ランドローバー・レンジローバー イヴォーク プレステージ(4WD/9AT)/レンジローバー オートバイオグラフィー(4WD/8AT)
ヨンクの楽しさを教えてくれる 2015.03.17 試乗記 レンジローバーの走破性の高さは誰もが知るところ。では舞台をオフロードからスノーロードに変えたらどうなる? 「レンジローバー」と「レンジローバー イヴォーク」のヨンク(四駆)2台で、山ありモーグルあり(!)一般道ありのスノードライブに出掛けた。抜群のスタビリティー制御
正直言って、試乗に割り当てられたクルマがシリーズで一番元気そうな「レンジローバー スポーツ」ではなく、“おしゃれ番長”のイヴォークだと知ったときにはガックリきた(失礼!)。確かにイヴォークは、そつなく走る。しかし、レンジローバーとしての風格があるかといえば、明らかにカジュアルだし、雪道ではオンデマンド式4WDのレスポンスも、フルタイム4WDにはかなうまい。そう思っていたのだ。
だが、その浅はかな考えは完全に覆された。何がいいってこのイヴォーク、スタビリティーの電子制御が抜群なのである。
試乗会場には特設ステージが用意されており、筆者はまずそこでS字スラロームとモーグル(でこぼこ道)、急斜面のヒルクライムとダウンヒルを体験した。どれもクロカン4WDにとってはお約束のメニューだが、特に感動的だったのはS字スラロームである。
走行シーンに応じて駆動力を最適化するテレイン・レスポンスは「オンロード」を選択。スタビリティーコントロールはオフ。シリーズ中で最も重心が低く、車重が軽いイヴォークは、時にリアを滑らせながらも、軽快なステップでスラロームをクリアしていく。
4WDシステムはオンデマンド式だが、その補正は雪上でとても素早い。後輪が滑るか滑らないかという微妙な状況で、じわりと駆動を与えて横滑りを防いでくれるし、積極的に踏んでいけば、トラクションを掛け続けながらニュートラルステアを維持するのもたやすい。だが筆者が本当に驚いたのは、スタビリティーシステムをオンにしたときの挙動だった。
「機械任せ」は気持ちいい
スタビリティー制御システムの多くは、クルマが横滑りをするとブレーキを大げさにかけ、アクセルを大きく閉じてしまう傾向がある。しかしイヴォークのそれは、細かく細かく制御を利かせながら、クルマを巧みに曲げていくのである。そして、これに自分の運転を合わせながら走ると、クルマと自分が一体になったかのように雪道を走れてしまうのだ。
ならばと少し意地悪に、アクセルを全開にしたままS字に進入してハンドルを切っても、時に4輪のどれかにブレーキをかけ、時にアクセル開度を微調整しながら、ほれぼれするほど見事に曲がってしまうのである。それは、筆者が必死になって格闘するコーナリングよりも美しいラインを描いた。電子制御嫌いの筆者があっけにとられるほど、それはそれは素晴らしい制御内容だったのだ。
このスタビリティー制御を確認してからの、一般路での試乗は爽快だった。雪に慣れない“都会育ち”のドライバーにとって、雪上路での走りは常に緊張感を伴うもの。しかしイヴォークならば、もちろん過信は禁物だが、ドライ路面を走るかのように運転できる! という自信すら持ててしまう。フォードの傘下にあった時にモノにしたのであろう、伸び/縮みのバランスが素晴らしいサスペンション。適度なパワーと、ドライバビリティーに優れたトルクを与えてくれる2リッターの直噴ターボエンジン。今や9段に達したATの変速は、まったく気にしないでクルマまかせでドライブしていればいい。
こうした“オートメーション”を、ネガティブな意味を込めて「機械任せ」と言ってしまうこともできる。しかし、乗れば絶対にわかるだろう、このハンドル操作に集中できる気持ちよさというものを! 今回の雪上試乗会では、イヴォークの走りの本質を体感することができた。
優雅さすら漂う
“目ウロコ”の試乗を終えて乗り換えたのは、本命「レンジローバー オートバイオグラフィー」。5リッターのV8スーパーチャージャーが紡ぎ出す最高出力は510ps/6500rpmで最大トルクは63.8kgm/2500rpm。数字だけ見ればお化けのようなエンジンを搭載した、フルタイム4WDである。
しかし、パワーとハサミは使いよう。ランドローバーはたとえ雪の上でも、“給仕の作法”をニクイくらいに心得ていた。スロットルの反応はダルすぎず、過敏に過ぎず、この巨体を安心して動かせるだけのパワーを、欲しいぶんだけ与えてくれる。たっぷりとした容量を持つエアスプリングは、その包容力をもって駆動力を受け止める。ソフトな乗り心地に対してシートは適度な硬さを保ち、乗り味にわずかな芯を与えている。またステアリングのタッチは軽めでありながらも節度感があり、足まわりから伝わるパワートルクや路面の状況を、囁(ささや)くように繊細に伝えてくる。その得も言われぬフィーリングには、安心感を超えて優雅さすら感じた。
イヴォークと同じステージを走らせても、S字スラロームでこそ、その慣性重量の大きさから横滑りを止めきれない場面はあったが(このクルマにとってコース幅が狭いのだ)、モーグルなどは明らかに“足つき”がよく、たとえ片輪が浮いても、電子制御ディファレンシャルが空転を止めて、駆動を確保してくれた。下り坂でのヒルディセント・コントロールも、イヴォークよりかなり早い段階から制御を利かせ、軟着陸させてくれた。
