ランボルギーニ・アヴェンタドールLP750-4 スーパーヴェローチェ (4WD/7AT)
キング・オブ・スーパーカー 2015.07.02 試乗記 「ランボルギーニの本質を体現したモデル」とうたわれる、特別な限定車「アヴェンタドールLP750-4 スーパーヴェローチェ」。サーキットで試乗した“猛牛”は、スタンダードモデルとは似て非なる実力の持ち主だった。その名に恥じぬスペシャルモデル
ランボルギーニを愛するマニアにとって、SVの名前は特別だ。
1971年に登場した「ミウラP400SV(スプリント・ヴェローチェ)」、1996年の「ディアブロSV(スポルト・ヴェローチェ)」、2009年の「ムルシエラゴLP670-4 SV(スーパー・ヴェローチェ)」と、いずれもマニア垂涎(すいぜん)のモデルばかりがその名を掲げてきた。
そして、2015年春。ジュネーブモーターショーにて、新たなSV伝説が誕生した。4年前にサンターガタが世に送り出したフラッグシップモデル、アヴェンタドールにも、SVを名乗るスペシャルモデルが加わったのだ。
その名も、アヴェンタドールLP750-4 SV(スーパー・ヴェローチェ)。ムルシエラゴ以来の慣習にのっとって、車名の「LP」はエンジンが縦置きであることを、「750」は馬力を、「4」は4WDを表している。
世界限定600台。日本市場向けの割り当て分は、すでに完売御礼という。乗り出し価格で5000万円を軽く超えるモデル。何とも豪気な話だが、注文した人はきっとアヴェンタドールのスタンダードモデルの実力を知っているからこそ、そのプラスアルファの価値を乗らずに判断できたに違いない。
実際に、バルセロナのGPサーキットでアヴェンタドールSVを全力で試すことができた筆者の今の思いはというと、こうだ。購入を即断したあなたの判断は間違っていなかった。うらやましい! そのひと言である。
ノーマルからSVへ、数あるグレードアップのなかでも、注目すべきポイントは大きく分けて3つある。そのうち2つはランボルギーニのフラッグシップとして最も重要なポイント、すなわち、スタイリングとエンジンパフォーマンス。で、残る1つはシャシー性能だ。
順を追って簡単に解説しておこう。
数値以上に変わったエンジン
まずは、エンジン。L539と呼ばれる6.5リッターV12エンジンは、車名にもある通り、750psという最高出力を得た。可変バルブタイミングと可変吸気システムの最適化により、ノーマルより50psアップの数値。これを多いとみるか少ないと思うかは、この際どうでもいい。ポイントは、その数値よりもむしろ、最高出力をより高い回転域、具体的には150rpm高い8400rpmで達成している点にこそある。
要するに、より高回転型(8500rpmまで回る!)のエンジンへと進化した。一方、最大トルクは70.4kgm(690Nm)/5500rpmで、数値そのものはノーマルと変わらないが、7000rpm以上の領域におけるトルクカーブの落ちが圧倒的になだらかだ。高回転域でいっそうパワフルなエンジンになったというわけである。
組み合わされるトランスミッションは7段ISRを継承する。多くのファンが期待したデュアルクラッチ化はおあずけ。ハイレブエンジンに合わせたチューニングを受けている。
次にスタイリング。これはもう一目瞭然で、過激なエアロデバイスを付加し、空力性能をかなり引き上げてきた。
特に、リアセクション。ムルシエラゴSVと同様の手法でリアサブフレームからそそり立つ巨大なリアウイングは、ノーマル比+170%という強力なダウンフォースを生み出す。しかも、3段階でポジション調整(マニュアル)も可能だ。
フロントバンパー、サイドステップ、リアディフューザー、そして固定式リアダクトとともに、これらのエアロデバイスは全て炭素繊維強化樹脂(CFRP)製であり、SVのスタイリングをいっそう鋭利に、平たくみせている。キング・オブ・スーパーカーの面目躍如というわけだ。
磨かれたシャシーがキモ
スタイリングとエンジン。この2つの変化と進化をもって、多くのランボルギーニファンはこのアヴェンタドールSVを大歓迎することだろう。
しかし、オーナーになる人にとって、本当に価値ある進化はその2つにとどまらない。否、むしろこれから説明するシャシーパフォーマンスの向上の方が、とっておきだと言いたい。
アヴェンタドールのシャシーは、CFRP製モノコックキャビンをアルミニウム製サブフレームで挟み込んでおり、プッシュロッド式サスペンションシステムが備わっている。そのため、ボディー剛性・シャシー性能ともに非常に高いレベルを実現しているが、いかんせん、全域にわたって突っ張ったライドフィールが目立ち、それが時に乗り心地の悪化やコントロールのしづらさにつながっていた。
