トヨタ・アルファードSR“Cパッケージ”(4WD/CVT)
ドライバーがうれしいミニバン 2015.06.27 試乗記 好調なセールスが伝えられる、トヨタのミニバン「アルファード」。人気の秘密はどこにあるのか? ハイブリッドの上級モデルに試乗して、そのポイントを探った。思わずうなるカタチ
発売以来、アルファード/ヴェルファイアが「ヴィッツ」並みに売れている。700万円超えまであるフラッグシップミニバンがこれだけ売れるとは、1年で2兆円の利益を出すトヨタにしてもホクホクだろう。
人気の理由のひとつは、やはりこのデザインなのだろうか。兄弟モデルの「ヴェルファイア」はメガマックみたいだが、新型アルファードの顔はどこか神輿(みこし)を思わせる。ミニバンワッショイだ。36コマのメッキ格子グリルがスゴイ。日光東照宮の屋根の内側にもこういう彫り物があったような気がする。“和風総本家”といった雰囲気の顔つきだ。
発表時、報道関係者に配られたプレスインフォメーションのデザイン解説でも「アクの強さ」とか「威勢の良さ」とか「いかつい表情」といった表現が出てくる。クルマのデザインを語る時に、これまであまり使われなかった言葉である。
細い三角形のセンターピラーは初代からの特徴だったが、この3代目では後ろの辺が逆Jの字形を描き、シャークフィンのようになった。真横から見ると、大きな面積のサイドパネル全体がサメのまねをしたマッコウクジラみたいでおもしろい。
今回試乗したのは、ハイブリッドの「SR“Cパッケージ”」(約550万円)。別格に高い「エグゼクティブラウンジ」がファーストクラスだとすれば、ビジネスクラスにあたる7人乗りハイブリッドの上級モデルである。
重さの割に走りは軽快
SUVのように高い運転席に腰を沈め、走り始めると、アルファード ハイブリッドは悠揚迫らぬ高級車である。立ち上がりのトルクが強力なので、最初てっきり3.5リッターV6かと思ったほどだが、ブレーキを踏むと回生ブレーキのメタリックな音が耳に届いた。
アルファード系のハイブリッドは、前輪を駆動する2.5リッター4気筒+モーターのほか、オンデマンドで後輪を駆動するリアモーターも備える「E-Four」である。発進加速の気持ちよい力強さは、リアモーターによるプッシュ感のなせるワザかと思ったのだが、エネルギーモニターを見ていると、ドライ路面のスタートダッシュ時にほとんど後輪は回っていなかった。走りの気持ちよさは、ナニゲに2.5リッター4気筒エンジンのポテンシャルにあると思われた。
ハイブリッド車にはあくまでエンジンを黒子扱いにするものも多いが、このクルマは液晶ディスプレイにタコメーターを表示させることもできる。
車重は2.2トンを超すが、パワーユニットの余裕に支えられて、場面を問わず走りは軽快だ。乗り心地もすばらしい。大型高級ミニバンとはいえ、ドライバーズカーとしても洗練されているので、運転していて退屈ではない。「クラウン」から買い替えたとしても、たしかにこれならみじんも“都落ち”の感を抱かせることはないだろう。売れるのもやむなし、と思われた。
気持ちいいのは前の席
アルファードSR“Cパッケージ”の居室は、2+2+3で座らせる本革シート7人乗りである。2列目はエグゼクティブパワーシート。最上級モデルのエグゼクティブラウンジほどではないが、電動のオットマンやリクライニング機構が備わり、シートは50cmにわたって前後スライドする。一番後ろにすると、足元の広さは笑っちゃうほどだ。
ただし、残念ながら、乗り心地は最前席ほどよくない。路面のデコボコを真に受けて、広い床がワナワナ揺れるのが応接間的雰囲気に水をさす。
さらに2列目に座っていて気になったのは、先にも書いたセンターピラーである。逆Jの字でこっちにスロープしてくるピラーがサイドウィンドウの視界をかなり殺(そ)いでいる。電車の向かい合わせ席で、進行方向と逆向き側に座ってしまったような違和感も覚えた。
側壁にリフトアップできるサードシートは、2列目を一番後ろに下げても大人が座れるだけの余裕を残す。ただ、走りだすと、ピッチングの上下動が小さくない。すべての席で乗り心地がいいミニバンはなかなかないものだが、このクルマも特等席は運転席か助手席である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
想像以上の取り回し性
ルーフアンテナを備えていた試乗車の全高は1950mm。SUVもミニバンも購入する予定がない筆者の家の車庫は、高さ2000mm。バックで入るとき、道路との段差を上がってルーフが傾くことを考えるとコワイので、借りてきた晩はコインパーキングに駐(と)めた。ボディー全長は、あと8cmほどで5m到達である。
それだけの巨漢なのに、意外や取り回しがラクで、狭いところでも苦にならない。運転席に座ると、目の位置から助手席側フロントピラーの付け根まで170cmも距離がある。それでも、特にノーズ左側の感覚がつかみにくいようなことはない。最近では、はるかにボディーの小さい「シトロエンC4ピカソ」のほうが見切りが悪くて苦労した。大きさを取り回しのハンディに感じさせないノウハウがあるのだろう。
約370kmを走って、燃費(満タン法)は11.7km/リッターだった。今回ガソリン車で走ったとして、JC08モードのカタログ値から馬鹿正直に実際の燃費を推測してみると、2.5リッターモデルが7.9km/リッター、3.5リッターでは6.0km/リッターである。やはりハイブリッドのアドバンテージは大きい。
さまざまあるシートのバリエーションではどれがベストか。最前席の乗り心地が一番いいとすると、「助手席スーパーロングスライドシート」付きが一番いいのではないか。1160mmも前後スライドして、助手席の人をおもてなしできる。
