第2回:250ccのスクーターから2300ccのクルーザーまで
輸入バイク チョイ乗りリポート(後編)
2015.05.03
JAIA輸入二輪車試乗会2015
丸い顔で笑う姿が特徴的なメガネ男子のwebCG編集部員、ホッタ青年から「JAIA初の輸入二輪車試乗会が大磯で行われるのでぜひ」という連絡を受けたのは、東京の桜が一気にほころび始める頃だった。だからつい気軽に応じた。
しかし取材日の2015年4月8日は雨。しかも午前中には、あろうことかみぞれが降った。いや、ホッタ青年に嫌みを言いたいわけじゃない。そうではなく、読者の皆さまには、私が試乗した全5台の記事を通じて、雨がっぱ姿の寒々しさを差し引いて楽しんでいただけたらと、先に言い訳しておきたいだけなのです。まったく、なんて日だったんだ!
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ビビらず素直に体を預けるなり!
BMW R1200GS……224万1000円
雨の中でも小躍りするかのようなホッタ青年のキレあるアテンドに従い、まずはBMWの「R1200GS」から。「エンデューロの王道だし、それにBMWのオートバイと聞いて皆が真っ先に思い浮かべるのはコレだと思ったから」。以上は、数あるBMWのラインナップからR1200GSを抜き出した彼の理由。本当に皆がそうか? それはさておき、寒さに震える十両程度の力士にいきなり横綱とガチンコ対決を挑ませるとは、ホッタ青年はどんな性癖なんだろう?
とはいえ心強かったのは、取り組み経験を持っていたことだ。もう10年以上前だから、GSがまだ完全空冷のボクサーエンジンを搭載していた頃、東京から香川まで一気に走ったことがある。目の前に立ちはだかる巨体はまさに二輪の横綱。四つに組むのさえビビったが、いざ胸を預けたらその軽やかさに驚いた。幅の狭いフロントスクリーンの最上部に小さなリップが備わっていたのだけど、そのわずかな反リ返りがヘルメットに当たるはずの走行風を完璧に逃がしていた。そのリップだけでもBMWの神髄を見た気がして、チューしたいくらいだった。
2013年から水冷ヘッドに変わった現行のR1200GSは、以前より各部を鍛え上げ、より軽やかさが増していた。たとえるなら、体重150kgの巨漢なのに100m走10秒台という感じ。そんな相撲取りがいるもんかと突っ込まれるだろうけど、そういう異次元性がR1200GSの魅力なのだ。
このオートバイに乗るコツは、決してビビらず素直に体を預けること。さすれば乗り手の技量に関係なく、およそどんな場面でもいなすように走るなり。
その存在感と安心感は依然として名力士そのものだ。バイク好きなら皆、人生というエンデューロを旅するとき、その相棒選びで必ずR1200GSが頭に浮かぶ。……という結論で、どうだろうホッタ青年?
こんな天気じゃミサイルになる!?
トライアンフ・ロケットIIIロードスター……248万4000円
やむ気配のない雨の中、目の前に現れた2台目のオートバイは「トライアンフ・ロケットIIIロードスター」。東の横綱に続いて西の横綱って、どんな罰? そりゃ「マジかよ!」って叫んじゃいますよ。水冷DOHC並列3気筒というエンジンタイプはユニークだけど、2294ccで148ps、トルクに至っては22.5kgmなんてシャレになってない。ホッタ青年は「2.3リッターってクルマかよ? どんな感じなのよ? という点をリポートしてほしいと思いました」だって。この雨の中、どんな感じか本気で試したらロケットじゃなくミサイルになるってば。
しかし、これまたかつて晴天時に試乗経験あり(よかった)。誤解を覚悟で言えばバイオレンス。その加速力たるや、メジャーリーグの名4番バッター3人くらいによるフルスイングケツバットで吹っ飛ばされるようなイメージ。いや、大げさでなく。ただし、それはあくまでスロットル全開時の話。モリモリのトルクは低回転域で従順な態度を見せてくれるから、決して扱いにくいわけじゃない。ロングホイールベースのクルーザースタイルゆえシート高も低めで、どっしり構えた姿勢に安心感が持てる。
バイオレンスなどと勢い任せで発言しましたが、こういう冗談みたいなモデルもないとオートバイ界は楽しくない。フォンと空吹かしすればグォンと車体を右に傾けるたけだけしいエンジン。ロケットだけに直進性が際立ったハンドリング。そして、眼下に臨むお弁当を広げられそうな超ワイドなフューエルタンク。そのどれもが際立った個性。オートバイに疎い女の子でもロケットIIIでデートに誘ったらきっとウケるはず。それほどストレートに本能を刺激する乗り物。でも、正直なところ雨の日はなえるなあ。打ち上げ予定の変更をお願いしたいかなあ……。
「やっぱダブルの革ジャンでしょ」
モト・グッツィV7レーサー レコードリミテッドエディション……144万3000円
巨漢相手に身も心もクタクタになりかけていたところで、ようやく身の丈に合った相手が登場。この寄り引き、駆け引き。ホッタ青年に踊らされているような……。