この絶妙な乗り味に加え、高いアイポイントから見下ろす伝統の“コマンドポジション”が輝いていた。角張ったフェンダーライン、大きなフロントウィンドウ、ヒジが掛けられるほど低いベルトライン。それらすべては道なき道を、安全かつ優雅に走るためにある。レンジローバーの秘めたる性能を、雪上でリアルな体験として感じ取ることができた。
伝統か、若さか
イヴォークの走りは素晴らしい。しかし、さすがにレンジローバーに触れてしまうと、「青さ」や「若さ」のようなものを感じざるを得なかった。
例えばレンジローバーは、ドアパネルがサイドシルまで覆うような“ロングスカート”になっているために、雪道を走っても雪や泥がサイドシルに付着しない。だから、乗り降りするときにズボンの裾が汚れないのだ。また、室内のフロアとサイドシルの高さがフラットになっているおかげで、靴についた雪が室内に入り込んでも室外にはらうのが容易な構造になっている。
しかしイヴォークには、こうしたレンジローバーとしての“無言の作法”は受け継がれていないから、残念ながら若い世代には同ブランドの伝統が伝わらないのでは? という懸念が筆者にはある。そのアグレッシブなルックスに話題が集まるのは悪いことではないけれど、やはり伝統は守られるべきだと感じている。
雪上での試乗を終え、“都会育ち”の筆者はSUVに対して常々感じてきたこと、すなわち「果たして本当に、本格的なクロスカントリー性能がわれわれにとって必要なのか?」という問いを、2台のレンジローバーにぶつけてみた。
筆者の生活パターンを振り返ると、一年のほとんどをサマータイヤで過ごし、年に1回か2回降る雪のためにスタッドレスタイヤへと履き替える。あるいは、そんな日はクルマで外出しなければ、事なきを得る。
だからこそ、生活に密着したBセグメントのコンパクトSUVには、駆動方式はFFのみと割りきってしまうクルマも多いし、Cセグメントにしても、FFをベースとしたオンデマンド4WD(生活四駆)が主流となっているわけだ。本格的な“ヨンク”に乗るのは、ある意味、究極のファッションではないのか? と思っていた。
しかしレンジローバーに乗ると、ヨンクに乗る意味がわかる。雪積もる野山へと出掛けたくなってくる。どんなに世の中が合理化されようとも、人はワクワクなしには生きられないのだ。
(文=山田弘樹/写真=小河原 認)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク プレステージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1900×1635mm
ホイールベース:2660mm
車重:1790kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/65R17 106H/(後)225/65R17 106H(ピレリ・スコーピオン ウィンター)
燃費:10.6km/リッター(JC08モード)
価格:605万円/テスト車=753万4000円
オプション装備:インテリアトリムフィニッシャー<ボタニカル>(4万1000円)/アダプティブ・ダイナミクス(16万5000円)/アドバンスド・パークアシスト(17万2000円)/ウェイド・センシング+ブラインドスポットモニターおよびリバーストラフィック・ディテクション(14万5000円)/アダプティブ・クルーズコントロール(ACC)キューアシスト機能、インテリジェント・エマージェンシー・ブレーキアシスト(11万8000円)/ラゲッジスペース・レール(2万3000円)/8型デュアルビュー・タッチスクリーンディスプレイ(11万9000円)/オートハイビーム・アシスト+キセノン・ヘッドランプ+ヘッドランプ・パワーウォッシャー(2万9000円)Prestige/Dynamicテクノロジーパック(42万1000円)/コールドクライメート・パック4(25万1000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:5493km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm
ホイールベース:2920mm
車重:2550kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージド
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:63.8kgm(625Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)275/45R21 110V/(後)275/45R21 110V(ピレリ・スコーピオン ウィンター)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:1738万円/テスト車=1738万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2319km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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