しかしこのシートは、駆動用バッテリー搭載で最前席の床が高くなるハイブリッドには装備されないのだった。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎、田村 弥、webCG)
テスト車のデータ
トヨタ・アルファードSR“Cパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4915×1850×1950mm
ホイールベース:3000mm
車重:2200kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152ps(112kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4400-4800rpm
フロントモーター最高出力:143ps(105kW)
フロントモーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
リアモーター最高出力:68ps(50kW)
リアモーター最大トルク:14.2kgm(139Nm)
タイヤ:(前)225/60R17 99H/(後)225/60R17 99H(ヨコハマ・ブルーアースE51)
燃費:18.4km/リッター(JC08モード)
価格:550万1127円/テスト車=649万6887円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/プリクラッシュセーフティーシステム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<全車速追従機能付き>+インテリジェントクリアランスソナー+T-Connect SDナビゲーションシステム+JBLプレミアムサウンドシステム+ITSスポット対応DSRCユニット+ESPO対応+パノラミックビューモニター<左右確認サポート+シースルービュー機能付き>(70万2000円)/12.1型リアシートエンターテインメントシステム<VTR入力端子、HDMI入力端子付き>(18万3600円)/盗難防止システム エンジン・モーターイモビライザーシステム+オートアラーム+DCM+ルーフアンテナ<シャークフィンタイプ>(7万7760円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2654km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:371.0km
使用燃料:31.8リッター
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/9.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】 2025.11.7 現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。
-
NEW
ホンダが電動バイク用の新エンブレムを発表! 新たなブランド戦略が示す“世界5割”の野望
2025.11.14デイリーコラムホンダが次世代の電動バイクやフラッグシップモデルに用いる、新しいエンブレムを発表! マークの“使い分け”にみる彼らのブランド戦略とは? モーターサイクルショー「EICMA」での発表を通し、さらなる成長へ向けたホンダ二輪事業の変革を探る。 -
NEW
キーワードは“愛”! 新型「マツダCX-5」はどのようなクルマに仕上がっているのか?
2025.11.14デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」でも大いに注目を集めていた3代目「マツダCX-5」。メーカーの世界戦略を担うミドルサイズSUVの新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 開発責任者がこだわりを語った。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――フォルクスワーゲン・ゴルフTDIアクティブ アドバンス編
2025.11.13webCG Movies自動車界において、しばしば“クルマづくりのお手本”といわれてきた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。その最新型の仕上がりを、元トヨタの多田哲哉さんはどう評価する? エンジニアとしての感想をお伝えします。 -
新型「シトロエンC3」が上陸 革新と独創をまとう「シトロエンらしさ」はこうして進化する
2025.11.13デイリーコラムコンセプトカー「Oli(オリ)」の流れをくむ、新たなデザイン言語を採用したシトロエンの新型「C3」が上陸。その個性とシトロエンらしさはいかにして生まれるのか。カラー&マテリアルを担当した日本人デザイナーに話を聞いた。 -
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦
2025.11.13マッキナ あらモーダ!アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。 -
ディフェンダー・オクタ(後編)
2025.11.13谷口信輝の新車試乗ブーム真っ盛りのSUVのなかで、頂点に位置するモデルのひとつであろう「ディフェンダー・オクタ」。そのステアリングを握ったレーシングドライバー谷口信輝の評価やいかに?








