そんな欠点を解消すべく、SVには「MRS(マグネト・レオロジカル・サスペンション)」と、「LDS(ランボルギーニ・ダイレクト・ステアリング)」が搭載されることになった。
前者は今や高性能車には常識となりつつある電子制御の磁性流体ダンパーで、車体の横揺れをしっかり抑え込み、よりダイレクトでコントローラブルなハンドリングやブレーキフィールを実現するもの。後者はいわゆる可変ステアリングギアで、速度やライドモードに応じて適切なステアリングフィールを提供する。いずれも最新モデルの「ウラカン」では既にオプション設定されている装備だから、おそらく今後は、スタンダードのアヴェンタドールにも搭載されることになるはずだが、まずはSVオーナーが、その素晴らしい恩恵に浴することになる。
これまで記した3つのポイントのほかにも、インテリアの変更や、それに伴う軽量化(50kgのダイエット)、新開発のエキゾーストシステムなど、まだまだ解説したいことの多いアヴェンタドールSVだが、そろそろ肝心のサーキットインプレッションを報告しておこう。
スタンダードとは別のクルマ
結論から言うと、サーキット上では、スタンダードと似て非なるクルマであった。これまであまたのサーキット試乗会に参加してきたが、これほど速く、楽しく、スリリングなテストなど、いまだかつてなかった!
ピットロードを走りだした瞬間に、「あ、これは違うクルマかも」と、もうすでに感じはじめていた。背後から地響きのように包まれる野太いサウンド、明らかに洗練されたタッチの乗り心地、いっそう自在にそして確実に動く前アシ。ピットロードで確かめうる全ての動きが、ノーマルとは違っていたからだ。
ウォーミングラップもそこそこに、がんがん攻めこみはじめると、それは確信に変わった。そして、心のなかで叫んでいた。
「コイツはまるで違うクルマだ!」
実を言うと、加速の途中で“プラス50ps”を感じることはほとんどない。加速フィールそのものは、ほとんどノーマルと変わらない。それよりも、高回転をキープするような攻めた走りのなかで、全域にわたり右足の裏が力を感じていられることのほうが、とてもシアワセ。
プラス50psとマイナス50kg。コーナリングでは、その数値以上にクルマが軽くなり、ひとまわりも小さくなった感じがする。これこそ、MRSとLDS、そして空力向上の恩恵だ。
特に、旋回スピードの速さとコントロールのしやすさには驚かされた。フロントのダウンフォースがよく効いているのだろう、ブレーキをあまり残さずに、少し速いなと思うくらいの速度域でコーナーに進入しても、難なくクリア。高速コーナーでは、リアのコーナリングフォースを抑えている様子が己の腰にはっきりと伝わってくるから、ハイスピードを保ちながら、安心して自在に車体をコントロールすることができる。
優れた空力性能に加えてMRSがあるおかげで、どんなコーナーでも4輪の状態を両腕がしっかりと把握でき、不安なく駆動力をかけていけた。このあたりのパフォーマンスの所作は、最新スーパーカーならではだ。
右足が、腰と尻が、両腕が、そして脳みそが、歓喜に満たされていく。「史上最強かつ最もエモーショナルなランボルギーニ」というメーカーのうたい文句が、物足りなく思えるほどの、それは特別な猛牛であった。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・アヴェンタドールLP750-4 スーパーヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×2030×1136mm
ホイールベース:2700mm
車重:1525kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:750ps(552kW)/8400rpm
最大トルク:70.4kgm(690Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20/(後)355/25ZR21(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:16.0リッター/100km(約6.3km/リッター)、(欧州複合モード)
価格:5179万2353円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様車のもの。価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。