなものに大きく移行した今日だから、会期終了後の入場者数を見るまで開催前の盛り上がりの大小について語るのはよしておこう。
イタリアに日本製パスタがないのと同じ?
ショー会場に降り立ってみる。と、前回の2009年にほとんど消えてしまっていた輸入車の多くが帰ってきていた。自動車界の首脳陣もしかり。トップデザイナーだけ見てもファブリツィオ・ジウジアーロ(イタルデザイン−ジウジアーロ)、ローレンス・ヴァン・デン・アッカー(ルノー)、オリヴィエ・ブーレイ(メルセデス・ベンツ)といった人物と会うことができた。ジウジアーロ氏は「国際ショーのムードがよみがえった」とボクに語った。
ジャーナリストもそれなりに国際色豊かだった。トヨタが用意した『ドラえもん』のキャラクター人形の前で喜々として記念撮影している一団がいたので声をかけてみると、インドからきた記者たちだった。その中のひとりは、「ドラえもんは、私が小さい頃からインドで放映していたよ」と言ってから、「(クレヨン)しんちゃんもね」と付け加えた。日本のアニメがインターナショナルであることを、はからずもモーターショーで感じた。
しかしボクは心配する。この東京ショーを若い人たちが見て、「これが世界の自動車だ」と勘違いしてしまうことを、である。
世界のモーターショーで年々存在感を増し、コンセプトカーづくりの腕もめきめきと上げている「ヒュンダイ」「キア」「サンヨン」といった韓国系メーカーの乗用車出展(注:ヒュンダイはバスのみ出展)もなければ、欧州市場への本格進出をうかがう中国自動車メーカーのスタンドもない。
ちなみにジュネーブショーやボローニャショーでは近年、中国からパーツを運んできてイタリアで組み立てた小型車のスタンドが出展するようになってきている。そのぐらい世界の自動車地図は塗り替えられようとしていることを、東京ショーでは、まったく感じることができないのである。
もちろん、マーケットが存在しない、または見込みがない地域のショーに出展するメーカーなどは、資本主義社会において存在しない。イタリアのスーパーマーケットに日本製パスタやトマト缶が並んでいないのと同じことである。日本がいまだ自動車立国である証左なのかもしれないから、これで良いのだと言う人もあろう。それに、パーツサプライヤーも含めたプロ向けのトレードショーという意味では、東京はその役割を十二分に果たしている。そうした意味で、今ふうの言葉を使えば、地道な“どじょう”ショーの方向を目指すこともできよう。
だが、他のプロダクトを考えてみよう。もはやヨーロッパで日本ブランドの携帯電話を探そうと思っても、「ソニーエリクソン」くらいしか見つからない。パソコンもしかり。店頭の大半を占めるのは台湾系ブランドである。そう、日本の家電量販店とはまったく別の光景が展開されているのだ。
同じことが国外のモーターショーでも起きようとしているのに、東京ショーを見ているとそれに気付けない。もちろん2年前の惨憺たるショーからここまでのリベンジを実現した関係者・出展社の苦労はリスペクトする。しかしそれなりに立派になったぶん、人によっては「Deutschland über alles(世界に冠たるドイツ)」のごとく、「Japan über alles」と信じてしまうであろうムードが漂っている。
これが世界のモーターショーのスタンダードと思われてしまうと困る。未来を支える日本の青少年のため、いっそのこと、「18禁」にしたほうがいいのではないか? そんな過激なアイデアさえ浮かんでしまった。
日本で最も国際的なのは?
話はかわるが先日、郊外にある女房の実家で爪を切ろうと思って、束ねてあった古新聞から広告チラシを抜き出したときだ。たちまち地元販売店による「日産リーフ」の試乗会、「三菱i-MiEV」を扱う家電量販店のチラシが出てきた。
それらが墓石や歯科医院開業の宣伝と一緒に入ってくるなんて。イタリアやフランスでは、まだまだ夢のような話である(そもそもイタリアには折り込みチラシがない)。
漫画『銀河鉄道999』だったと思うが、ある高度に技術が進んだ星に主人公が降り立つと、道端の子供が小遣い欲しさに「核兵器なら何十円で作るよ」ともちかけてくる場面がある。外人さんにとって、電気自動車のチラシが入ってくる日本は、まさにそんな星に降り立ったような感覚であろう。
モーターショー会場でなくても、見方によっては十分に未来がある。国内におられる方はお気付きにならないと思うが、それが今の日本であることもたしかだ……なんて書くと、これまた「海外のショーなんか見なくていいや」という若者が増えるかもしれないのが怖い。
少々複雑な気分になったボクは、話題の新大久保「韓流タウン」に足を向けた。イタリアで高価なのと店が少ないため食べる機会がないコリアン料理がお目当てだ。
料理店に至るまで並ぶ芸能人グッズ店やコリアン食品店は、どこも女性客であふれかえっていた。音大出身ゆえ、かなり女子がいても慌てず、「プランタン銀座」にも平気で入れるボクであるが、その韓流女性ファンの多さには度肝を抜かれた。それも「冬ソナ」放映時代からすると、明らかに低年齢化している。
彼女たちは、店頭に貼られたポスターを指さしながら、ボクだったら到底記憶不可能な韓流スターの名前を次々に言い当てている。それを見ていたボクは、「この国で最も国際的なのは、東京モーターショーでもそれに訪れる男子でもなく、実は日本女子なのではないか?」と思ってしまったのであった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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