第2回:S60 D4をワインディングロードで試す
スポーツセダンの新たな姿 2015.07.27 徹底検証! ボルボのディーゼル 新世代ディーゼルターボを搭載するボルボのスポーティーセダン「S60 D4 R-DESIGN」に試乗。ワインディングロードでムチを当てると、その骨太な個性が見えてきた。ディーゼルモデルはいまが旬
まさに北欧家具のような、美しい曲面で構成されるインテリアに触れたのは、極めて滑らかでパワフルかつ美しい音色を奏でる、ボルボ直列6気筒モデルの試乗会でのことだった。そこで「S60 T6 AWD」をドライブしたのだ。
その「T6」のパフォーマンスに取って代わる、いや動力性能に加えて燃費、環境、経済性の点で、今後のボルボの主力パワーユニットのひとつとなるべく作られたクリーンディーゼル「D4」エンジンに、今回は注目したい。
D4は、ボルボが高効率環境対応パワートレイン戦略「Drive-E 」の一環として開発した新世代の2リッター直列4気筒直噴ターボエンジンで、日本市場では「S60」「V60」「XC60」と、「V40」「V40クロスカントリー」の合わせて5モデルに、一気に展開される。
すでに上陸しているガソリンターボの「T5」が性能と効率の高さから注目される中、その話題がまだ冷めやらぬうちに、早くも次なる一手としてD4クリーンディーゼルを投入―― ボルボのDrive-E攻勢には目を見張るものがあるが、それは今後もまだまだ続く見込みで、期待が高まる。ドイツ勢をはじめとする輸入車メーカー各社の、日本市場へのクリーンディーゼル車導入により、国内で直接対決が見られる点も興味深い。
では、注目のD4を搭載したS60 D4 R-DESIGNの実力はいかほどか? あえて登り坂の多い、箱根のワインディングロードで試乗した。
滑らかにしてパワフル
S60のD4エンジンは、アイドリング時に車外で耳を傾ける分にはディーゼル特有の燃焼音が聞き取れるものの、車内に乗り込んでしまえばさほど気にはならない。その音に同調する振動はなく、回転バランスも良好。滑らかで、心地いい。
フル加速では4気筒らしいパンチ溢(あふ)れるサウンドに転じる。かと思いきや、一定速度での走行時も含めて、基本的に重低音を聞かせる“オトナの響き”。それが新たなディーゼルサウンドとも言える。
もちろんそれは車内でも同様。低く抑えた一定の音域しか伝わってこない。透過音を抑える遮音材の効果も功を奏しているのだろうが、ボルボならではの強靭な骨格や、それがもたらす高いボディー剛性も、こうした音の質に関係しているとみて間違いないだろう。
一方、パフォーマンスの点では、まさに「トルクの塊」だ。下からすくい上げられるような力強さと、息の長い加速Gをドライバーに感じさせながら、1.6トンを超える車体を引っ張っていく。 これこれ、これこそがターボディーゼルの魅力である。
低回転域を小型ターボに、それ以上を大型のターボに担わせる2段階の過給システムが、ディーゼルの生み出す太いトルクをさらに増大させ、全域で継ぎ目のない加速をもたらす。
エンジン回転がレッドゾーンに入るのは、5000rpm。低中速で盛り上げた勢いを高速へとつなげながらも、勢いが頭打ちになるちょうどいい領域をリミットに設定した感がある。その、アクセルを踏めば全域で瞬時に盛り上がるレスポンスのよさと、回転の上昇を上回る勢いで車速が伸びていくような感覚は、ガソリンターボとはひと味違うものだ。
選びがいのある走行モード
それをタイヤへと伝達する8段ATは、いかにも燃費に効くであろう、ベストなギア比で構成されている。1速は「40km/h弱で頭打ち」というローギアードで、ゼロスタートから燃料を無駄に使うことなく、軽快にクルマを転がす。一方、8速は高速100km/h巡航をわずか1500rpmに抑える、ハイギアードなクルージング設定となっている。
しかも走行モードは、ECO+(エコプラス)/D(ドライブ)/SPORT(スポーツ)の3パターン用意される。ECO+を選択した場合、65km/h以上でアクセルペダルから足を離すと、エンジンブレーキが解除されて回転数はアイドリングレベルにまで下がり、ECOコーストモード(惰性走行)に移行する。
通常は、このECO+モードでなんの不足もない。アクセルを踏み込むや、間髪入れずに力強い加速に転じるからだ。その際、アクセル操作に対するレスポンスは抑え気味で、ペダルのストローク量も長くなるのだが、箱根の平たん路で試す限り、このモードでも十分ドライバーの意思は通じると感じられた。