クロムメッキのフューエルタンクが雨の中でもまぶしい「モト・グッツィV7レーサー」。今回用意されたのは、昔懐かしいロケットカウルを装着した国内30台のみの限定車だ。それにしても海外製オートバイはエンジンが楽しい。モト・グッツィ伝統の横に開いた空冷90度V型2気筒なんて、少年スピリッツをそそるためだけに存在しているように思える。もちろん毎年ブラッシュアップされ洗練され続けているのだけど、この奇特なエンジンスタイルはずっと大事にしてほしいものだ。
「でもなあ」とちゃちゃをいれたのはホッタ青年ではない。モト・グッツィの1リッターモデルを所有している三浦カメラマンだ。「モト・グッツィって、こういうカスタムモデルを1リッターで出してくれないんですよね。もし発売したら買い替えてもいいのになあ」。オーナーとはそんな風にぼやく人種である。
けれど、このひらりと身をかわすような俊敏性は、あるいは744ccだからこそ醸し出せるのではないか? そう言うと三浦カメラマンは、「う~ん、それもそうなんですよねぇ」。ファンとは素直な民でもある。
彼が自分の意見を容易に引き下げたのは、V7レーサーの細部まで行き届いたカスタムセンスがモト・グッツィ好きとしてうれしかったからだと思う。「やっぱダブルの革ジャンでしょ」「編み上げブーツが欲しくなるね」「個人的にはレギュラー版のカウル無しがいいなあ」「でもカウル付きのトータルバランスもいいですよ」などとV7レーサーをながめながらくっちゃべっていると、雨も気にならなくなるから不思議だ。
本場の肉感美
ヴィクトリー・マグナム……307万8000円
ホッタ青年の事前説明によれば最後に乗るはずだった。が、急きょ4台目に繰り上がり本日のメインディッシュとなったのが「ヴィクトリー・マグナム」。それにしても前菜からヘビーなこのフルコース試乗会、メインもまたケタ外れだ。
うろ覚えな記憶だが、女性のどこに魅力を感じるかという質問に対し、アメリカ人男性は圧倒的にヒップを支持すると聞いたことがある。そんな彼らの好みをビンビンに感じさせるのが、マグナムのリアビューだ。左右の大型ハードケースを利用してこれでもかとお尻のボリュームをアピール。そうかと思うとシートとフューエルタンクのジョイント部分はキュッと極細に絞り込まれている。その肉感的なフォルム、「本場のセクシーってこうなのよ坊や」と諭されるような……。
しかし外観だけがマグナムの特徴ではない。「フリーダム106」という名称の1731cc V型2気筒エンジンは、形的にはかのハーレーダビッドソンと同じだが、そちらがOHVなのに対しこちらはSOHC。これがまた気持ちよく回る。さらにフロントフォークは剛性が高い倒立式を採用しているので、パイロンスラロームなども小気味よくこなしてみせる。
ちなみにマグナムのフロントホイールは直進性というかツアラー性を重視して21インチを採用しているが、同スペック同スタイルで17インチを履いているクロスカントリーは女子100mと200mの世界記録保持者、今は亡きフローレンス・ジョイナーみたいな走りをするらしい。
ヴィクトリーは、四輪バギーやスノーモービルで有名なポラリスのモーターサイクルブランドで、アメリカ最古のオートバイメーカーであるインディアンと母体を共にし、それぞれに個性的なモデルを発表している。なのでアメリカンといった場合、ハーレーだけじゃないということを再認識しなければいけません。
気付いたら10年乗っていたというような関係
トライアンフ・ボンネビルT100……131万円
時間いっぱい本日最後の取り組みは、ここまでにすべての横綱が出切ってしまうという異例につき、古参ながら味のある立ち合いで人気を博している「トライアンフ・ボンネビルT100」が土俵入り。
865ccの空冷DOHC並列2気筒、いわゆるバーチカルツイン。ボンネビルT100はオートバイの原風景だ。メカニズムがユニークだとか、圧倒的なパワーが出るとか、近未来的なデザインであるとか、モノとして興味深い最新モデルが注目される一方で、機械自体より景色を楽しむ心や、誰かとタンデムする楽しさに特化するオートバイもあってほしい。そう考える人に最適な一台です。間違いなく。
などとしみじみしていると、「かなり乗りやすくなってますよ」と切り込んできたのが、これまたwebCGの関 顕也編集部員。彼は現行型が導入された年である、2001年式キャブレター仕様のボンネビルオーナーだ。
「インジェクションになってパンチがなくなるかと思ったら、エンジンの性格を生かしながらよりキレイに回るようになっていました。自分のトラが古くさく感じてしまいますね」などと発言はネガっぽいが、言葉尻にはさほど悔しさがにじんでいない。なぜなら自分のオートバイが一番かわいいから。
ボンネビルT100のようなオートバイは、気が付いたら10年乗っていたというような、それこそ自分と相棒が真横でバーチカルに向き合う関係性がもっともふさわしいと思う。十分にクラシックだからか、存在自体は古くならないし。
いろいろまとめて一気に乗ってみると、豪勢なディナーでも締めはやっぱり日本茶がいいなあと、1日の最後にボンネビルT100に乗って感じました。あ、イギリス出身者だから紅茶の方がいいのかな?
(文=田村十七男/写真=三浦孝明)