登坂路で先を急ぐ場合は、ドライブモードを飛ばしてスポーツモードを選択すればいい。アクセルのレスポンスが俊敏になり、トランスミッションの変速ポイントがより高い回転域にまで引き上げられる。必要とあらば、ステアリングホイールに備わるシフトパドルで、瞬時に希望するギアを選ぶこともできる。
ECO+/D/SPORTそれぞれの制御ロジックが完全に異なっていることも含めて、以前のボルボを知るユーザーであれば「ボルボも変わったな」と思うに違いない。
そんなS60のD4 R-DESIGNからは、必要以上にアクセルペダルを踏まず、エンジンを回さずとも期待値以上のパフォーマンスが得られるという、常用域から扱いやすいスポーツセダンの新たな姿が見て取れる。
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独自の個性に満ちている
今回試乗したのは、スポーティーグレードの「R-DESIGN」。その威力は、締め上げたサスペンションによってもたらされる。
4WDかと思わせる、リアの接地性と直進安定性は、S60の基本特性として相変わらず高いレベルにあり、降雪地域でもなければ、後輪を“駆動”させる必要性は感じられない。
むしろ特長となるのはハンドリングで、直進性の高さを基本としつつも、そこからステアリングを切り込んだ時は微少の舵角(だかく)から素早い動きを見せる。サスペンションは、ロール量を抑えて応答性を優先した味付け。硬さはあるがタイヤと路面の当たりに角ばった感じがなく、乗り味は滑らかだ。スポーツサスペンションとしてはまっとうな設定だろう。
そしてS60の、ほかの何にも似ていない独創性を放つスタイリングと、やや小ぶりなサイズ。これらも同セグメントのライバルに対する強みであり、S60が日本にぴったりなミドルクラスセダンといえる要素のひとつだ。また後席の居住性についても、輸入車Dセグメントの中で特に優れていると断言できる。座面の前後長にゆとりがあることで腿(もも)から膝までをしっかりサポート。前席下の足置きスペースも十分で、大人が自然な着座姿勢を取れる。
極寒の北欧の厳しい環境で生まれたからだろうか、例えばドアひとつとっても、高い剛性と気密性を有する堅牢(けんろう)な造り、そして質感の高さが伝わってくる。プレミアムクラスといえばドイツ、イギリス勢というのが一般的なイメージだろうが、それらとはまた異なるスウェーデンの個性。そこに世界に知られた先進の衝突安全性や運転支援システムが合わさり、ボルボならではの存在感をいっそう強めている。
冒頭で触れた北欧家具よろしく、主張し過ぎない優美なデザインがもたらす、優しい空気感――
もっとも、そうした点は、搭載エンジンに関わらず、どのS60でも自然に感じられることだ。だからこそ、実用的なエンジンでありながら、スポーツユニットにも変身し、さらにその特性を引き出せるATを持つD4に試乗して、クルマはエンジンの個性でどうにでも印象が変わるということを、あらためて感じさせられた。
(文=桂 伸一/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ボルボS60 D4 R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4250rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:20.9km/リッター(JC08モード)
価格:529万円/テスト車=574万2000円
オプション装備:電動ガラスサンルーフ(17万7000円)/クリスタルホワイトパールペイント(10万3000円)/パークアシストパイロット+パークアシストフロント(5万2000円)/プレミアムサウンドオーディオシステム/マルチメディア(12万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:263.0km
使用燃料:22.2リッター
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)

桂 伸一
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